内藤陽介 Yosuke NAITO
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 戦後日本切手展
2008-11-02 Sun 00:12
 昨日に引き続き、<JAPEX>関連ネタで行きましょう。今日は、池袋会場ではなく、目白会場で開催の「郵政民営化1周年記念・戦後日本切手」展に絡めて、同展の記念小型印に取り上げられている、この切手についてご説明します。(画像はクリックで拡大されます)

 郵便創始75年(15銭)

 これは、1946年12月12日に発行された“郵便創始75周年”の記念切手のうちの15銭切手です。

 1946年は、日本における近代郵便の創業から75周年にあたっており、本来であれば、創業の記念日にあたる4月20日 を中心に、盛大な記念行事が開催されていたことでしょう。しかし、この年の4月は、まだ終戦から日も浅く、逓信院(当時の郵政を担当していた官庁) は占領に対応した新体制の構築や戦災の復興に追われており 、実際には、とても記念行事を行えるような状況ではありませんでした。しかし、その一方で、逓信院の内部では、戦後の事業再建に国民の理解と協力を求めるためにも、なんらかのかたちで創業75周年の記念行事を行うべきとの意見も根強くありました。

 このため、郵便創業75周年の記念事業として、内々に、記念出版や記念キャンペーンの実施なども検討さましたが、いずれも準備期間や資材の関係から不可能と判断され、結局、消去法の選択で、年末の12月12日から21日までの10日間、東京・日本橋の三越百貨店と逓信博物館で記念展覧会(正式名称は「郵便創始七十五周年記念逓信文化展覧会」)を開催することになりました。

 こうして、展覧会の実施計画のアウトラインが固まったのが1946年6月のことで、すでに実質的な準備期間は半年しか残されていませんでしたが、7月1日には逓信省が復活したこともあり、準備が進むにつれて担当者の間では、展覧会を全国的なものとして後世に残したいとの意見が日に日に強くなります。そして、8月に入ると、展覧会に合わせて記念切手を発行することが、急遽決定され、逓信省ならびに印刷局担当者たちの、夜に日を接いでの4ヶ月がスタートします。

 逓信省郵務局の切手周知係長(切手図案制作の実務責任者)であった木村勝は雑誌『切手文化』に当時の状況を語っています が、それによると、現場では、記念切手の発行が正式に決定されたとき、封書用(30銭)と葉書用(15銭)の二種類を用意するといった漠然とした案しかなく、具体的な図案のイメージなどは何もなかったようです。

 図案の候補として木村がまず思い描いたのは、日本最初の龍切手を再現することで、木村の下図を元に、加曾利鼎造が龍切手を再現した15銭切手の原画を作成しました。一方、封書用の30銭切手に関しては、郵便創業の功労者・前島密の功績をたたえるものとして、当時、逓信博物館の前にあった彼の銅像が題材として取り上げられています。

 こうして、2種類の切手の制作が進められていたところ、8月下旬になって、郵務局の事務方は突如、現場の制作サイドに対して、「(戦後最初の記念切手が)2種類だけではさびしいし、高額のものも欲しい」との理由で、書留用の1円切手を加えるよう、木村らに要求します。このため、急遽、1円切手の図案が作成されることになり、新時代の通信を表現するものとして、東京工芸学校図案科を卒業して逓信省に入ったばかりの新人・久野実が9月6日までに原図を完成させます。

 ところが、9月中旬になって、さらにもう1種類、記念切手が追加されることになりました。これは、9月10日に外国郵便が再開されたため、その葉書用の額面として50銭切手の追加が求められたためです。(なお、外信の封書料金は1円でしたので、こちらは、先に用意されていたもので充当されることになりました)

 結局、9月13日になって、50銭切手の追加が決定されましたが、もはや、新たな図案を作成していては12月の展覧会に切手発行を間に合わせることは不可能でした。このため、部内での検討の結果、戦前の楠公葉書に代わる“平和図案”の葉書を発行するために準備していた原図のうち、不採用のままお蔵入りとなっていた原図の中から、菊と駅鈴を描くものに記念銘などの文字を加えて(この文字は加曾利鼎造が担当した)15銭切手の図案として流用することとしました。

 新たに加えられた菊と駅鈴のデザインが、50銭切手ではなく、15銭切手の原図とされたのは、すでに原図の下部中央に葉書用の額面として“15”の文字が入っていたためで、制作期間の短縮を考えての措置でした。そもそも、このデザインは、もともと、葉書の印面用として、凸版印刷されることを想定して日置勝俊が作成したため、木版の雰囲気を漂わせており、それゆえ、凹版印刷に適した図案とはいいがたい面もありましたが、ことここにいたっては、12月12日の発行期日に間に合わせるということが最優先されたのです。なお、一五銭切手が菊と駅例の図案となったことに伴い、当初、15銭切手として予定されていた龍切手を描くものは、50銭切手の図案として流用されることになりました。

 こうしたドタバタの末に、1946年12月12日、戦後最初の記念切手として“郵便創始75周年”の記念切手が発行され、戦後日本の記念切手の歴史がスタートすることになります。なお、この間の詳しい事情などにつきましては、拙著『濫造・濫発の時代』でも詳しくまとめてありますので、よろしかったら、ぜひご一読いただけると幸いです。

 今回の「郵政民営化1周年記念・戦後日本切手」展では、1946(昭和21)年から昨年までに発行された3500種類にも及ぶ日本切手を一堂に集めてご紹介しておりますので、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

 イベントのご案内

 11月1日(土)-3日(月・祝) 全国切手展<JAPEX>

 ことしも、東京・池袋のサンシャインシティ文化会館と目白の切手の博物館の2ヶ所で開催します。今年の目玉は、何といっても“満洲・東北切手展”ですが、トーク関係での僕の出番は、以下のとおりです。

 11月2日(日)
  13:00 “戦後日本切手展”ギャラリー・トーク(目白会場)
  15:00 中公新書ラクレ presents 『大統領になりそこなった男たち』刊行記念トーク(池袋会場)
 11月3日(月・祝)
  11:00 “戦後日本切手展”ギャラリー・トーク(目白会場)

 トークそのものの参加費は無料ですが、<JAPEX>への入場料として、両会場共通・3日間有効のチケット(500円)が必要となります。あしからずご了承ください。皆様のお越しを心よりお待ち申しております。

 *昨日開催の“満洲・東北切手展”特別シンポジウム(池袋会場)および特別対談「満洲における写真、絵葉書、郵趣」(池袋会場)は、盛況のうち、無事に終了いたしました。ご参加いただきました皆様には、あらためてお礼申し上げます。


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