内藤陽介 Yosuke NAITO
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 金正男、殺害される
2017-02-15 Wed 12:44
 北朝鮮の故金正日総書記の長男で、現在の最高権力者・金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏(以下、敬称略)、おととい(13日)、マレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害されていたことが明らかになりました。謹んでご冥福をお祈りします。というわけで、金正男がらみでこんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      北朝鮮・強勢大国の偉大な転換の年

 これは、1999年8月17日に北朝鮮が発行した「強勢大国建設の偉大な転換の年 主体88(1999)年」と題するプロパガンダ切手で、中央下部にコンピューターを操作する人物が描かれています。北朝鮮においてコンピューターを描く切手が発行されたのはこれが最初ではありませんが、“強勢大国”と結び付けた切手はこれが最初です。

 さて、金正男は、1971年、金正日と女優・成蕙琳の下に平壌で生まれました。スイス・ジュネーヴのインターナショナルスクールなどでの留学を経て、1988年、17歳でコンピュータ委員会委員長に就任し、1990年には、コンピュータ技術、IT技術のための国営の研究・開発機関(表の研究開発と並行して、監視、盗聴、ハッキングなど広範囲などの秘密活動も行う)である“朝鮮コンピューターセンター”の創設に関わったとされています。

 また、朝鮮人民軍内部では、1986年に米軍暗号解読のために100人規模の“サイバー軍(の原型)”が創設されていましたが、コンピューターセンター創設翌年の1991年、彼らが暗号解読と情報分析から湾岸戦争での米軍の攻撃開始の正確な時刻を的中させたことで、金正日はサイバー戦の重要性を認識。1996年には朝鮮労働党作戦部所属のコンピューター専門部隊が設立されました。金正男はコンピューター委員長として、これら一連の流れに深くかかわっています

 一方、切手に記されている“強勢大国”という語は、1998年8月22日付の『労働新聞』(朝鮮労働党の機関誌)に登場したもので、その内容としては、思想強国、政治強国、軍事強国、経済強国が挙げられています。この直後の同年8月31日、テポドン1号が打ち上げられ、“人工衛星”とコンピューターは“強勢大国”を象徴する科学技術の二本柱となりました。

 かつて金正日は、映画・演劇を通じたプロパガンダ工作で実績を上げ、金日成の信頼を得て後継者としての立場を固めて行きましたが、その過程で、金正日の肖像切手が発行されるずっと前から、北朝鮮では映画の切手を発行するようになっています。したがって、金正日と映画の関係に倣い、金正男の実績としてのコンピューターを切手に取り上げることで、金正日から金正男への権力継承が動き始めたことを表現していたとみることができます。

 なお、金正男は、2001年5月1日、金正男はドミニカ共和国の偽造パスポートを使用して、“胖熊”との偽名で入国を図ったところを、拘束・収容され(4日に事実上の超法規的措置で強勢強制)、以後、金正日の後継候補から脱落したとされています。

 ただし、この時点では、異母弟の金正哲(1981年9月生まれ)は19歳、金正恩(1984年1月生まれ)は17歳ですので、ただちに金正男が失脚したというわけでもなさそうです。その証拠に、事件から1年後の2002年5月2日には、「科学技術は強勢大国建設の推進力である」と題したプロパガンダ切手(下の画像)が発行されています。

      北朝鮮・科学技術は強勢大国建設の推進力である

 この切手では、1999年の切手に比べて、パソコンを操作する人物の姿がはるかに大きくなっており、“強勢大国”におけるコンピューターの重要性が、以前よりも高まっているとの北朝鮮の認識が表現されています。この時点で、金正男は依然としてコンピューター委員長の地位にとどまっていますから、まさに、切手のタイトルにある“強勢大国建設の推進力”(の一人)だったわけで、あえて事件から1年というタイミングでそうした切手が発行された背景には、そうした金正男の立場を擁護する(少なくとも、金王朝の有力者としての立場を完全に失っていたわけではなかったことを示す)意図がうかがえます。

 じっさい、2005年の時点でも、韓国の国家情報院は、金正男が国家保衛部を通じて保安及び防諜活動を行い、平壌の朝鮮コンピューターセンターを通じて北朝鮮内の海外通信を統制し、海外情報収集及びモニタリング活動をしており、韓国へのサイバー攻撃の黒幕は金正男と推定されるとの報告を上げています。

 なお、金正恩が金日成の後継者としての立場を固めたのは2007年頃のことで、2009年に行われたサイバー・テロは、金正恩指揮下の海外情報タスクフォースが主導したとされています。

 いずれにせよ、今回の事件により、金正男はその肖像が切手に取り上げられることのないまま亡くなったわけですが、一部の切手からは、彼の痕跡がほの見えるのが興味深いところです。


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