内藤陽介 Yosuke NAITO
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 試験問題の解説(2008年2月)-4
2008-02-05 Tue 12:50
 一昨日の記事でも書きましたが、昨日(4日)、僕が都内の某大学で担当している『中東郵便学』と題する授業の試験をやりました。今回は、切手を使った問題を3問出したのですが、そのうちの1つは、この記事を見ていただければポイントはお分かりいただけると思いますので、今日・明日で残りの2問についての解説を書いてみましょう。

 今日は、「この切手(画像はクリックで拡大されます)が発行された背景について説明せよ」という問題をとりあげましょう。

 エジプト・ガザ占領

 これは、1948年6月15エジプトが発行したガザ“到着”の記念切手です。

 1948年5月14日、パレスチナにおけるイギリスの委任統治が終了するのにあわせて、テルアビブの博物館でユダヤ国民評議会が開催され、イスラエル初代首相となったベングリオンが、「ユダヤ民族の天与の歴史的権利に基づき、国際連合の決議による」とするユダヤ人国家イスラエルの独立を宣言します。

 これに対して、歴史的にも、現実の人口という点でもパレスチナはアラブのものと主張し、シオニスト国家イスラエルの独立を認めない周辺のアラブ諸国(エジプト、トランスヨルダン、レバノン、シリア、イラク)は、イスラエルに宣戦を布告。こうして、イスラエルとアラブ諸国との第一次中東戦争が勃発しました。

 もっとも、イスラエルに宣戦布告したアラブ諸国には、純然たる“アラブの大義”のみから参戦したわけではなく、混乱に乗じて自国の権益を拡大しようという意図があったのは紛れもない事実です。このうち、エジプトは、開戦と同時に隣接するガザ地区を占領し、自国領に編入しています。そして、ガザがエジプトの支配下にあることを内外に誇示するため、占領当日の5月15日から、本国切手に英語とアラビア語で“パレスチナ”と加刷した切手(ただし、クリック先の画像は王制時代のモノではなく、革命後のモノですが)を発行して使用しています。このことは、エジプトが、第1次中東戦争の勃発を見越して、開戦後、ガザをただちに占領するプランを立てていたことをうかがわせるものといってよいでしょう。

 今回の記念切手もこうした文脈で発行されたモノで、当時のエジプトがガザ占領の正統性を国際社会(特にアラブ世界)に認知させるため、国家のメディアとしての切手を活用していたことがわかります。

 結局、第一次中東戦争は、1949年2月23日、イスラエルとエジプトの間で休戦条約が調印されたのを皮切りに、3月23日にはレバノンが、4月3日にはトランスヨルダンが、7月20日にはシリアが、それぞれ、休戦条約を調印。これら各国とイスラエルとの停戦ラインが事実上の“国境”となり、イスラエル国家の存在は実質的に認知されることで決着します。

 一方、旧英領パレスチナのうち、アラブ軍団(実質的にはトランスヨルダン)の占領下に置かれていたヨルダン川西岸地区では、現地の親ヨルダン派のパレスチナ人指導者が死海北西岸のイェリコで「パレスチナ・アラブ評議会」を開催。トランスヨルダン国王アブドゥッラーを“全パレスチナ人の王”とし、彼に対して西岸地区のトランスヨルダンへの併合を要請する決議を採択するという手続きを経て、休戦協定成立後の1949年6月、トランスヨルダンはヨルダン川西岸地区と東エルサレムを併合し、新国家“ヨルダン・ハーシム王国”の建国を宣言することになります。

 こうした戦争の結末は、その契機となった1947年11月の国連決議第181号と比べてみても、はるかに大きな犠牲をアラブ側に強いるものでした。

 すなわち、国連決議ではパレスチナを分割し、アラブ国家とユダヤ国家を創設することになっていましたが、アラブ国家は実際には創設されず、イスラエルのみが成立しました。また、エルサレムを国連の信託統治下に置くというプランも、東西エルサレムがイスラエルとヨルダンによって分割されることにより、実現されないままに終っています。さらに、こうした決着は、問題の当事者であるはずのパレスチナ人を無視して決められたことも、将来に禍根を残すことになりました。

 いずれにせよ、それぞれのアラブ諸国は彼ら自身の国益を考慮して動いているわけであって、そうした現実の前には、イスラエルのみならずアラブ諸国もパレスチナを抑圧する存在になりうるのだということは覚えておいて損はないでしょう。

 さて、試験の解答としては、①第一次中東戦争についての説明があるか、②混乱に乗じて、エジプトがガザを占領し、自国領として編入したことが説明できているか、③戦争の結果がパレスチナ人に多大な犠牲を強いるものであったことを説明しているか、といった点がポイントになります。
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