内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手を作った人々:加曾利鼎造 ⑥
2010-01-31 Sun 10:38
 ご報告が遅くなりましたが、東京郵便切手類取引所(TOPHEX)による『スター☆オークション』(2月6日実施)のカタログ第8号ができあがりました。オマケの読み物として僕が担当している連載「切手を作った人々」は加曾利鼎造の6回目。今回はこんなモノを取り上げています。(画像はクリックで拡大されます)

      加曾利・富士と桜

 これは、1948年3月、加曾利が描いた「富士と桜」の絵の余白に、第3次昭和切手の富士桜20銭と日本国憲法施行記念の50銭切手を貼って消印を押したものです。

 1937年から発行が始まった第一次昭和切手は、加曾利の考案した基本的なプランに沿って木村勝が切手の中心的な題材を描き、加曾利が周囲の輪郭や“大日本帝國郵便”の文字、額面数字などを手掛けることによって出来上がった2人の“合作”でした。

 これに対して、いわゆる太平洋戦争の開戦後に発行が始まった第2次昭和切手は、戦意昂揚の一手段という面もあって、原画は一般から懸賞公募が行われました。ここで入選した画家たちの作品は、勅額10銭という例外を除き、図案家である加曾利の手を経て、切手として世に出ることになります。その意味では、第一次昭和切手の際の木村の役回りが、他の画家たちに代わっただけということも可能かもしれません。

 しかし、第2次昭和切手に関しては、それ以上に注目したい点があります。それは、戦況の悪化に伴い、第1次昭和切手の一部額面の版式が凹版から凸版へと簡略化された際、凹版向きの原画を凸版向きのものへと改描したのが加曾利だったということです。

 すなわち、『日専』では20銭の「富士と桜」、30銭の「厳島神社」、40銭の「オーロワンピ燈台」(凸版)の原画作者はいずれも加曾利ということになっていますが、その本質は、第一次昭和時代の木村の原画が加曾利の手によって簡略化されたということに他なりません。

 加曾利にしてみれば、木村とともに精力を傾けて造り上げた“美しい切手”の品質を、みずからの手で劣化させなければならなかったのは身を切られる思いであったでしょう。しかし、時局は、戦前のような“美しい切手”をつくることはおろか、簡素化された切手でさえも必要量を調達することさえ難しくしていきました。加曾利の手によって簡素化されたデザインの「富士と桜」と「厳島神社」は、終戦前後には、さらに凸版から平版へと簡素化されてしまいます。はたして、加曾利がまだ存命であった戦後の1951年、木村は「十円の梅花文様の切手、あれの最初の版のものが私は好きだ、あとのはオフセツトに改めるため描き直してゐるので、コクのある味がサツパリ出ていなくて駄目だ」と述懐しているが、その改描を直接手掛けざるを得なかった加曾利は、木村のこうした声をどのように聞いたのでしょうか。

 今回ご紹介の加曾利の絵には“切手の図案”との副題がつけられています。その余白に貼られた第3次昭和切手の20銭「富士と桜」と比べてみると、第2次ないしは第3次昭和切手を手掛けたときの図案家としての苦渋や、曲がりなりにも平和が回復した後の解放感などが、加曾利の時代に対する心情の何某かが透けてみえるような気がするのは、僕だけではないでしょう。
 
 なお、「切手を作った人々:加曾利鼎造(第1部・戦前編)」は、今回でひとまず終了します。第2部の“戦後編”は、必要な調査・取材の後、再開することにしたいと思いますので、ご了承ください。


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