内藤陽介 Yosuke NAITO
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 試験問題の解説(2009年1月)-3
2009-02-01 Sun 15:42
 昨日に引き続き、都内の某大学でやっている「中東郵便学」の試験問題の解説です。今日は、「この切手(画像はクリックで拡大されます)に描かれた事件について説明せよ」という問題を取り上げてみましょう。

 UAE・インティファーダ支援

 これは、1988年にアラブ首長国連邦(UAE)が発行した(第一次)インティファーダ支援の切手で、覆面をしてイスラエル軍に投石するパレスチナの若者が描かれています。

 1985年、レバノン南部ではヒズブッラーの“殉教作戦(自爆テロ)”が、部分的ではありますが、イスラエル軍を占領地から撤退させることに成功しました。しかし、1967年の第3次中東戦争以来、イスラエルが同年12月に採択された国連安保理決議(占領地からのイスラエル軍の撤退条項が含まれていた)を無視して苛酷な占領下に置きつづけてきたヨルダン川西岸とガザ地区では状況は変わらず、パレスチナ住民の不満と閉塞感はピークに達していました。

 こうした状況の下で、1987年12月、ガザで、帰宅途中のパレスチナ人が乗った車が反対車線に乗り入れたイスラエルの軍用トラックと正面衝突し、パレスチナ人4名が死亡し、7名が重軽傷を負う交通事故が発生。これに対して、軍用トラックの乗員は全員無傷でした。

 イスラエルによる理不尽な占領を象徴するかのような事件が発生したことで、ガザ地区の空気は一挙に緊張。事件の翌日、難民キャンプの一パレスチナ人青年が、日頃の鬱積した不満からイスラエル兵に投石したことをきっかけに、パレスチナ住民とイスラエル兵との大規模な衝突が発生します。その際、イスラエル兵が17才のパレスチナ人少年を射殺したことから、パレスチナ人住民は憤激。少年の葬儀は、やがて、自然発生的な暴動となり、大量の石やガラス瓶などがイスラエル兵に向かって投げつけられることになりました。

 こうして、イスラエル軍の催涙ガスやゴム弾に対して、投石と火炎瓶で抵抗する“石の革命”、インティファーダ(アラビア語の原義は蜂起)が始まり、イスラエルの占領下で生まれ育った10代の少年を中心に、ヨルダン側西岸とガザ地区のイスラエル占領地域全域で、老若男女を問わず、パレスチナ住民の抵抗が続けられました。

 インティファーダを鎮圧するための膨大なコストはイスラエル経済を大きく圧迫。さらに、インティファーダに共感するイスラエル本土のパレスチナ人の大規模なストライキが頻発したこともあって、1987年には5.2%だったイスラエルの国内総生産(GDP)は、インティファーダ発生後の1988年には1%台に急落します。また、強圧的な弾圧によってインティファーダを鎮静化できなかったことで、イスラエルは、パレスチナ人による自治権の要求は武力で抑え込めるものであり、考慮の必要はないとするそれまでの前提を再検討せざるを得なくなりました。

 また、インティファーダは、ベイルートを追放されチュニスに本部を置いていたPLOの指導部とは無関係に発生したものである点も重要です。インティファーダの参加者たちは、イスラエルの存在を認めた上で、パレスチナ人としての権利を獲得することを主張しており、イスラエルを破壊してパレスチナ全土を解放するというPLOの非現実的な路線の転換を求めました。このため、インティファーダ発生から約1年後の1988年11月、アルジェで開催されたパレスチナ国民評議会では、東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家の独立宣言を採択。イスラエルの存在そのものを否定する従来の路線を放棄する代わりに、インティファーダで獲得した国際的認知を国家樹立がPLOの新たな基本方針となり、翌12月の国連総会に出席したアラファトは、イスラエルの承認とテロの放棄などを明言することになります。

 試験の答案としては、この切手が(第一次)インティファーダを取り上げたものであることを示したうえで、①インティファーダが発生した背景、②インティファーダの経過、③インティファーダによってイスラエルとPLOの双方が従来の路線を再検討ないしは転換せざるを得なくなったこと、などをまとめていればOKです。


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