郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 馬新政権のスタートに思う
 3月22日の台湾総統選挙で当選した馬英九氏が昨日(20日)、正式に第十二任総統 に就任しました。新総統は香港・九龍の生まれで、生後間もなく台湾に渡ってきたということなので、今日はこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 反共抗俄美術展

 これは、1951年4月3日、台北から香港宛に差し出された航空書留便で、鄭成功の切手が裏面の1角(=10分)と合わせて計2円5角(250分)貼られており、「自由中国 反共抗俄美展」の臨時局の特印が押されています。また、裏面には4月7日付の九龍の着印も押されています。新総統の誕生日については、7月13日説と10月31日説の二つがあるようですが、生後間もなくの1950年中には両親とともに台湾に渡ってきたとのことですから、まぁ、彼とほぼ入れ替わりに台湾から香港へ運ばれたカバーといってもよいでしょう。
 
 1949年に大陸を追われて台湾に逃げ込んだ中国国民政府は“大陸反攻”を呼号し、そうしたプロパガンダに沿った切手を数々発行しています。当時の通常切手のデザインに鄭成功が取り上げられているのも、北方から来た満州族の王朝である清朝を打倒して漢人の明王朝を復活させるべく、台湾で活躍したという鄭成功の故事が、当時の国民党のイデオロギーに合致する人物であったからにほかなりません。

 特印が使用された“自由中国 反共抗俄美展”というのが、どういう内容の美術展だったのかは現時点では調べきれていないのですが、案外、共産主義に反対し、ソビエトロシアの侵略に抵抗するという掛け声とは無関係に、展示の中身はフツーの美術展だったのかもしれません。

 当時の国民党政府が反共抗俄だったのは事実ですが、はたして“自由中国”を名乗るにふさわしい体制だったかどうかは、大いに疑問があります。というのも、蒋介石政権による戒厳令の下では、国民の言論の自由は大幅に制限されており、反政府的とみなされた人物は次々に逮捕・投獄されていたからです。じっさい、新総統となった馬じしんも、ハーバード大学に留学中は、『波士頓通訊(ボストン通信)』という国民党系雑誌の編集長をしながら、“職業学生”として反政府、民主化勢力の監視と報告を行っています。

 かつての馬は、中国国民党の伝統的な路線に従い、究極的には大中国としての統一を目指すものの、共産党とは対立するという“反共主義”の路線が鮮明でしたが、近年は、台湾経済の落ち込みもあって、対中関係改善による“実利”を重視し、中国との間で、欧州連合加盟国同士並みに関税、資金、労働力の自由流通を目指す「両岸共同市場」を提唱したりもしています。もっとも、この両岸共同市場構想については、「中国による台湾の事実上の吸収合併につながる暴挙」との批判も根強く、総統選挙の際には釈明に追われています。

 なお、総統候補になってからはあまり表面化していないようですが、馬は、台湾には珍しく反日的な傾向が強い人物で、学生時代から、「釣魚島(尖閣諸島)奪還」を叫ぶ反日活動を続けているほか、国民党主席就任後の2006年には国民党本部ビルに「抗日戦争勝利60周年記念」の垂れ幕を掲げるなどの前科もあるのが気になるところです。

 まぁ、とりあえずのところはお手並み拝見としか言いようがありませんが、国内世論の批判をかわすため、安易な反日に走るのだけは止めてもらいたいと思うのは僕だけではないでしょうね。

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この記事に対するコメント
つならないことになりました
馬政権発足早々つまらない事件がおきましたね。もっとも、地震やら秋葉原やらで日本は台湾どころではないのですが。
思うに、漁船の船長が「尖閣諸島辺りに行っても日本の軍艦は(実際には巡視船ですが)来るだけで(武力を使うようなことは)何もしないですぜ」なんて言って客を案内したのだと思いますが、迷惑な話です。
国民党政権はバックに偉大な「中華人民共和国」がついているつもりになっているのでまたまた大きなこと言い出しています。
行政院長(首相)が立法院(国会)で「開戦も辞さず」などとのたまわった様で、駐日代表も召還とは。
表向きは非公式の事務所の所長ですからいなくても困らないのですね。
日本としては。
今回の国民党政権の取った対応は、おそらく国府が台湾遷移して最悪の愚策だと思いますがいかがでしょうか。
かなりの親台派を自負する私にとってもはなはだ不愉快な事件です。
もっとも、騒いでいるのはおそらく外省人ばかりで本当の台湾人はこんなことのために(国民党を)総統にしてやったんじゃないのに、と嘆いていることでしょう。
【2008/06/15 00:42】 URL | えびす #mQop/nM. [ 編集]

 コメントありがとうございます
 えびす様
 馬英九には失望している台湾人も多いでしょうね。やっぱり、XXが嫌だからOOという理由で選ばれた政権というのは、すぐにメッキがはがれてしまうものなんですかね。
【2008/06/18 04:40】 URL | 内藤陽介 #- [ 編集]


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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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