内藤陽介 Yosuke NAITO
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 餅とみそ汁
2010-03-21 Sun 08:06
 きのうは、ハバロフスク市内をいろいろと回ったのですが、やはり、赤軍博物館(下の画像左。以下、画像はクリックで拡大されます)や日本人抑留者が建設した建物(下の画像右:公務員大学)等を見ると、どうしてもシベリア抑留のことを思い出します。

      赤軍博物館     ハバロフスク公務員大学

 となれば、このマテリアルを持ってこないわけにはいかないでしょう。(画像はクリックで拡大されます)

      シベリア抑留(表)     シベリア抑留(裏)

 これは、いわゆるシベリア抑留者が差し出した葉書です。差出人の書込によれば、葉書の文面は1948年1月13日に書かれ、収容所側の検閲を受けた後、2月27日にウラジオストク局を経て、4月18日に宛先の香川県に届いたもののようです。シベリア抑留者用の葉書にはいくつかのタイプがありますが、これはそのうちの用紙が白紙で、上部に赤十字のマークが入っていないものです。

 1945年8月9日、日ソ中立条約を一方的に破棄して日本に対して宣戦布告を行ったソ連は、満洲や北朝鮮、千島・樺太に侵攻し、武装解除した旧日本軍将兵のみならず、名目をつけて逮捕した日本人男性の多くをシベリアに連行して強制労働に従事させました。

 ドイツとの死闘で2000万人以上の犠牲者を出し、経済的に疲弊しきっていたソ連にとって、占領地域の日本人は、戦後復興のための最も安価な労働力としてきわめて便利な存在とみなされ、それゆえ、彼らは、あらゆる国際法規・条約を無視して、日本人をシベリアの奥深くに連行し、2年から4年、長い人では11年にわたって奴隷さながらの重労働に従事させました。

 終戦後、日本政府は連合国側の指示を待つまでもなく、ただちに、復員・引揚事業に着手しました。ソ連を除く連合諸国も、迅速な在外邦人の復員・引揚を希望し、1946年3月16日に“引揚に関する基本指令”が発せられたときには、中国・東南アジア・南洋諸島などでは既に大規模な引揚が行われました。しかし、この基本指令では、ソ連の占領地域(旧満州・北朝鮮・千島・樺太)からの引揚に関しては“適当な協定が成立した場合”と規定されているのみで、引揚の基礎となる法的文書さえもできていない状態でした。

 1946年9月になって、ようやく、ソ連当局は捕虜が各自の家族に通信することを許可すると発表します。ただし、これは抑留者全員に許可されたわけではなく、ソ連側の基準で“(労働などの)成績の良好な者”に限られていたといわれています。ちなみに、今回ご紹介の葉書の文面には「皆1通しか出せんのですが、組長や新聞解説員をしておりますから2通出せるのです」とあり(原文は検閲の都合で全文カタカナ書きです)、差出人もそうした“成績の良好な者”のひとりであったことがうかがえます。

 抑留者たちは専用の往復葉書を支給され、往片に家族宛の便りを書き、復片には自分の住所・氏名を書き込んだ。復片には、「本ハガキに記入すること。本ハガキでなければ受信人に届きません。文言は裏面に記入されたし」との注意書きが印刷されており、料金は往復ともに無料でした。

 抑留者たちが書いたハガキは、収容所司令部の下部組織である分所ごとにまとめて収容所司令部に集められ、そこで検閲を受けてから、ウラジオストック郵便局経由で日本宛に逓送されています。その第一便は、1946年11月25日、東京湾に入港したソビエト船“スモーリィ”号で届けられました。その数は、およそ8万通だったそうです。

 なお、今回の葉書の後半、検閲で塗りつぶされた部分のすぐ後ろには、次のような記述もあります。

 今年の正月は善哉飯盒に半分で終わりました。昨年はジャガイモきんとんの側にエンドウのあんこを入れた代用餅1、一昨年は3等メリケン粉の側にもち米のあんこを入れ代用餅2つで済ましました。早く餅とみそ汁が食べたいものです。

 この葉書の差出人が、無事に帰国して日本の餅とみそ汁を食べることができたのかどうか、確認していないのですが、シベリアの凍土で二度と餅とみそ汁を食べることなく亡くなっていった方々も少なくなかったことでしょう。

 そういえば、きょうはお彼岸の中日でしたね。空港の近くには日本人墓地もありますので、明日は帰国前に空港に立ち寄り、日本から持参した真空パックの餅とインスタントのみそ汁の素、それに、日本酒をお供えして、この地で亡くなった英霊の皆様に黙祷をささげてくるつもりです。これもまた、“漫郵記”の一つのスタイルとご理解いただけると幸いです。
 

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