郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 暫定×石油
 国会で与野党が激しく対立していた揮発油(ガソリン)税の暫定税率をめぐる問題は今日(31日)、打開策を見いだせないまま期限切れを迎えました。というわけで、今日は暫定×石油というキーワードで、こんなモノを持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

 アゼルバイジャン暫定加刷

 これは、1922年、ソヴィエト政権下のアゼルバイジャンで発行された切手で、同国の油田地帯を描いた3000ルーブル切手に額面5万ルーブルの改値加刷を施した暫定切手です。

 カスピ海西南の油田地帯に位置する小国・アゼルバイジャンは、1813年に帝政ロシアに併合されましたが、1917年のロシア革命の混乱の最中、オスマン帝国によって占領され、第一次大戦でオスマン帝国が敗れると、イギリス軍に占領されます。

 アゼルバイジャン人の民族主義政党ミュサヴァト(ムサヴァト、ムサワトとも)党は、これら占領軍の支援を受けて、1918年5月にアゼルバイジャン民主共和国の独立を宣言しますが、1920年4月の赤軍の侵攻により、首都バクーが陥落。アゼルバイジャン民主共和国は約2年でその幕を下ろし、ソヴィエト政権の時代が幕を開けることになりました。

 当初、赤軍はミュサヴァト政権時代の切手の原版を再利用して切手を印刷し、使用していましたが、1921年10月1日以降、“アゼルバイジャンソヴィエト社会主義共和国“名でオリジナルデザインの切手を発行し始めます。しかし、革命後の混乱の中、ハイパーインフレが進行したため、次第に正刷切手の発行が追い付かなくなり、1922年以降、以前発行した切手に必要な額面を加刷した暫定的な切手が使われるようになりました。

 アゼルバイジャンの油田地帯を描く切手は、1921年10月に5ルーブル切手が発行されましたが、翌1922年1月には、ハイパーインフレに対応して3000ルーブル切手が発行されます。さらに、同年中に、この3000ルーブル切手にナンバリングの機械を用いて5万ルーブルの加刷を施したのが今回ご紹介の切手というわけです。なお、今回ご紹介のモノに関しては、ナンバリングがうまく打てなかったのか、2重加刷になっているのがミソです。

 その後、アゼルバイジャンは、1922年末のソ連結成に伴い、ザカフカス・ソビエト連邦社会主義共和国の一部に組み込まれ、1936年以降はアゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国として、以後、1991年8月に独立を回復するまで、ソビエト連邦を構成する共和国の一つにされてしまいました。

 アゼルバイジャンのこの時期の切手は、昔のマッチのラベル風の素朴な味わいがなんともいえず、単純に集めていて楽しくなります。ただし、消印データの読める使用済や実逓カバーの入手は滅多にない上、加刷によって値段がべらぼうに跳ね上がるものには偽物がうようよしていますので、あんまり深入りすると火傷しそうですが・・・。

 さて、暫定税率の失効で明日(4月1日)からガソリンの値段は一時的に下がることになりそうですが、原油の値段そのものが下がっているわけではありませんから、むしろその他の生活用品なんかは値上がりするものも多く、頭の痛いところです。ハイパーインフレというのは、切手やカバーのコレクションを楽しむ分にはいいのですが、自分がその当事者となるのは勘弁してほしいですからねぇ。
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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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