郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 海金剛
 北朝鮮の景勝地、金剛山地区で韓国人の女性観光客が北朝鮮兵士に撃たれて死亡したそうです。というわけで、今日は、金剛山関係のマテリアルの中から、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 海金剛

 これは、1957年に韓国で発行された55ファン切手で、“海金剛”の景観が取り上げられています。中朝国境の白頭山とともに朝鮮を代表する名山とされる金剛山は、現在の行政区域でいうと北朝鮮の江原道にありますが、韓国としては、自分たちこそが朝鮮半島を代表する唯一の正統政府であり、本来、金剛山は自分たちのモノであるということをアピールするため、あえて、こうした図案の切手を発行したものと考えるのが妥当でしょう。

 さて、金剛山の領域は、東西40km、南北60kmとかなり広範なエリアに広がっており、大きく内金剛・外金剛・海金剛の3地域に区分されています。このうち、内金剛と外金剛の境界は、最高峰の毘盧(ビロ)峰がある中央連峰で、その西側が内金剛、東側が外金剛となっています。これに対して、東端の海岸部は海金剛と呼ばれています。今回の事件が起こった場所は金剛山の海岸ということですから、この切手に取り上げられている海金剛の地域ということになります。なお、日本の昭和切手(7銭)に取り上げられているのは、外金剛の萬物相と呼ばれる奇岩です。

 韓国からの金剛山観光は、この地域出身の鄭周永(現代財閥の創業者)が北朝鮮側に働きかけたことで、1998年11月から始まりました。当初、観光船は韓国側の江原道東海港を出航していましたが、2000年3月からは釜山港からの出航が始まります。その後、2001年7月以降は出航地は江原道・束草港に一本化されましたが、2003年9月以降、南北間の軍事境界線を直接越える陸路観光が本格的に行われるようになり、現在では陸路観光に一本化されています。

 当初、北朝鮮側は外金剛と海金剛の一部のみを観光区域としていましたが、昨年6月からは内金剛の観光も行われるようになりました。ただし、金剛山地域は軍事境界線に近いこともあって(“金剛山”の範囲を最も広くとると、その一部は韓国の領域にもかかることになります)、北朝鮮側は周辺の警備についてはかなり神経質になっています。

 今回の事件でも、北朝鮮側が現代峨山(金剛山観光を行っている韓国企業)に行った説明によると、亡くなった女性が観光区域の海岸にあるホテルから1人で砂浜を散策中、進入が禁じられている軍事保護施設区域に入ったため、見張りの兵士が停止を命じ、警告射撃を繰り返したにもかかわらず、女性が逃走したため、発砲したということですが、これが事実であるならば、(亡くなった女性には気の毒ですが)韓国人の“平和ボケ”もかなり進行しているということになるのでしょうかね。

 なお、朝鮮を代表する名山だけに、金剛山は韓国・北朝鮮の切手に何度となく取り上げられています。それらの切手には、さまざまな歴史的・社会的背景が隠されているのですが、そのあたりについては、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でも、いろいろと分析しておりますので、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

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アクセス数 (2005年6月1日〜)

プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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