内藤陽介 Yosuke NAITO
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 目打があってもなくても①
2010-03-24 Wed 09:47
 ご報告が遅くなりましたが、東京郵便切手類取引所(TOPHEX)による『スター☆オークション』(3月27日実施)のカタログ第9号ができあがりました。僕が担当しているオマケの読み物ですが、今回からは、ジョルジュ・バルトーリの郵趣コラム集 Avec ou sans dents (邦題『目打があってもなくても』)に所収のコラムをご紹介することにしました。その第1回目は「パナマ運河の運命を決めた切手」。下の切手にまつわるエピソードが取り上げられています。(画像はクリックで拡大されます)

      ニカラグア・火山

 これは、1878年に発行されたニカラグアの5センタボ切手で、同国の国章に取り上げられているモモトンボ火山が描かれています。このデザインは、1862年に発行のニカラグア最初の切手から1880年発行の切手まで用いられましたが、今回は、白黒の雑誌でも図案がよくわかるようにと思い、黒の切手を持ってきました。なお、切手は無目打のようにも見えますが、ルレット目打が施されています。

 さて、1889年にフェルディナン・ドゥ・レセップスによるパナマでの運河掘削工事が頓挫した後、太平洋と大西洋を結ぶ運河の建設予定地としては、パナマ地峡のほかに、ニカラグア地峡も検討されるようになっていました。

 地図を見ると、ニカラグアの地峡はパナマよりも幅が広く、それゆえ、掘削工事もより大掛かりなものとなることが予想されましたが、ニカラグアの地峡ではマナグア湖が大きな面積を占めており、明らかに掘削工事の距離は少なくて済むと予想されていました。このため、米国政府内では、日々、ニカラグアに運河を建設すべしとする意見が勢いを得ていくことになります。

 パナマ派とニカラグア派の勢力が拮抗するなかで、レセップスの遺志をついでパナマでの運河建設を実現しようと考えたフィリップ・ビュノー・ヴァリーヤは、ニカラグアでは火山活動が活発で、しばしば地震が起きていることに着目。ニカラグアに運河を建設すれば、将来的に地震によって運河の交通に支障が出るであろうということを、ニカラグア派への有力な反論としようと考えます。その背景には、マルティニク島のプレ火山の噴火で4万人もの死者が生じた事件の記憶から、火山は危険だと考える人々が多かったという事情がありました。

 このため、ヴァリーヤは、ニカラグアに活火山があることの動かぬ証拠として、ニカラグアの切手に注目します。切手には、噴煙を上げるモモトンボ火山の風景が誇らしげに描かれていたからです。かくして、ヴァリーヤは、運河建設地を決める米議会の議員90人に資料として提出するため、モモトンボ火山の切手を90枚調達すべく奔走します。

 ヴァリーヤが切手の調達を始めた時、すでに、議会の開会までは残り48時間となっていました。しかし、ワシントンでは7枚しか切手を入手できなかったため、彼はニューヨークへと走り、ともかくも90枚を確保します。時間内に枚数を確保することが最優先でしたから、文字通り、札束でかき集める手法がとられ、最後の5枚に関して、ヴァリーヤが支払った金額は、この切手の相場から考えると、異常な高値だったそうです。

 審議当日、議員たちの机の上には、台紙にマウントされた切手が配られます。そして、その下には「ニカラグアの火山が現在活動中であることの公的な記録」との文言が付け加えられていました。

 かくして、投票の結果、わずか4票差でパナマ案が採択され、パナマ運河建設が実現に向かって動き出すことになりました。後に何人かの議員が告白したところによると、最後の最後で、彼らの態度を決めたのは、ニカラグアの切手だったとのことです。

 なお、『スター☆オークション』の新連載では、 Avec ou sans dents (邦題『目打があってもなくても』)の中から、いくつかのコラムを選んでご紹介していきますが、ページ数の関係もありますので、原文の逐語訳ではなく、適宜、原文の大意を損なわない程度に省略や要約を行った個所もありますので、ご了承いただけると幸いです。


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