郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 幻のガボン事件
 北海道洞爺湖サミット参加のため来日中のアフリカ連合(AU)のジャン・ピン委員長が、体調不良のため札幌市内の病院に入院したのだそうです。一日も早いご快復をお祈りいたします。

 というわけで、今日は委員長の出身国であるガボンがらみのネタとして、こんな1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

全斗煥・ガボン訪問

 これは、1982年8月、当時の韓国大統領・全斗煥がアフリカ歴訪の一環としてガボンを訪問したことを記念して発行された切手です。このときのアフリカ歴訪の記念切手では、今回ご紹介したガボンとケニア・ナイジェリア・セネガルの計4ヶ国について、全と各国首脳の2ショットの切手が発行されています。ちなみに、この切手に取り上げられているオマール・ボンゴ・オンディンバ大統領は、こんにちなお現職ガボン大統領です。

 1960年代以降、中ソ対立によって“自主外交”路線を歩まざるを得なくなった北朝鮮は、第三世界諸国に対する外交攻勢を強め、彼らを取り込むことで国際社会での立場を強化しようと考えます。具体的には、新興独立諸国に対して、軍事顧問団を派遣したり、国連加盟に際してのサポートを行うなどしたりする代償として、北朝鮮こそが朝鮮半島の正統政府であることを認めさせようという戦略です。こうした北朝鮮の第三世界外交は、当時、それなりに身を結び、アフリカ諸国の多くは、北朝鮮の“友好国”となっていました。

 1980年に発足した全斗煥政権は、経済力を背景に、こうした北朝鮮の第三世界外交に楔を打ち込み、北朝鮮に対する国際的なシンパを切り崩すべく、積極的なアフリカ外交を開始。その成果として、1982年5月には、リベリアの国家元首の訪韓を、さらに翌6月にはザイール(現コンゴ民主共和国)大統領の訪韓を実現させています。さらに、同年8月には、全斗煥自身が、ケニア、ナイジェリア、ガボン、セネガルを歴訪しました。

 これらの国々の元首と全斗煥が会談するたび、韓国郵政は両国元首の肖像と国旗をあしらった記念切手を発行。このため、一時期、韓国の切手はアフリカ一色となったかの観がありました。

 これに対して、北朝鮮は、それまでの“縄張り”であったアフリカ諸国が韓国の外交攻勢によって切り崩されていくことに深刻な危機感を感じ、その報復として、全斗煥のアフリカ歴訪の機会を捉えて彼の暗殺を計画します。

 その暗殺の舞台としては選ばれたのは、今回取り上げている切手のガボンでした。これは、全の訪問国のうち最も経済規模の小さかったため、万一、北朝鮮による犯行が露見して国交断絶となっても、影響も小さいと金正日が判断したためです。

 かくして、北朝鮮は、ザイールの北朝鮮大使館を拠点として、3名からなる暗殺チームを派遣。このうち、2名は、日本の偽造パスポートを持ち、日本語で会話するなどして、日本人の集団になりすまし、出入国記録に名前を残さないよう、外交特権を利用して、自動車でガボンに密入国しました。

 一味は、リモコン爆弾を利用して全を暗殺した後、首都リーブルビル近郊の港に停泊させていた特殊工作船・東建愛国号で脱出する手はずを整えていたようです。そして、暗殺の成功が確認されたら、朝鮮人民軍はただちに南侵する計画になっていたといわれています。

 ところが、大統領の暗殺と武力南侵により、アメリカとの全面対決が起こることをおそれたソ連共産党書記長のブレジネフが、暗殺計画に強硬に反対。また、金日成も、暗殺事件によりアフリカ全体を敵に回すことを懸念し、金正日を説得したため、計画は中止され、大事には至りませんでした。

 もっとも、翌1983年には北朝鮮はラングーンで爆破テロ事件を起こしており、ガボンでの計画中止は全斗煥暗殺計画の延期でしかなかったのですが…。

 なお、新刊の拙著『韓国現代史』では、こうした北朝鮮による対南工作についても、いろいろとご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご一読いただけると幸いです。

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アクセス数 (2005年6月1日〜)

プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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