内藤陽介 Yosuke NAITO
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 “台湾切手”の命運やいかに
2008-03-23 Sun 22:20
 昨日(22日)、台湾では総統選挙が行われ、台湾独立を否定し、“中華民国”体制の現状維持を主張する国民党の馬英九が与党・民主進歩党(民進党)の謝長廷・元行政院長を破って当選。さらに、同時に行われた“台湾”名義での国連加盟ならびに国民党が提案した正式名称“中華民国”名義での国連復帰を問う2つの国民投票も不成立に終わりました。というわけで、今日はこの切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 台湾表示の切手

 これは、昨年(2007年)2月28日に発行された“228国家記念館”の記念切手で、切手の国名表示が“台湾”となった最初のものです。

 国共内戦に敗れて台湾に逃げ込んだ蒋介石の国民政府(国府)は“大陸反攻“を呼号し、みずからが中国を代表する正統政権であると主張していました。もっとも、この“中国”政府は、福建省沿岸の小島を除くと、中央政府と地方政府である台湾省政府の管轄が同じという異常な構造になっています。このため、台北への“遷都”早々、国府は台湾での“地方自治“を実施し、県・市長を公選として県議会を開設したものの、省主席は官選という事態が長く続いていました。これは、当時の総統(蒋介石のポストです)が住民によって公選されないにも関わらず、台湾省主席が公選されるということになると、台湾の人々にとっては、台湾省主席の方が総統よりも権威をもつことになるためです。台湾では、“中央”と“地方”がほぼ同じサイズである以上、蒋介石としては自己の権力基盤を維持するためにも、そうした事態は何としても避けなければならなかったのです。

 こうした異常事態は、1996年3月23日に住民の直接投票による総統選挙が実施されるまで続いたわけですが、その後も、切手の国名表示は長らく“中華民国”のままとされていました。

 これに対して、“中国とは別の台湾“を掲げ、台湾化政策を推進してきた陳水扁政権は、昨年2月、今回ご紹介の切手から国名表示を“台湾”に変更し、切手の面でも台湾化を進める姿勢を打ち出しています。このときの名称変更は、台湾の郵便事業を行ってきた中華郵政公司が台湾郵政公司に社名変更したことに伴うものと説明されていますが、題材が“228国家記念館”ですから、台湾化政策の一層の推進と当時の野党・国民党への批判の意図が込められていたことは明白です。

 すなわち、228国家記念館のテーマとなっている228事件とは、台北市で闇タバコを販売していた本省人(日本敗戦以前から台湾に居住していた中華系住民)女性に対し、外省人(第二次大戦後、台湾に渡ってきた中華系住民)の役人が暴行を加えたのをきっかけに、本省人に対して差別と弾圧を繰り返していた外省人への本省人の不満が爆発、台湾全土に暴動が発生し、国府は大陸から大軍を派遣して武力でこれを徹底的に鎮圧した事件で、国府による本省人への白色テロの最大のものとされているものです。

 こうしたこともあって、記念館のオープンに際して、陳水扁は「政府はこれまで(228事件の)被害者や家族に補償する一方、首謀者の責任は追及してこなかった。国民党は責任を台湾における共産党に押し付け、最近は役人の抑圧が民衆の反逆を引き起こしたと説明しているがこれも責任回避だ」と指摘し、国民党を批判しています。もちろん、その背景には、与党の党首として、野党・国民党の旧悪を指摘し、政権基盤を強化しようという政治的な思惑があったことは言うまでもありません。

 ちなみに、記念館の建物は、もともとは日本統治時代に美術館として建てられたものですが、第2次世界大戦後は、参議会→アメリカ在台湾ニュース処→アメリカ文化センターという変遷を経て、現在の用途に落ち着いています。

 いずれにせよ、切手の国名表示が“台湾”と改められた背景に上述のような政治的事情があったことを考えると、新たに発足した国民党の馬英九政権がこれをこのまま放置しておくとは考えにくいのも事実です。となると、やはり、台湾の切手は以前のように“中華民国”表示に戻ってしまうんでしょうかねぇ。とはいえ、いったん、現実を反映した“台湾”という表示を再移用してしまった以上、いまさら中国の正統政権として“中華民国”を名乗るのは、ちょっと難しいような気もします。

 いずれにせよ、誕生から1年余が過ぎた“台湾切手”が今後どうなっていくのか、しばらく注目、といったところですな。
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この記事のコメント
#1189
こんばんは、えびすでございます。
ご懸念の「中華民国」表記、あっさりと戻されてしまうようです。
以下に、台北からの報道をコピーさせていただきます。
長くて恐縮ですが・・・
『8月から切手に「中華民国」の文字が復活、「台湾郵政」は今秋「中華郵政」へ改名』
 交通部は5月28日、すでに印刷を終えた7セットの「台湾 TAIWAN」の文字が入った切手を発行後、8月20日に発行される「義民節切手」から「中華民国」の文字を復活させる方針を明らかにした。
 交通部は、万国郵便条約の規定で「主権を示す際に、切手にローマ字で発行郵政の加盟国の国名または領土を記さなければならない」とあり、切手には「中華民国」と表示すべきだと指摘した。
 今後の切手上の文字について、交通部は原則的に「中華民国第12代総統副総統就任記念切手」に基づき、漢字表記は「中華民国郵票」(郵票=切手)とし、英語表記は「REPUBLIC OF CHINA(TAIWAN)」とするとしている。
 台湾の郵便事業を行う国営企業「台湾郵政公司」は昨年2月に「中華郵政公司」から改名されたが、交通部郵電司は5月29日、「台湾郵政公司」を今年10月までに「中華郵政公司」に戻す方針を明らかにした。

との、ことです。
そんなことするなら、「台湾郵政」にする時点でもっと抵抗?すれば良かったのにと思ってしまいます。
同じように「台湾化」された他の公営企業はどうなるのでしょうね。
2008-06-04 Wed 23:51 | URL | えびす #mQop/nM.[ 内容変更] | ∧top | under∨
 えびす様
 素早い情報提供、ありがとうございます。
 以前、拙宅の住所が地番変更にぶつかった時は結構、面倒な思いをしましたが、“台湾化”騒動はその比ではないでしょうからねぇ。現場の方はお気の毒さまです。
 
 なお、個人的には、“台湾”の表示部分を=で抹消した加刷切手なんかが発行されると面白いのに…と思ってしまいます。
2008-06-05 Thu 23:23 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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2013-02-23 Sat 22:27 | | #[ 内容変更] | ∧top | under∨
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