内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ルーマニアとアポロ計画
2010-07-04 Sun 12:49
 きょう(4日)はアメリカの独立記念日です。毎年、7月4日にはその時点での僕の最新作の中からアメリカがらみの切手を持ってくるのですが、『昭和終焉の時代』にはアメリカとストレートに結びつく切手がないので、その前の『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』のなかから、この切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ルーマニア・アポロ

 これは、1972年にルーマニアで発行されたアポロ計画シリーズの1枚で、1969年の出来事としてアポロ11・12号を取り上げています。シリーズは、全9種で1972年までのアポロ計画の歴史をまとめられたもの。額面ごとの内容は、10バニ:アポロ1-3号(1967年)、35バニ:1967年の訓練中に亡くなった3人の飛行士、40バニ:アポロ4-6号(1967-68年)、55バニ:アポロ7-8号(1968年)、1レウ(=100バニ):9-10号(1969年)、1レウ20バニ:アポロ11-12号(1969年)、1レウ85バニ:アポロ13-14号(1970-71年)、2レイ(レイはレウの複数形)75バニ:アポロ15-16号(1971-72年)、3レイ60バニ:アポロ17号(1972年)となっています。

 東西冷戦下、ソ連とは距離があったとはいえ、東側諸国の一員であったルーマニアが、さかんにアポロ計画に関する切手を発行している背景には、ただ単に、宇宙切手が全世界的に人気のある、すなわち、外貨獲得のための輸出商品として利用価値があったからというだけではなく、アポロ計画の基礎を築いたのが“ルーマニア出身”のヘルマン・オベルトであったことも大いに関係しているものと思われます。

 オベルトはオベルトは1894年6月25日、当時はオーストリア・ハンガリー支配下にあったシギショアラ近郊のメディアスで生まれ、少年時代をシギショアラで過ごしました。11歳の頃、ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』と『月世界へ行く』を読んで大いに感銘を受け、14歳の時には宇宙ロケットの模型を作り、独自に多段式ロケットを着想したそうです。

 1912年、医学を学ぶためにミュンヘン大学に進学しましたが、第一次大戦にぶつかり、東部戦線に送られます。1915年、彼は軍医としてシギショアラの病院勤務となりましたが、軍務のかたわら、無重力状態に関する実験を行うとともに、ロケット研究を再開。独自のミサイル構想を軍部に提案しています。

 第一次大戦後の1919年、オベルトはドイツに戻って物理学を学び直し、1922年にはロケット科学に関する博士論文を提出しましたが、内容が空想的として退けられてしまいます。当時の技術では、オベルトの理論はとても実現できないと考えられていたため、アカデミックな世界では彼の議論はほとんど無視されてしまうのですが、1928~29年にはベルリンで映画『月の女』に登場するロケットについての技術顧問に就任。この映画によって、ロケット科学の考え方は一般に広まり、オベルトも映画のプロモーション活動の一環として小型のロケットを作り、打ち上げています。そして、これを機に、オベルトの研究は一躍脚光を浴びるようになりました。

 第二次大戦中、オベルトはドイツ軍のためのロケット開発に尽力しましたが、戦後はその技術力が評価されてアメリカに渡り、1962年に引退するまで研究活動を続け、アポロ計画の礎を築きました。

 シギショアラのランドマークとなっている時計塔の内部は歴史博物館になっており、古代の生活用品、ルネサンス時代の家具、17世紀のガラス、18世紀の手術道具などとならんで、“ロケットの父”であるオベルトのコーナーもあります。また、街の中心部には“地元の名士”オベルトの名を冠したヘルマン・オベルト広場もあり、オベルトがドラキュラ同様、シギショアラの街にとって重要な人物であることがわかります。

 オベルトがドイツのニュルンベルクで93歳の天寿を全うしたのは1989年12月28日のことでしたが、独裁者チャウシェスクが銃殺されたのは、そのわずか3日前の12月25日でした。歴史にifは禁物とはいえ、もし、オベルトがあと数年、健康で生きながらえていたとしたら、彼が自由を取り戻した“故郷”に錦を飾るということもありえたかもしれません。

 なお、拙著『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』では、そうしたオベルトを狂言回しとしたルーマニア現代史の知られざる一面もご紹介しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。
 

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 皆様のご来場・ご参加を心よりお待ちしております。なお、オークションについてのお問い合わせ、カタログの入手方法などにつきましては、こちらまで、お問い合わせください。

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