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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ソウルの北朝鮮国旗
2010-06-28 Mon 09:55
 おかげさまで、東京・目白の切手の博物館で行われた“郵便でつづる朝鮮戦争”展は、きのう(26日)、無事に閉幕いたしました。ご来場の皆様には、あらためて、この場をお借りしてお礼申し上げます。さて、きょうは1950年6月28日に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)がソウルを占領して60年という節目の日でもありますので、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ソウルの赤旗     ソウルの赤旗(写真)

 左の切手は、1950年7月10日に北朝鮮が発行した“ソウル解放”の記念切手で、北朝鮮国旗の翻る韓国政庁(旧朝鮮総督府の建物)が描かれています。右側の写真は、ソウルの戦争記念館での“625戦争60周年”の特別展示で飾られていた写真で、実際に、当時の政庁に翻っていた北朝鮮国旗を撮影したものです。

 1950年6月25日に南侵を開始した朝鮮人民軍は、奇襲攻撃の利を活かして進撃を進め、同月28日、ついにソウル市街の一角に突入します。

 当時、朝鮮人民軍の首都(当時は、北朝鮮側も建前としてはソウルを首都としていました)侵攻に対して、韓国軍の蔡秉徳参謀総長は、漢江に架かっていた漢江大橋と広壮橋、それに複線2本・単線1本の鉄道橋の爆破を命令。朝鮮人民軍の進撃を少しでも遅延させようとしました。

 しかし、このプランには、ソウル以北の韓国軍部隊の撤退やソウル市民の避難をどうするのかという視点が欠落していました。このため、蔡は、いったん、爆破の延期を決定したものの、混乱の中で司令部と現場との連絡が不首尾に終わり、漢江大橋と2本の鉄道橋が予定通り爆破されてしまいます。この爆破により、橋の上にいた数百人の将兵・市民等が犠牲になったほか、ソウルの外郭を防衛していた韓国軍主力も士気を失い、なだれをうって崩壊。韓国側の極度の混乱状況の中で、開戦からわずか3日で、ソウルは朝鮮人民軍の前に陥落しました。

 当時、大方の予想では、ソウル陥落後、朝鮮人民軍はただちに漢江を渡河し、一挙に南下するものと見られていましたが、朝鮮人民軍は6月28-30日の3日間、政治犯の逮捕や囚人の解放、ソウル政庁での戦勝祝賀会などを開催して時間を空費。さらに、7月1・2日の両日は漢江鉄橋の修復・確保に時間を取られたこともあり、5日間の時間的な猶予を韓国側に与えることになります。それゆえ、北朝鮮が進軍を停止したこの3日間は、“謎の3日間”とよばれ、その理由をめぐっては、専門家の間でも意見が分かれています。

 すなわち、南朝鮮労働党の呼応蜂起(北朝鮮側は、開戦にあたって、南側の人民が南侵に呼応して反李承晩の一斉蜂起に立ち上がるだろうと喧伝していた)を待っていたという説や、韓国側には漢江南岸での迎撃準備が整っていたと北朝鮮側が誤解したという説、またソウル占領があまりにも順調に進み、他の作戦との足並みをそろえるため、時間調整が行われたとする説、などがその主なものです。

 もっとも、作戦上の判断は別にして、当時の朝鮮人民軍の間には、ソウルの占領によって戦争は実質的に終結するとの楽観的な空気が強かったことも事実で、北朝鮮の首脳部はソウル占領後すぐさま戦勝祝賀会を開催しています。このように、ソウルの解放イコール“祖国解放戦争(朝鮮戦争の北朝鮮での呼称)”の勝利との認識から、彼らが発行したのが、今回ご紹介の切手です。

 ところで、この切手は、ソウル陥落からわずか12日後の7月10日に発行されました。オリジナル・デザインの切手の制作には、最低でも1ヵ月以上はかかるがフツーです。このことは、1946年2月に、ソ連占領下で事実上の北朝鮮政府ともいうべき北朝鮮臨時人民委員会が発足したのに対して、同委員会の下で最初の切手が発行されたのは同年3月であったことからもお分かりいただけるものと思います。したがって、今回ご紹介の切手に関しても、“1950年6月28日”というソウル陥落の日付部分を除き、原画の制作など、開戦前から制作作業がはじめられていたものと考えるのが妥当でしょう。

 いずれにせよ、開戦前から記念切手の発行を準備していたということは、北朝鮮側が南侵の準備を周到に進めていたことをうかがわせるもので、結果的に、北朝鮮は自ら発行した切手によって、「朝鮮戦争は南からの挑発だ」という自分たちの主張が根拠薄弱なものであることを自ら吐露してしまったといえます。

 なお、朝鮮戦争と切手・郵便については、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でもいろいろと解説しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

 
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