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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手が語る宇宙開発史(5)
2009-12-29 Tue 11:43
 ご報告が遅くなりましたが、雑誌『ハッカージャパン』の2010年1月号が出来上がりました。僕が担当している連載「切手が語る宇宙開発史」では、今回は、この1枚を取り上げました。(画像はクリックで拡大されます)

     チェコ・スプートニク

 これは、スプートニク2号の打ち上げを記念して1957年12月にチェコスロヴァキアが発行した切手です。

 かつての“共産圏ジョーク”の一つに「スプートニク号の仕組みは?」という質問に対して「1.チェコのウラン、2.ドイツの技術、3.ソ連の犬」と応えるというものがありました。

 チェコスロヴァキア共産党の創設メンバーで、1948年以降、大統領を務めたクレメント・ゴットワルトは純然たるスターリン主義者で、すべての生産設備を国有化し、農業集団化を強行しただけでなく、議会制度を完全に放棄し、体制に批判的な人物は容赦なく粛清します。1953年3月14日、スターリンの葬儀から帰国して5日後に亡くなったのは、“小スターリン”として本家のコピーに徹しきった彼の生涯を象徴するような幕引きといえましょう。

 ゴットワルトの死後、党第一書記に就任したアントニーン・ノヴォトニーはゴットワルトの路線を継承しつつ権力基盤を固め、1957年には大統領職も兼務しました。

 ときあたかも1956年2月のフルシチョフによるスターリン批判を機に東欧諸国ではソ連支配への反発が強まっており、同年10月には隣国ハンガリーで大規模な反ソ暴動(いわゆる“ハンガリー動乱”)がおこっていますが、ノヴォトニーは国内の反ソ世論を封じ込めることに成功。ハンガリーに対するソ連の軍事介入を積極的に支持しています。

 当然、ノヴォトニー政権にとっては、ソ連によるスプートニクの打ち上げは、西側に対してソ連が科学的・軍事的優位を確保したことの象徴として慶賀すべきことであり、12月20日には“国際地球観測年”の名目で、スプートニク2号の打ち上げを記念する切手(今回ご紹介の切手です)も発行し、ソ連に対する忠勤ぶりをアピールしています。なお、10月4日のスプートニク1号の打ち上げではなく、11月3日の2号の打ち上げが切手発行の対象となったのは、制作日数の問題で、2号の打ち上げ前に記念切手が準備できなかったためでしょう。

 ところで、実際のスプートニク1号の打ち上げに使われたR7ロケットの燃料は液体酸素とケロシン(石油を分留して作られる液体の炭化水素です。これは、ナフサよりも重く軽油よりも軽い)であって、(少なくともこの件に関しては)チェコのウランが重要な役割を果たしたわけではありません。しかし、ノヴォトニー政権は冒頭で紹介したような、事実と異なるジョークが西側世界に流布していても、あえて訂正しませんでした。そのことによって、彼らは自分たちが東側諸国の“優等生”としてソ連の宇宙開発を支えており、自分たちに敵対する者に対してはソ連によって鉄槌が下されるであろうことを暗示させる効果を狙ったのです。

 しかし、ノヴォトニー体制下での硬直化した国家運営や西側諸国との経済格差の拡大は、次第に、チェコスロヴァキア国民の不満を鬱積させ、1962年5月1日には、プラハ大学の学生が「我々はスプートニクをもっているが、肉をもっていない。我々はスプートニクより肉が欲しい」とのスローガンをかかげてメーデーに参加しています。これに対して、ノヴォトニーは、学生たちの要求に対して徹底的な弾圧で応え、その後も1968年1月まで党第一書記・大統領としてチェコスロヴァキアの“小スターリン”の座を維持し続けることになるのです。


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