内藤陽介 Yosuke NAITO
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 泰国郵便学(6)
2010-02-24 Wed 17:52
 ご報告が遅くなりましたが、財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第44巻第1号ができあがりました。僕の連載「泰国郵便学」では、今回はラーマ5世(チュラーロンコーン)からラーマ6世(ワチラーウット)への代替わりのことを中心に取り上げました。その中からこの1枚をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      タイ・1912年シリーズ(高額)

 これは、ワチラーウット即位後最初に発行された1912年シリーズの1バーツ切手です。

 1910年10月のチュラーロンコーン崩御に伴い、皇太子であったワチラーウットがラーマ6世として即位します。

 ワチラーウットは1880年1月1日、チュラーロンコーンの第29子として生まれました。幼少時には王宮内のスワンクラープ校でタイ語と英語による教育を受けましたが、1893年にイギリスに留学し、当初はロンドン北西のアスコットに滞在。1898年以降はサンドハーストの陸軍士官学校で軍事教育を受けました。士官学校を卒業した1899年には、一時、オルダーショットの歩兵部隊にも配属され、軍人としての実地訓練も受けています。

 当初、ワチラーウットに期待されていた役回りは、国王を支える藩屏としての皇族官僚・政治家としての研鑽を積むことでしたが、1895年に兄で皇太子ワチルナヒットが16歳で亡くなったため、皇太子に指名されました。1900年以降は、オクスフォード大学クライスト・チャーチ・カレッジで法律と歴史、経済、地理などを学んでいます。

 1902年12月、留学を終えたワチラーウットはアメリカ、日本などを経由し、翌1903年1月末に帰国し、陸軍監察総監に就任。イギリス留学で得た知見を活かして、タイにおける近代徴兵制度の導入に向けて尽力しました。

 近代以前のタイでも、制度上は首都近郊の平民に兵役が課せられていたが、実際には一定の金額を支払い役務の免除を受ける者が多く、軍の構成員は基本的には軍人の子弟もしくは志願者のみでした。ワチラーウットらによる近代徴兵制度の実施は、このように形骸化した徴兵制度の立て直し、近代常備軍を編成することによって、列強による植民地化の危機に対抗するためのもので、1903年、東北タイのコーラート州で試験的に実施された後、1905年に正式な徴兵令公布となりました。

 この他にも、1903年にワチラーウットが帰国してから1910年に即位するまでの期間は、青年将校を留学生としてさかんに列強諸国に派遣するなどして、タイ国軍の近代化が急速に進められ、一定の成果を上げつつある時期でした。

 かくして、1911年1月13日付で完成した第一軍管区の3師団は、チュラーロンコーンの喪が明けた後の同年12月2日に行われたワチラーウットの即位戴冠式の記念イベントの一環として、欧米ならびに日本の計13ヵ国から出席した国賓を前に、王宮前広場で大観兵式を行い、タイが曲がりなりにも近代常備軍を備えた国家であることを列強諸国に認識させようとしています。

 今回ご紹介の切手は、こうした経緯を経て1912年10月15日に発行されたもので、ウィーンのオーストリア帝室印刷局に製造が委託されました。切手の図案は、1バーツ以上の高額面が大型で軍装姿(右手に指揮杖を持ち、左手を剣の上に置いている)の国王のほぼ全身像を描いたもので、額面1バーツ未満の低額面は、そのうちの胸から上の部分を取り上げた小型のものとなっています。

 チュラーロンコーン時代の切手は、基本的には国王の胸像のみを取り上げたもので、軍装であるか否かが必ずしも判然としないデザインでしたが、新しく発行された切手は、従来以上に、国軍の長としての国王のイメージを強調するものとなっています。その背景には、曲がりなりにも近代国家としての軍制が整ったことに伴い、国王もまた近代的な国軍の最高指揮官へと脱皮したことを諸外国にアピールする意図が込められていたことは言うまでもありません。

 同時に、国王としてのカリスマ性という点において、新国王のワチラーウットは、とうてい父王チュラーロンコーンに及ぶべくもありませんでした。それゆえ、タイ国家は、国王の代替わりに際して、偉大なる先王チュラーロンコーンの権威を損なうことなく、新国王としてのワチラーウットのイメージを国民に速やかに浸透させていくという課題を抱えむことになりましたが、この点でも、“国軍の長”というわかりやすい記号は好都合だったといえましょう。

 なお、今回の記事では、このほかにも有名なボーイスカウト加刷についても触れていますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

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