郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 自動車残酷物語
 きょう(6月16日)は、1903年にヘンリー・フォードがフォード・モーター・カンパニー(いわゆるフォード社)を創設した日だそうです。というわけで、こんなモノを持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

 ソ連・フォーディズム批判

 これは、おそらく1920年代のソ連で作られたプロパガンダ葉書で、アメリカ資本主義の象徴としてのヘンリー・フォードを揶揄したものです。 

 フォード社は、ベルトコンベアに代表される大量生産システムで自動車のコストダウンに成功し、1908年に発売を開始したT型車は、1927年までの間に1500万7033台を売り上げ、自動車の大衆化を実現。1927年に新型のA型車が発売されたときは、そのことがアメリカで年間の10大ニュースに選ばれるようなビッグニュースになるほどの国民的企業へと発展しました。

 その一方で、作業の機械化と分業によって生産性の向上を目指そうとするフォーディズムは、チャップリンが1936年の映画『モダン・タイムス』で指摘したように、労働者の人間性を大きく犠牲にするものでもありました。じっさい、当時のフォードの工場では、1920年代も半ばになると、連日の単純作業に精神的な苦痛を感じた労働者が、毎日、数十人単位で辞めていったといわれています。

 当時、フォード社(およびその系列会社)の商品の品質が優れたものであることは否定できなかったソ連にとって、フォーディズムの欠陥が資本主義社会においても指摘されるようになったということは、“労働者の国家”として、資本主義に対する社会主義の優越性を主張するうえで大きなポイントとなったことはいうまでもありません。

 今回ご紹介の絵葉書も、そうした文脈に沿って制作されたもので、死神の運転するフォード車に乗るヘンリー・フォード(フォード社の社長)のカリカテュアが描かれており、“悪魔に魂を売ったフォード”を揶揄する内容となっています。

 さて、いわゆるワーキング・プア問題が社会的に深刻なものとなり、『蟹工船』がベストセラーになっている状況をみると、フォードに始まる工場での単純労働者をめぐる“残酷物語”が、けっして過去のものではないことを思い知らされて、慄然とさせられます。特に、先日の秋葉原の事件の犯人は、自動車部品工場で働いていた派遣労働者で、生活の不安から自暴自棄になり、あのような凶行に及んだのではないかという話は、もっと深刻に受け止められるべきではないかと思います。

 もちろん、僕は秋葉原の事件の犯人を擁護するつもりはありませんし、彼に対する処罰は極刑以外にあり得ないいと考えていますが、いままで、ワーキングプアの問題が幾度となく話題に上りながらも、あの事件が起こるまで、誰も抜本的な解決策を真剣に考えようとしなかったことは大いに問題だったと思います。社会に対して疎外感を感じているワーキングプアの人たちの中には、「自分たちがどれほどデモをやり、署名運動をやっても、誰も自分たちのことに注目しなかった。しかし、秋葉原の事件が一件起こっただけで、少なくとも社会は自分たちに注目するようになった。そうであるならば、テロというのは、実は、弱者の主張を訴える上で、やはり、効果的な手段なのではないか・・・」などと考える人が出てきてもおかしくはありません。じっさい、かつての“パレスチナ・ゲリラ”たちのなかには、似たような発想から、パレスチナへの世界の耳目を集めるために無差別テロを展開していたグループもあるのですから・・・。

 もっとも、『蟹工船』なりマルクスなりを読んで、本当に理解して感化されるという若い人たちがそれなりの数いるというのであれば、それはそれで、彼らの知的水準が一定のレベルをクリアしていることの証左として歓迎すべきことなのかもしれませんがね。

 なお、今回ご紹介したのと同じような、ソ連のプロパガンダ絵葉書については、以前の拙著『反米の世界史』でもいくつかご紹介したことがありますので、機会がありましたら、ぜひ、そちらもご覧いただけると幸いです。

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この記事に対するコメント

ワーキングプアを作り出しているのは日教組を中心とする教育者たちだと思います。彼らは、子供たちに格差をつけない競争をさせないという姿勢を叩き込みますが、世の中は昔から大変な競争社会なのです。教師のいうことを真に受けてのんびりしていたら正社員にはなれません。要するに、彼ら左翼教育者は現体制に不満を持つ人間を大量に製造しようとしているのです(そして、朝日新聞や毎日新聞など現体制の不満を扇動する)。学校では努力することが格好悪いという風潮が子供たちにあります。努力を惜しむというロシアの風潮に日本が染まらないように切に望みます。
それにしても「満州切手」は面白いですね。一気に読んでしまいました。続編も出してください。
【2008/06/17 08:47】 URL | プるプるゼリーちゃん #- [ 編集]

 コメントありがとうございます
 プるプるゼリーちゃん様

 本来、革命というのは現在の体制に対する不満がまず先にあって、どうしても現状を変革できないから起こるというのが筋だと思いますが、どうも左翼系の人たちは、ともかくも革命を起こしたいがゆえに無理やり体制への不満をあおっているように見えてなりません。努力をした人がある程度以上報われるようにしないと、あるいは、努力すればある程度は報われるんだという希望を若い人に与えていかないと、ホント、人々の間に蔓延するルサンチマンにつけこんで、善からぬ連中が跋扈するだけでしょう。困ったものです。

 また、拙著をおほめ頂き、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。 
【2008/06/18 04:46】 URL | 内藤陽介 #- [ 編集]


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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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