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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 済州島
2009-03-13 Fri 14:11
 民主党の小沢一郎代表が、韓国資本による対馬の不動産買い占めに対抗し「今、円高だから済州島を買ってしまえ」と笹森清・前連合会長に話したとされることが物議をかもしているようです。まぁ、済州島そのものを買い取るということと済州島の土地を買うということは別の次元の話ですが、同じお金を使うのなら、対馬の土地を買い戻した方がいいんじゃないかと僕などはついつい思ってしまいます。
 
 さて、済州島の話題が出たところで、済州島ネタの切手ということで、こんな1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 済州島

 これは、2006年1月27日に韓国が“済州・平和の島宣言”にあわせて発行した切手で、島のシンボルである石像などが描かれています。

 伝統的な“朝鮮”の南端とされる済州島は、李氏朝鮮の時代には政治犯の流刑地でした。このため、済州島とその住民は、日本時代を経てアメリカ軍政下でも、朝鮮本土から差別され続けており、島民の間にはさまざまな不満が鬱積していました。こうした背景の下、1947年3月1日、3・1独立運動28周年の記念式典の後のデモに対して軍政庁の警官隊が発砲して6名が死亡すると、3月10日から島内では抗議のゼネストが発生。これを“アカの蠢動”とみなした軍政庁と李承晩ら本土の保守派はゼネストを武力で粉砕します。

 一方、本土に対する島民の不満を背景に、この地での勢力拡大をもくろんだ左翼勢力の南朝鮮労働党済州島委員会は、1948年4月3日、警察支署や右派人士に対する一斉襲撃を開始。これが、いわゆる済州島4・3事件です。

 事件は一般島民や本土から派遣された警官隊の家族らも巻き込んでエスカレートし、次第に、当時の南北朝鮮での左右対立の最大の争点であった5月10日の単独選挙阻止を主張するものへと変質していきます。結局、混乱のために済州島では選挙が実施できませんでしたが、蜂起の指導部は朝鮮国防警備隊(後の韓国軍)や警察、西北青年団(北朝鮮から南朝鮮へ逃れてきた反共・右翼青年の組織)などの治安部隊によって短期間で鎮圧されます。しかし、その後も残存勢力は1957年まで山間部でゲリラ戦を展開して抵抗。最終的に、8万名の島民が犠牲になったといわれています。

 さて、2002年に発足した盧武鉉政権は、民主化運動や学生運動を経験した386世代(1990年代に30歳代を過ごし1980年代に大学に通った1980年代生まれの世代)を支持基盤としていましたが、彼らは、その経歴から“過去清算”に熱心で、盧武鉉政権はこの問題に従来以上に熱心に取り組むことになりました。

 韓国における過去清算というと、日本では「植民地支配による被害を明らかにし、植民地権力に対する協力者を断罪する作業」と考えられがちですが、正確には、その範囲は植民地支配に関する諸問題のみならず、民主化以前の国家権力による暴力・虐殺・人権蹂躙なども対象となっています。じっさい、過去清算に関する最初の法律は、盧泰愚政権下の1990年に制定された「光州民主化運動関連者補償等に関する法律」でした。

 その後、民主化運動の指導者であった金泳三、金大中の両政権下でも過去清算に関する法律がいくつか制定されましたが、いずれも、解放後の政府による弾圧の被害者救済が対象となっており、植民地時代の“親日派”を具体的に処罰しようとするものではありませんでした。

 これに対して、解放後の1946年に生まれた盧武鉉の過去清算は“日帝時代”も対象とした点で従来の政権とは大きく異なっています。すなわち、2004年12月に成立した「日帝強制占領下反民族行為の真相糾明に関する特別法」では、1904年の日露戦争から1945年の解放までの間に、旧日本軍や朝鮮総督府などの行政機関で一定以上の地位に就いていた者や、独立運動家への弾圧や戦時中の戦意高揚のための活動を行った者を調査し、糾弾するというものでした。

 さらに、2005年5月には「真実・和解のための過去事(過去史の字を当てることもある)整理基本法」が成立。対象が日本関連だけでなく、韓国軍、北朝鮮人民軍、国連軍、米軍などが起こした人権侵害事件も含まれるようになります。1948年の済州島4・3事件に関して、2006年1月に政府として、今回の記念切手の題材となった「済州・平和の島宣言」を発し、同年4月の犠牲者慰霊祭に盧武鉉が大統領として初めて出席し、島民に対して正式に謝罪したのもこの流れに沿ったものといえます。

 もっとも、盧政権の場合、日本との外交関係の悪化もあって、過去清算の主眼は“親日派”への糾弾に置かれていたことは明白で、2005年12月に成立した「親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法」では“反民族行為認定者”の子孫の土地や財産を国が事実上没収できることになり、2007年5月には、日韓併合条約を締結した李完用の子孫に対して約25万4906平方メートル、36億ウォン(当時のレートだと日本円で約4億8000万円)の土地を没収し、韓国政府に帰属させる旨の決定も下されています。

 いわゆる“過去清算”は、過去に問われなかった罪を事後法によって裁いてはならないとする法の不遡及の原則に反しているほか、子孫の財産を没収する連座制など、近代法の原則に照らすとおかしなことだらけです。また、日本の植民地時代においては、当時の朝鮮人の多くが何らかのかたちで支配機構とつながりがあったわけで、それを一律に糾弾・処罰しようとするやり方に対しては、韓国内でも批判が強く、社会的な亀裂を深める結果をもたらしたことは否定できません。

 なお、韓国お得意の“過去清算”は切手にもさまざまな形で表れていますが、それらについては、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』をご覧いただけると幸いです。


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