郵便学者・内藤陽介のブログ
 切手というモノを、ちょっと違った角度から眺めてみると、あなたの知的好奇心をくすぐる新たな発見がイロイロあるのです。そんな切手の面白さを綴っていこうと思っています。
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 女神に導かれるのは…
 今日はパリ祭の日です。というわけで、新刊の拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』にちなんで、韓国切手の中からこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 フランス革命200年(韓国)

 これは、1989年7月14日、韓国が発行したフランス革命200年の記念切手で、ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」の一部が取り上げられています。

 「民衆を導く自由の女神」は、1830年7月のフランス7月革命を題材に制作されたもので、フランスの象徴である女性・マリアンヌは自由を、乳房は母性すなわち祖国を表しているとされています。オリジナルの作品では、マリアンヌの脇に、ドラクロワ本人と思しきマスケット銃を手にしたシルクハットの男性をはじめ、マリアンヌに導かれる多数の男性が描かれていますが、今回の切手ではそれらは思い切ってカットされています。

 こうした構図になったのは、基本的には、デザイン上の都合だろうと思うのですが、もしかすると、男性が女性に導かれるという構図に対して抵抗感があったということもあったのかもしれません。

 韓国社会には、良くも悪くも儒教的な価値観が染み付いており、現在でも「男女有別」「女必従夫」「夫唱婦随」などの男尊女卑的な考え方が根強いことは広く知られています。

 たとえば、韓国民主化の成果ともいうべき1987年の憲法では、男女の平等という原則の下、女子の労働は、特別の保護を受け、雇用・賃金及び勤労条件において、不当な差別を受けない(第32条第4項)、国は、女性の福祉と権益の向上のために努力しなければならない(第34条第3項)、国は母性の保護のために努力しなければならない(第36条第2項)など、国として男女平等を推進するための方針が盛り込まれました。しかし、この時点では、まだまだ“男女平等“に対する国民の心理的な抵抗感は根強かったようで、共働きの女性に「ご主人が失業した場合、あなたはどうしますか」というアンケートを取ったところ、一番多い回答は「自分も仕事を辞める」という結果が出ています。その理由は、「一家の長である夫よりも自分の収入が多いのは申し訳がたたない」というのだそうで、実利ではなく“朱子学的(といっていいのかどうかは分かりませんが)”な名分や“秩序”を重要視する彼らでなければ出てこない発想だと言ってよいでしょう。(まぁ、実際には、夫が失業したら、妻が働いて家計を支えるというケースが多いのでしょうけど)

 したがって、おそらく、この切手が発行された1989年の時点では、国家の名前で発行される切手に、“女性に従う男性”という構図の絵画が取り上げられることに抵抗を感じる人も少なくなかったのではないかと思います。

 もっとも、最近では朴正熙の長女、朴槿恵がハンナラ党の代表となり、大統領選挙の有力候補として名前が挙がるなど、韓国社会でも、以前に比べれば、女性指導者に対する抵抗感はだいぶ薄まってはきたようですが…。

 ちなみに、日本でも、いまから10年前の1998年、“日本におけるフランス年”の記念切手に「民衆を導く自由の女神」が取り上げられたことがありましたが、こちらは、オリジナルの作品を忠実に再現したデザインとなっています。

 もう一度切手を集めてみたくなったら 
 雑誌『郵趣』の2008年4月号は、大人になった元切手少年たちのための切手収集再入門の特集号です。発行元の日本郵趣協会にご請求いただければ、在庫がある限り、無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。
この記事に対するコメント

 長いことご無沙汰して申し訳ありませんでした。
 現在韓国語を生かした職業に就くべく、ソウルに留学中です。
 ネットサーフィンをしてましたら、韓国政策放送KTVのHPに「e−映像歴史館」のコーナーがあり、そこでは、韓国政府が広報用に制作した様々な映画が見られるようになっています。
 その中で、韓国郵政に関連したものを見つけましたのでご報告します。

 まず、1958年制作の「我々の郵便」です。当時のソウル中央局の様子などが写っています。http://ehistory.kr/movie/culture_record.jsp?page=1&yearCheck=1950&subjectID=&searchCategory=whole&searchText=%EC%9A%B0%EB%A6%AC%EC%9D%98+%EC%9A%B0%ED%8E%B8&pageSize=10

 次は、やはり1958年の「誇らしい我々のくらし」の中にも当時の郵政事業の様子が映っています。http://ehistory.kr/movie/culture_record.jsp?page=1&yearCheck=1950&subjectID=&searchCategory=whole&searchText=%EC%9E%90%EB%9D%BC%EB%82%98%EB%8A%94+%EC%9A%B0%EB%A6%AC%EC%9D%98+%EC%82%B4%EB%A6%BC&pageSize=10
 HP内、上から4番目の画面を再生すると出てきます。ソウル中央郵便局の様子と、移動郵便局が映っています。

 申し訳ないことですが、画面下に出る画面詳細説明文も含めすべて韓国語ですので、ご了承ください。

 簡単ですが、これで失礼いたします。
 
【2008/07/18 00:16】 URL | muraki #- [ 編集]

 コメントありがとうございます
 muraki様

 ご無沙汰しております。お元気そうでなによりです。
 貴重な情報ありがとうございました。
 
 ソウルもやっぱり暑いんでしょうね。御身大切に
【2008/07/19 11:22】 URL | 内藤陽介 #- [ 編集]


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プロフィール

内藤陽介 (ないとう・ようすけ)

Author:内藤陽介 (ないとう・ようすけ)
 1967年、東京都生。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手の博物館・副館長。切手などの郵便資料から、国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。
 主著:<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵趣出版、現在、第6巻まで刊行)、『北朝鮮事典』、(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『皇室切手』(平凡社)、『これが戦争だ!』(ちくま新書)、『満洲切手』(角川選書)、『香港歴史漫郵記』(大修館書店)、『タイ三都周郵記』(彩流社)ほか著書多数。最新作は『韓国現代史:切手でたどる60年』(福村出版)

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