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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ジャニス・ジョプリン没後50年
2020-10-04 Sun 01:54
 伝説の女性歌手、ジャニス・ジョプリンが1970年10月4日に亡くなってから、ちょうど半世紀になりました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      米・ジャニス・ジョプリン(2014)

 これは、2014年に米国が発行したジャニス・ジョプリンの切手です。切手の元になった写真は、彼女の死後発売された2枚組のアルバム『イン・コンサート』のジャケットに用いられたもので、写真家のデイヴィット・ガーが1970年に撮影したものです。なお、アルバムのジャケット写真はモノクロですが、切手では、サイケデリックな時代のイメージに合わせた色彩にアレンジされています。

  ジャニス・ジョプリンは、1943年1月19日、テキサス州ポート・アーサーで、テキサコの労働者の家庭に生まれました。幼い頃から絵を描くのが好きで、地元の聖歌隊にも参加していたものの、テキサスの保守的な土地柄に馴染めず、孤独な少女時代を過ごしました。死の数カ月前、歌手として成功を収めていたジャニスが高校の同窓会に出席した際の映像が残されていますが、そこには、疎外感を感じ、常に孤独な表情だった姿が収められているのは、彼女の過去を象徴する出来事として有名です。

 地元のトマス・ジェファーソン・ハイスクールに在学中、友人からレッドベリーのレコードを聴かされたのを契機に、ブルースやフォーク・ミュージックにのめり込み、テキサス大学オースティン校など複数の学校を転々としたものの最終的にドロップアウト。1963年にサンフランシスコに向かい、当初はフォーク・シンガーとして生計を立て、次第にベッシー・スミスを中心に黒人音楽に傾倒していきました。なお、当時のサンフランシスコはヒッピー文化の中心地のひとつで、彼女のヘロインや覚醒剤などの常習もこの時期に始まったといわれています。

 その後、静養のためにポート・アーサーへ一時帰郷したものの、1966年には再びサンフランシスコへと戻り、女性シンガーを探していたビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(BBHC)に参加。バンドはインディズのメインストリーム・レコードと契約し、1967年にバンドの名を冠したアルバムを発表します。しかし、このバンドは彼女の歌唱力を活かしきれなかったこともあり、全米チャート60位になったものの、商業的には成功しませんでした。

 翌1967年6月、ジャニスはBBHCはモンタレー・ポップ・フェスティヴァルに出演。ジャニスは女性ブルース歌手ビッグ・ママ・ソーントンの「ボール&チェイン」を熱唱し、その圧倒的なパフォーマンスで大観衆に衝撃を与えました。ちなみに、同フェスは、ジミ・ヘンドリックスとオーティス・レディングも出演しており、ロック史に残る伝説の一つとなりました。

 モンタレーでの演奏を機に、ジャニスとBBHCは大手レコード会社のCBSと契約。CBSは、ジャニスと彼女のバンドは、スタジオ録音よりもライヴ向きであることから、1968年9月、ニューヨークとサンフランシスコでのライヴで構成されたアルバム『チープ・スリル』をリリース。前述の「ボール&チェイン」のほか、アーマ・フランクリンのカバー「ピース・オブ・マイ・ハート」、ガーシュウィンのスタンダード「サマータイム」などの名演で歌手としての地位を確立。アルバムは8週連続全米1位の大ヒットとなり、シングル・カットされた「ピース・オブ・マイ・ハート」も12位のヒットとなります。

 その後、ジャニスの才能とバンドの演奏力とのギャップもあり、1968年12月1日、サンフランシスコ・アヴァロンでのステージを最後にジャニスはBBHCを脱退。その後、ジャニスはBBHCのギタリスト、サム・アンドリュースを中心にジャニス・ジョプリンズ・レヴューを結成しますが、同月から開始された全米ツアーの最中にもメンバーが続々と替わり、バンド名もさまざまに変更されるなど安定しませんでした。こうした状況の中で、歌手としての成功とは裏腹に、バンドが安定せず、男性の愛に飢えていたジャニスは次第にとドラッグに溺れていくことになります。

 1969年11月、初のソロ・アルバム『コズミック・ブルースを歌う』をリリース。このアルバムは全米最高位5位を記録するヒットとなり、ウッドストック・フェスティバルにも出演しましたが、すぐに解散。その後、1970年にジャニスは2人のキーボードを加えた編成の新バンド、フル・ティルト・ブギー・バンド(FTB)を結成し、アルバム『パール』のレコーディングを進めます。このバンドについて彼女は「グループのことで今までに、こんなに幸せな気分にされたことってない」と語り、また、私生活でも婚約するなど充実した生活を送っていました。

 しかし、アルバムのレコーディングが進められていた1970年10月4日、スタジオに彼女が来ないことを不審に思ったマネージャーのジョン・クックが、彼女の宿泊先であるハリウッドのランドマーク・モーター・ホテル105号室を訪ねたところ、封の切られていない煙草のマルボロ1箱と4ドル50セント(煙草を買った釣り錢とみられています)を握った状態で、ベッド横の床に倒れ死亡しているジャニスを発見。死因は、高純度のヘロインを過剰摂取したことによる中毒死とみられています。なお、遺体は火葬され、遺灰は10月13日カリフォルニア州マリン郡スティンソン海岸沖の上空から太平洋へと散骨されました。

 なお、ジャニスの死に伴い、アルバム『パール』は、ビートニク詩人のマイケル・マクルーア、ボブ・ニューワースとともに書いた「ベンツが欲しい」はアカペラ(伴奏なし)、そして「生きながらブルースに葬られ」は伴奏のみ(本人の歌なし)の仮録音のままで、ジャニス没後の1971年1月に遺作として発表され、ングル「ミー・アンド・ボビー・マギー」、アルバムともに全米1位を記録。特にアルバムの方は9週連続で1位で、ジャニス最大のヒット作となりました。

 ちなみに、今回ご紹介の切手の元になった写真をジャケットに採用したアルバム『イン・コンサート』は、1972年に未発表ライヴ音源を集めて発表されたもので、1枚目がBBHC時代の演奏、2枚目がFTB時代の演奏で構成されています。


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 武蔵野大学の生涯学習講座で、「切手と仏像」と題して4回に分けてお話しします。配信期間は8月26日から10月6日まで。お申し込みなどの詳細はこちらをご覧ください。皆様、よろしくお願いします。


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 出版社からのコメント
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 佐藤琢磨、インディ500で優勝
2017-05-29 Mon 10:36
 モナコグランプリ、ル・マン24時間レースとともに世界三大レースの一つとされる米国の第101回インディアナポリス500マイル(以下、インディ500)の決勝が、現地時間28日午後(日本時間29日未明)、米インディアナポリスのインディアナポリス・モータースピードウエーで行われ、元F1ドライバーの佐藤琢磨が日本人として初優勝を果たしました。というわけで、今日はこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      米・インディ500

 これは、2011年5月20日に米国で発行された“インディ500・100周年”の記念切手で、1911年の第1回の優勝者、レイ・ハルーンが、黄色と黒のマーモン“ワスプ”(優勝マシン)で疾走する場面が描かれています。

 インディ500の決勝レースは、毎年、米国のメモリアル・デイ(5月の最終月曜日)の前日の日曜日、インディアナ州のインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)のオーバルトラック(500マイル:804.672km)で行われます。IMSは世界で初めて“スピードウェイ”の名を冠したサーキットで、当初のコースはアスファルト舗装ではなく、レンガが敷かれていたため“ブリック・ヤード”と呼ばれていました。その名残は現在でも残されており、スタートラインには1ヤード(0.9144m)だけ、特殊加工されたレンガが敷かれています。

 また、第1回のインディ500が行われた1911年当時は、ドライバーに加えて、メカニックがマシンに同乗し、走行中の故障やパンクの修理、後方や側方のマシンの動向を監視等を行っていましたが、ルイ・ハルーンはメカニックを乗せずに一人で運転していました。このため、他のドライバーから周囲が確認できないのは危険であると指摘され、バックミラーをつけて対応。これが、レーシングカーにバックミラーが付けられた最初の事例で、フィル・ジョーダンのデザインした切手にもそうした特徴がしっかりと描かれています。

 ちなみに、日本人ドライバーがインディ500で優勝したのは今回の佐藤琢磨が最初ですが、エンジンサプライヤー(エンジン製造者)としては、トヨタ(2003年)とホンダ(2004年-2012年、2014年、2016年-2017年)が、それぞれ優勝を記録しています。


 ★★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史” 次回 は1日! ★★★ 

 6月1日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第3回目が放送予定です。今回は、5月26-27日にG7サミットが行われたシチリアにスポットを当ててお話をする予定です。みなさま、よろしくお願いします。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。

 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 

      朝鮮戦争表紙(実物からスキャン) 本体2000円+税

 【出版元より】
 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る!
 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

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 米新大統領にトランプ氏
2016-11-10 Thu 18:35
 米国の大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補を破って当選を果たしました。というわけで、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      米・トランプ当選記念カバー

 これは、きのう(9日)のトランプ勝利を受けて、クリントンをノックアウトするトランプのイラストが描かれた封筒に、切手を貼って消印を押した記念品です。消印は11月9日付のモンタナ州ドラのモノですが、モンタナ州でのトランプの勝利が確定したのが現地時間の8日20時、主要メディアがトランプ当確を報じたのが同9日0時頃ですから、朝一番で郵便局に行って消印を押して作って、販売サイトに出品したのでしょう。仕事が早いですな。 

 さて、今回のトランプの勝利については、さまざまな要因が挙げられますが、米国の言論空間ではあまりにもリベラルが強く、そのあまりにも極端な主張(たとえば、議長を“チェアマン”と呼ぶのは男女差別なので“チェアパーソン”と呼ばねばならない、“メリー・クリスマス”は非キリスト教徒に配慮して“ハッピー・ホリデー”と言い換えなければならない、など)に対して、善男善女が彼らの“常識”に照らして疑義を呈することさえ、“差別”として糾弾されかねないという現状に対する不満があったことは間違いないでしょう。

 たとえば、今回の選挙戦を通じて、トランプに対しては、移民排斥の差別論者という非難がしきりに浴びせられましたが、トランプの移民政策の主張を冷静に検証してみると、彼が「すべての移民を排斥しろ」と主張したことはなく、あくまでも、「不法移民がいけない」としか主張していません。

 そもそも、移民を受け入れるには、犯罪者やテロリストが紛れ込まないように、きちんとチェックする体制がなければならないし、仮に真面目な働き者であっても、不法な手段で入国するのは、法律に則って移民しようとする人々に対してアンフェアである。不法移民をコントロールできないということは国境を守れないということであり、自国の国境を守れないということは国家としての最低限の要件を満たしていない。また、不法移民を黙認し続けてきた結果、(不当・不法で)安価な労働力が流入し、一般の米国市民の賃金を低下させ、失業率を上昇させた。したがって、米国民のために、きちんと機能する移民制度が必要なのだ・・・

 移民問題についてのトランプの主張を要約すると、上記のようになります。

 じっさい、メキシコを中心としたラテン・アメリカからの不法移民・不法滞在者は、現在、米国内に3000万人以上いると推定されており、それに伴い、犯罪者やテロリストの数も急増して刑務所は常に満杯状態です。さらに、不法滞在者であっても、人道上の理由から、病院で無償の診療を受けることができるほか、その子供は教育を受ける権利が与えられ、自治体によっては自動車の運転免許を取得することができます。そして、彼らの社会保障に対して莫大な額の税金が投入され、そのことが、フツーに働いてフツーに税金を納めている善男善女の不満となっていますが、米国内でそうした不満を口にすると“差別主義者”とのレッテルを貼られるのが実情です。また、経済界も、安価な労働力としての不法移民・不法滞在者を重宝しているので、実際には、不法移民の問題については見て見ぬふりをし続けており、既存の政治家の多くも票田を失うことを恐れて、この問題をタブー視してきました。

 じっさい、そうした既存の体制に乗っかった“エスタブリッシュメント”の象徴ともいうべきクリントンは、選挙期間中、シリアからの難民の受け入れを550%増やすと主張していましたが、ここの難民の入国の適格性を審査する方法については一言も触れていません。

 こうした背景があるがゆえに、リベラル色の強い大手メディアや“知識人”がトランプの移民政策を“人種差別”と糾弾すればするほど、現実の社会の中で生活している善男善女の反発が鬱積し、そのことがトランプの勝利につながったという構図がつくられることになりました。

 いずれにせよ、今回のトランプの勝利は、英国のEU離脱に続き、第二次大戦後の西側世界の言論空間を覆っていた“(エリートの)リベラル”に対して、善男善女の“常識”がNOを突きつけたという面は確実にあるわけで、世界史的な文脈では、来年のフランス大統領選挙とセットで考える必要があるかもしれません。

 なお、今回の記事の制作にあたっては、江崎道朗先生の『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』を参考にしましたが、同書については、チャンネルくららの番組で僕もゲストで読んでいただき、じっくりご紹介したことがありますので、よろしかったら、こちらをクリックして動画をご覧いただけると幸いです。


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 11月17日(木) 10:30-12:00 
 毎日文化センターにて、1日講座、ユダヤとアメリカをやりますので、よろしくお願いします。(詳細は講座名をクリックしてご覧ください) 
  

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 オリンピック開催地の意外な深さをじっくり紹介
 リオデジャネイロの複雑な歴史や街並みを、切手や葉書、写真等でわかりやすく解説。
 美しい景色とウンチク満載の異色の歴史紀行!
 発売元の特設サイトはこちらです。

 * 8月6日付『東京新聞』「この人」欄で、内藤が『リオデジャネイロ歴史紀行』の著者として取り上げられました!

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 無事帰国しました。
2016-06-06 Mon 19:22
      ニューヨーク展・APSメンバーと

 さきほど、本日(6日)夕方、無事、ニューヨークから帰国いたしました。現地では、世界切手展<NEW YORK 2016>日本コミッショナーの吉田敬さん、アシスタント・コミッショナーの池田健三郎さん、菊地恵実さん、出品者の井上和幸さん、斉藤環さん、田村邦彦さん、長谷川純さんをはじめ、多くの方々にいろいろとお世話になりました。お世話になった全ての方々に、この場をお借りして、あらためてお礼申し上げます。

 冒頭の写真(以下、記事中の画像はすべてクリックで拡大されます)は、一般社団法人・全日本郵趣連合理事の井上和幸さん(右から2人目)、斎藤環さん(写真撮影に回っていただいたため、残念ながら写真には写っていません)と3人で、切手展実行委員長のウェイド・サーディ氏(中央)、スティーヴン・ロッド氏(左から2人目)らとの会談後に撮影したものです。今回の現地での会談は、今後の郵趣界にも大きな影響を及ぼす内容となり、大変に実りのあるものとなりました。その具体的な成果につきましては、数ヶ月以内には公表できると思いますので、どうぞご期待ください。

 さて、現地では、今回の切手展を記念して会期初日(5月28日)に発行された切手のシートを買ってきました。(下の画像)

       米・ニューヨーク展シート

 切手のデザインは、19世紀の切手や紙幣に用いられていたクラシックな彩紋のパターンを再現したもので、裏面には、赤と青の組み合わせの例として、こんな図も印刷されていました。

        米・ニューヨーク展シート裏面

 切手や紙幣などに用いられる彩紋の印刷には、歯車を組み合わせて複雑な幾何学模様の原版彫刻を行う“彩紋彫刻機”が不可欠ですが、この機械は、19世紀初頭に発明されました。切手のデザインとしては、1843年にブラジルで発行された“牛の目”の切手が、その特徴を活かした名品として有名です。

 彩紋彫刻機のルーツについては、1810年にスイス生まれのヤーコブ・デーゲンが発明した“guillochiermaschine”とする説と、1812年に米国で特許を取得したエイサ・スペンサーの“geometrical lathe”とする説があります。両者の接点やその発明内容の異同については良くわかっていませんが、どちらももともとは時計職人で、時計の文字盤などに装飾模様を彫刻する“ローズ・エンジン”に改良を加えて紙幣の原版彫刻に応用し、偽造防止に役立てるという点では共通しています。

 さて、この発明に即座に目をつけたのが、後に、世界最初の切手ペニーブラックの製造に深くかかわってくるジェイコブ・パーキンスでした。

 パーキンスは、1766年、北米マサテューセッツのニューベリーポート生まれ。10代の頃は鍛冶職人として修業を積んでいましたが、その腕を見込まれて21歳の時にマサテューセッツ造幣局に雇われ、コインの原版彫刻を担当します。

 その後、爪切りから大砲の製造までさまざまな機械製作に携わっていましたが、凹版彫刻用の鋼材を開発したのを機に、彫刻家のギデオン・フェアマンと共に印刷所を創業し、1809年、学校の教科書の印刷を始めました。

 フェアマンが原版を彫刻した挿絵の教科書は、当時としては画期的なもので大いに評判となったことから、パーキンスは印刷事業に本腰を入れるようになります。その一環として、パーキンスは、スペンサーから彩紋彫刻の特許を買い取っただけでなく、スペンサー本人を雇い入れて、彩文彫刻を施した紙幣の製造に着手しました。

 一方、当時の英国では偽造紙幣の横行が深刻な社会問題となっており、英国政府は、1819年、賞金2万ドルを掲げて“偽造不可能な紙幣”を公募します。

 この機会をとらえて、パーキンス、フェアマン、スペンサーの3人は渡英し、ロンドンのオースティン・フライヤーに彫刻凹版印刷にも対応可能な印刷所、パーキンス・アンド・フェアマン社のオフィスを構え、王立協会会長のジョゼフ・バンクス卿をはじめ、関係各方面に自分たちの試作品を売り込み、高い評価を得たのです。

 ところが、パーキンスらの試作品は、品質面では文句なく他を圧倒していたにもかかわらず、ジョゼフ・バンクス卿は、“偽造不可能な紙幣”を作るのはイングランドの出身でなければならないと頑なに主張しており、そのままでは、“外国人”であるパーキンスらが紙幣製造を受注するのは困難でした。

 そこで、パーキンスは、当時、英国を代表する凹版彫刻家であり、出版業者でもあったチャールズ・ヒースを共同経営者として迎え入れ、1819年12月、フリート・ストリートにパーキンス・フェアマン・アンド・ヒース社を開業しましたが、ほどなくしてフェアマンがパーキンスらと袂を分かったため、パーキンス・アンド・フェアマン社として“偽造不可能な紙幣”を製造することになります。

 ここに、1823年、彫刻家のヘンリー・ペッチが入社。さらに、1829年5月、パーキンスの二女と結婚したジョシュア・バタース・ベーコンが共同経営者となったことで、彼らの印刷所はパーキンス・ベーコン社に社名を変更。1834年にはペッチも共同経営者に名を連ねるようになったことで、後に、ペニー・ブラックの印刷を請け負うことになる“パーキンス・ベーコン・アンド・ペッチ社”が誕生しました。

 その意味では、米国人こそがペニー・ブラックを作ったとも言いうるわけで、今回の切手に、19世紀米国の彩紋のデザインが取り上げられたというのも故なきことではないわけです。

 なお、このあたりの事情については、拙著『英国郵便史 ペニー・ブラック物語』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。

 
 ★★★ アジア国際切手展<CHINA 2016>作品募集中! ★★★

 本年(2016年)12月2-6日、中華人民共和国広西チワン族自治区南寧市の南寧国際会展中心において、アジア国際切手展<CHINA 2016>(以下、南寧展)が開催されます。同展の日本コミッショナーは、不詳・内藤がお引き受けすることになりました。

 現在、出品作品を6月12日(必着)で募集しておりますので、ご興味がおありの方は、ぜひ、こちらをご覧ください。ふるってのご応募を、待ちしております。

 ★★★ 内藤陽介の新刊  『ペニー・ブラック物語』 のご案内 ★★★ 

       ペニーブラック表紙 2350円+税

 【出版元より】
 若く美しい女王の横顔に恋しよう!
 世界最初の切手
 欲しくないですか/知りたくないですか

 世界最初の切手“ペニー・ブラック”…名前は聞いたことがあっても、詳しくは知らないという収集家も多いはず。本書はペニー・ブラックとその背景にある歴史物語を豊富なビジュアル図版でわかりやすく解説。これからペニー・ブラックを手に入れたい人向けに、入手のポイントなどを説明した収集ガイドもついた充実の内容です。

 発売元の特設サイトはこちら。ページのサンプルもご覧いただけます。


 ★★★ 内藤陽介の新刊  『アウシュヴィッツの手紙』 のご案内 ★★★ 

       アウシュヴィッツの手紙・表紙 2000円+税

 【出版元より】
 アウシュヴィッツ強制収容所の実態を、主に収容者の手紙の解析を通して明らかにする郵便学の成果! 手紙以外にも様々なポスタルメディア(郵便資料)から、意外に知られていない収容所の歴史をわかりやすく解説。

 出版元のサイトはこちら。各書店へのリンクもあります。

 インターネット放送「チャンネルくらら」にて、本書の内容をご紹介しております。よろしかったら、こちらをクリックしたご覧ください。


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 ラスベガスの自由の女神
2011-04-18 Mon 17:35
 アメリカで昨年発行された切手に取り上げられた“自由の女神”が、ニューヨークの像ではなく、ラスベガスのホテルにあるレプリカの写真をもとにしたものであることがわかり、話題となっているそうです。というわけで、その切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

     自由の女神

 これは、アメリカで昨年(2010年)12月1日に発行された(ただし、切手には2011と表示されています)ファースト・クラス(いわゆる普通郵便)用の切手で、現在でも44セントで発売されています。また、左側に“FOREVER”と表示されているように、料金が値上げされても、永久にファースト・クラスの郵便に使うことができます。切手は上下が無目打のシール式で、自由の女神と星条旗が交互に印刷された連刷形式で、左右の目打については、81/2、91/2、11の3種があります。

 さて、今回の切手では、自由の女神の王冠や目がニューヨークの像と違うそうですが、比較のために、同じように女神の顔の部分を大きく取り上げた1978年のアメリカ切手の画像をご覧いただきます。

      自由の女神(1978)

 2010年の切手に取り上げられた女神像は、おそらく、ラスベガスのホテル、ニューヨーク・ニューヨークの正面に置かれているものでしょうが、同ホテルの開業は1997年ですので、1978年に発行された切手にとりあげられているのは、ニューヨークの女神像と断定して間違いないでしょう。

 両者を比較してみると、たしかに、ニューヨークの像では王冠の下の部分に縦の筋が入っているのに対して、ラスベガスの像では筋が入っていません。また、王冠部分の窓のかたちも微妙に異なっているようですし、目の雰囲気もたしかに違っています。

 ちなみに、USPS(アメリカ郵便公社)によると、問題の切手は既に30億枚印刷されており、今後、回収の予定はないそうです。したがって、今後、この切手が“お宝”になる確率は限りなくゼロに近いといえそうです。やまぁ、一獲千金を夢見るのなら、切手に取り上げられた女神像を見にラスベガスへ行くほうが近道ということなんでしょうな。


 * 本日午後、カウンターが84万PVを超えました。いつも、遊びに来ていただいている皆様には、この場をお借りして、あらためてお礼申し上げます。

  ★★★ イベントのご案内 ★★★

     切手百撰ポスター(小)

 以前の記事でも少しお話ししましたが、4月25日付で平凡社から拙著『切手百撰 昭和戦後』を上梓いたします。これにあわせて、下記のイベントに登場します。

 ・4月30日(土) 15:00- 出版記念トーク
 於 東京・浅草 都立産業貿易センター台東館6階特設会場
 スタンプショウのイベントの一つとして、出版記念のトークを行います。また、会場内で『切手百撰 昭和戦後』をお買い上げの方に、素敵なプレゼントをご用意しております。(画像は、会場内に掲示予定のポスターです。こちらもご覧ください)

 ・5月7日(土) 10:15- 切手市場
 於 東京・池袋 東京セミナー学院
 詳細は主催者HPをご覧ください。最新作の『切手百撰 昭和戦後』を中心に、拙著を担いで行商に行きます。

 どちらも入場無料ですので、ぜひ、遊びに来てください。


  ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★

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   マカオ紀行:世界遺産と歴史を歩く
       彩流社(本体2850円+税) 

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