fc2ブログ
内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 英雄/テロリスト図鑑:李奉昌
2007-01-25 Thu 08:15
 『SAPIO』2月14日号が発売になりました。僕が担当している連載「世界の『英雄/テロリスト』裏表切手大図鑑」では、今回は、1932年1月の桜田門事件から75周年ということで、事件の犯人、李奉昌を取り上げてみました。(画像はクリックで拡大されます)

 李奉昌

 韓国では“独立闘争の義士”として教科書にも登場する李奉昌は、朝鮮の京城府龍山の李鎮球の次男として1900年に生まれました。

 李の社会人としてのキャリアは、1919年に朝鮮鉄道局に人夫として就職したところから始まります。朝鮮鉄道局では、龍山駅操車課に勤務していたのですが、女好きで麻雀にはまって借金を作り、1924年4月、退職金欲しさに辞職しています。

 退職金も底を尽きて生活に困った1925年11月、李は大阪に渡り、木下昌一を名乗ってガス工事の作業員になりました。その後は、1930年3月に上京し、松井和夫という日本名を名乗って漬物屋に就職した後、はやくも7月には本郷のかばん店に転職。しかし、このカバン店から11月末に売上金240円を盗み、年末のどさくさに紛れて上海へ高飛びしてしまいました。

 上海での李は、持ち逃げした金がなくなると、蓄音器のセールスマンになるのですが、薄給の新米セールスマンが東洋一の歓楽街・上海で飲む・打つ・買うの三拍子揃った生活を送っていれば経済的に破綻するのは誰の眼にも明らかで、またもや、彼は生活に窮します。

 金に困っていた李は、どこでどうやって調べたのか、1931年に韓人愛国党(独立運動の地下組織)の事務所を訪れ、昭和天皇の暗殺を申し出て武器と資金を受け取り、同年12月に氷川丸で神戸に渡りました。船中での李は、あいかわらず、麻雀をしながら女の話ばかりしていたそうです。

 日本に上陸した後は、韓人愛国党から受け取った金で大阪市内の木賃宿に泊まりながら、カフェーや遊郭を遊び歩く日々を過し、12月22日に上京。その後は浅草の尾張屋旅館に宿泊し、またもや、遊蕩三昧の生活をしていました。

 この間、新聞で昭和天皇の車列が1月8日の正午前に桜田門外を通ることを知った李は、犯行の前々日、たまたま知り合った憲兵・浅山昌一からもらった名刺を悪用して、警備を突破し、昭和天皇の車列に手榴弾を投げつけたというわけです。

 もっとも、李は昭和天皇の車と宮内大臣の車を勘違いし、宮内大臣の車に手榴弾を投げつけ、近衛騎兵の馬も軽症を負っただけで、天皇は無事でした。

 当然のことながら、李はその場で現行犯逮捕され、大逆罪で9月30日に死刑判決を受けて10月10日に東京の市谷刑務所で処刑されています。

 このように、事件にいたるまでの李奉昌の人生をたどってみると、行き当たりバッタリの転落人生を送ってきた人物が自棄になってテロ事件を起こしたようにしか僕には思えません。かの国の学校教育では、「李奉昌のような人物になりなさい」と教えているのでしょうが、女と麻雀に明け暮れて借金まみれになれとは、僕が教師だったら口が裂けても言えませんけどねぇ。
スポンサーサイト




別窓 | 韓国:盧泰愚時代 | コメント:2 | トラックバック:0 | top↑
<< 期限切れ | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  切手で世界旅行:ロンドン>>
この記事のコメント
#491
始めまして、SAPIOの記事をいつも興味深く読んでいます。さて、そこで質問なのですが、先生はこれらの歴史上の人物の経歴を、どのようにして調べているのですか?
2007-01-28 Sun 22:31 | URL | songbird #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 ・songbird様

 はじめまして。いつもありがとうございます。

 基本的に、人物の経歴などについては、まずネットでおおよそのことを調べておいて、そこから、活字になっている資料にあたるという作業をしています。

 今回の李奉昌に関しては、ネットにもいくつか詳しいページがありましたので、その情報をベースに、当時の新聞記事や各種の研究書、ノンフィクション作品(たとえば、児島襄『天皇』等)から拾った情報をつき合わせて原稿を作りました。まとまった研究書や伝記を探せれば、話は簡単だったのですが…。

 孫文やサダム・フセイン、吉田松陰のように、詳細な伝記が残されている場合は、基本的にそれらに依拠しています。ただし、伝記では、「悪いのは社会であって彼らではない」というスタンスで書かれていることが多いので、それらを読み直す作業は欠かせませんが…。

 なお、謎の多い金正日については、以前、『北朝鮮事典』という本を作ったときの“貯金”を活用しました。

 僕の知識は、どうしても、“広く浅く”の概説・概論の域を出るものではありませんので、専門家の方からみると思わぬ間違いなどもあるかもしれませんが、そのような場合には、ご指摘いただけると幸いです。

 これを機会に、今後ともよろしくお付き合いください。
2007-01-29 Mon 01:35 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/