郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 カナダから国連軍宛
 今年もまた、朝鮮戦争がはじまった“ユギオ(625)”の日がやってきました。現在、ルーマニアで開催の国際切手展EFIROに展示中の僕の作品 A History of Hong Kong にも、朝鮮戦争がらみのこんなマテリアルがありますので、今日のユギオにちなんでご紹介してみましょう。(画像はクリックで拡大されます)

 カナダから国連軍宛

 これは、朝鮮戦争末期の1953年1月26日、カナダ・モントリオールから香港のイギリス野戦局宛に差し出されたカバーです。押されている中継印をたどってみると、1月28日にバンクーバーを経て、香港へ届けられたものの、名宛人が移動していたため、2月3日、米軍機に乗せて転送され、2月9日に名宛人の元へ届けられたというストーリーになりそうです。

 1949年10月1日、北京で中華人民共和国の成立を宣言した毛沢東は、あえて、香港のを“解放”せず、英領のままにとどめておくことを選択します。これは、香港を西側社会に対する“窓”として確保するためには中国に編入せず、英領のままにしておく方が得策との判断によるものでした。一方、イギリスにとっても、英領香港の枠組みが維持されることは望ましいことでしたから、1950年1月、イギリスは西側先進国の中で最初に中華人民共和国を承認してこれに応えます。

 ただし、イギリスは、国連の代表権については依然として台湾の国民政府を支持しており、また、1972年までは両国の間で正規の大使は交換されず、臨時大理大使が交換されるのみでしたから、両国の関係は“半国交”とでもいうべき状態が続くことになります。

 こうした状況の下で、1950年6月25日、朝鮮戦争が勃発すると、西側陣営の大国であったイギリスは国連軍の一員としてこれに参加。香港は朝鮮へと向かうイギリスの拠点となりました。

 一方、朝鮮戦争の勃発を機に、膨大な軍事特需が発生したため、英中両国の商人たちは香港での大量の物資の買い付けに乗り出します。特に、中国側は輸入代金を調達するため、大量の中国製品を香港に輸出。また、国共内戦末期の1949年6月以来、国民党軍が行っていた大陸封鎖は、トルーマンによる台湾海峡中立化の方針によって解除され、香港と中国大陸の貿易を妨げていた要因がなくなったことも、香港の好景気に拍車をかけることになりました。なお、1950年8月、イギリスの香港政庁はアメリカの圧力に屈して中国への戦略物資の輸出禁止令を発していますが、実際には、香港政庁はせっかくの好景気を冷やしたくないと考えていたこともあって、これはザル法で、中国大陸と香港の貿易額はかえって拡大しています。

 ところが、1950年10月、中国が壊滅寸前の北朝鮮を救うため、“人民志願軍”の派遣というかたちで朝鮮戦争に参戦すると事態は一変。1950年12月3日、アメリカは香港・マカオを含む中国全土に対して全面禁輸を実施し、同月16日にはアメリカの客船・航空機が中国へ行くことを禁止します。さらに、翌1951年5月には、国連が香港・マカオを含む中国全土への禁輸措置を決議し、6月にはついにイギリス本国が中国と香港の間の貿易を管制下に置いてしまいました。

 一連の禁輸措置によって香港は経済的に大きな打撃を受けたばかりか、内戦を逃れて流入してきた大量の難民を抱えて、一時期、途方にくれることになります。しかし、彼らはほどなくして逆転の発想で、大量の難民たちを安価な労働力として活用し、それまでの中継貿易を中心とした経済構造から、加工貿易を中心とした経済構造への転換をはかるようになり、メイド・イン・ホンコンの商品が世界に流通していくことになるのです。

 なお、中華人民共和国と香港の関係については、拙著『香港歴史漫郵記』でもいろいろとまとめてみましたので、機会がありましたら、ぜひ、ご一読いただけると幸いです。

 お知らせ
 昨日(24日)、7月1日付で福村出版から刊行予定の『韓国現代史:切手でたどる60年』が出来上がったとの連絡が出版元からメールで入りました。が、いかんせん、ルーマニア滞在中で実物を確認できませんので、詳細は7月2日に帰国した後で、ご案内します。

 もう一度切手を集めてみたくなったら 
 雑誌『郵趣』の2008年4月号は、大人になった元切手少年たちのための切手収集再入門の特集号です。発行元の日本郵趣協会にご請求いただければ、在庫がある限り、無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。
この記事に対するコメント

内藤師匠。ルーマニアの旅お疲れ様です。今日、世界の切手ショールームで「韓国現代史切手でたどる60年」を即座に購入しました。ある程度は目を通しましたので、いずれ書評をいたしたく思います。
【2008/06/29 20:12】 URL | 大津太孝 #- [ 編集]

 コメントありがとうございます
 大津太孝様

 書評の方は、ぜひ、お手柔らかにお願いしますね。
【2008/07/19 11:16】 URL | 内藤陽介 #- [ 編集]


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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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