内藤陽介 Yosuke NAITO
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 捕鯨文化礼賛の濠領切手
2014-03-31 Mon 22:57
 反捕鯨国のオーストラリアが、日本による南極海での調査捕鯨は国際捕鯨取締条約に違反するとして中止を求めた訴訟で、国際司法裁判所のトムカ裁判長は、きょう(31日)、日本の調査捕鯨は「研究目的ではない」と述べ、条約違反と認定、今後実施しないよう命じました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

       ノーフォーク・鯨製品

 これは、2010年、オーストラリア領ノーフォーク島で発行された“捕鯨の歴史”の切手のうち、ランプをともす鯨油や鯨肉の缶詰、鯨の骨の細工物など、鯨を使った製品を取り上げた切手です。

 ノーフォーク島はオーストラリアの東に位置する島で、1774年にジェームズ・クックが発見し、ノーフォーク公爵の名に因んで命名されました。当初は無人島でしたが、後に、オーストラリアのニューサウスウェールズとともにイギリスの流刑殖民地となりましたが、1913年、オーストラリア連邦政府が管理する特別地域になりました。

 なお、周辺の海域は大型鯨類の回遊ルート上にあることから、第2次大戦後の1962年まで、捕鯨基地として利用されていた歴史があり、そのことが、今回ご紹介のような切手の発行につながりました。

 さて、ノーフォーク島でも捕鯨が行われていた1960年代以前の“鯨の保護”は、現在の環境保護派とはその動機が根本的に異なっています。

 日本以外の国は、基本的に、鯨肉を食用としていませんでしたから、彼らにとっては、捕鯨とはあくまでも鯨油を採取するための手段でしかなく、鯨油価格の動向こそが最大の関心事でした。それゆえ、“鯨の保護”には、捕鯨産業を維持するために鯨の乱獲を制限すると同時に、鯨油の生産過剰による値崩れを防ぐという意味もありました。じっさい、1948年に発足した国際捕鯨委員会(IWC)も、当初は、鯨油価格維持のための国際カルテルという性格が強かったのです。ちなみに、19世紀には主として照明用に用いられていた鯨油は、第二次大戦後は、低温でも凍らず、高温でも粘性を失わない特性を活かして、自動車や飛行機の潤滑油あるいは潜水艦用の不凍液が主たる用途になりました。米国がながらく世界一の捕鯨国であったのも、このためです。

 しかし、1960年前後から、潤滑油や不凍液は化学合成によって安価で高性能の商品がつくられるようになり、西側世界での鯨油価格は暴落。鯨油採取のみを目的とした捕鯨業者は相次いで廃業に追い込まれることになりました。

 ところが、1970年代に入ると、いわゆる環境保護運動が社会的な影響力を持つようになってきます。彼らは、鯨類資源の枯渇した状況を“人類による環境破壊のシンボル”として、「鯨を救え」とする運動を展開。このため、彼らの活動が盛んな米国やオーストラリア、ニュージーランドなどでは、国内法で鯨類製品の輸入を禁止する規制が導入されました。ただし、これらの国では鯨肉を食用とされていなかったため、この規制は国内産業になんら影響を及ばすものではなく、あくまでも象徴的なものでした。

 一方、1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議で、商業捕鯨の10年モラトリアムが提案されたことで、日本の食糧市場がにわかに注目を集めるようになります。それまでのように、日本が鯨肉で国民の蛋白源をまかなえなくなれば、その代わりの蛋白源の市場が経済大国・日本に生まれるからで、この市場は、オーストラリアやニュージーランドの牛肉や羊肉の生産者にとって非常に魅力的なものと映りました。

 かくして、鯨が以前とは全く異なる政治的・経済的な意味を持つようになると、1976年、非捕鯨国はIWCに再加盟します。ただし、この時点では、オーストラリアなど世界有数の畜産国が、捕鯨は残酷だが、牛や羊の屠殺は認められるという荒唐無稽な主張を政府として支持していたわけではありません。

 ところで、この頃、それまで反核運動を活動の中心に据えていたグリーンピースは“広くさまざまな自然保護問題について行動する組織”へと脱皮すべく、反捕鯨運動に接近。1975年以降、捕鯨船の前にゴムボートを繰り出して捕鯨を妨害するというキャンペーンを開始します。環境NGOの活動はエスカレートし、農水産省や政府関係者に対して、左派系の教員や活動家が児童生徒を動員して「鯨を救え」と題する抗議文書を大量に送り付け、業務を妨害するという戦術を展開。こうした恫喝に屈したり、あるいは、そのプロパガンダに洗脳される国民の多かった国々は、急速に反捕鯨国として過激化していったわけです。

 なお、オーストラリアが執拗なまでに日本による南氷洋の捕鯨に反対する背景には、かの国にとっては、オーストラリア連邦の結成以来、オーストラリアは常に日本を恐れ日本の脅威を取り除くことに最大の関心を払ってきたという事情があった(ある)ことも見逃してはなりません。

 実際に日本が戦争によって壊滅的な打撃を受け、去勢されたといっても過言ではないほどまでに徹底して武装解除された後でさえ、いずれ「優秀な日本人」は復興を果たし、再び自分たちにとって深刻な脅威となるはずだというのが、おそらく、日本との苛烈な戦争を戦った経験を持つオーストラリア人たちの共通認識でした。わずか数年前のダーウィン空襲はオーストラリア北西のティモール海を飛び立った日本軍機によるものでしたが、南氷洋捕鯨に出漁する日本船(しかも、旧海軍の元軍艦が使われていました)の航路は、オーストラリア大陸により接近したものとなることは確実です。

 このため、日本の船が自国の近海を通過することに強い恐怖感を覚えたオーストラリアは、1946年の時点で、戦時賠償として日本の捕鯨母船を没収しようという、どう見ても無理な主張を持ち出して、なんとかして日本の捕鯨再開を妨害しようとしています。

 結局、この件に関しては、西側世界の盟主にして、日本占領を実質的に仕切っていた米国が「(日本の捕鯨再開に)反対する国は日本向けに1000万ドルの食糧援助をしてもらいたい」と一喝したことで決着。オーストラリアも矛を収めざるを得ませんでした。

 いずれにせよ、今回ご紹介の切手は、オーストラリア本国ではないにせよ、オーストラリア領内で、つい最近、2010年に発行されたものです。グリーンピースなどの環境テロリストたちが主張するように、捕鯨が真に恥ずべき行為であるのなら、オーストラリア領ノーフォーク島の名において発行される切手に、いくら過去の出来事とはいえ、このようなデザインが採用されるはずはありません。したがって、こうした切手が発行されることじたい、彼らの反捕鯨論には、感情論はともかく、客観的で説得力のある根拠がなにもないことを、彼ら自身も内心では分かっていることの証左といってよいでしょう。

 なお、今回の国際司法裁判所の決定について、日本政府は「残念であり、深く失望している」としつつ、判決には従うとの官房長官談話を発表しましたが、それならばなおさら、我々国民は、反捕鯨国とその主張がいかに理不尽なものであるかを忘れてはなりますまい。


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