内藤陽介 Yosuke NAITO
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 最後の皇太子亡くなる
2011-07-05 Tue 21:47
 オーストリア・ハンガリー二重帝国を支配したハウスブルク家の最後の皇太子だったオットー・フォン・ハプスブルク氏が、きのう(4日)、98歳で亡くなりました。というわけで、きょうは、ハプスブルク帝国ネタの中から、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

        オーストリア・新聞切手使用例

 これは、1851年6月30日、ヘルマンシュタット(現ルーマニア領シビウ)から差し出されたオーストリアの新聞切手の使用例です。

 新聞というと、日本では各家に配達されるか駅やコンビニで買うものというイメージが強いのですが、19世紀以前のヨーロッパでは、郵便で送られるものでもありました。現在でも『XXポスト』と題する新聞がいくつかありますが、それらはいずれも、もともと郵送されるものでした。一方、郵政当局の側からすれば、まとまった部数の新聞を定期的に郵送してくれる新聞社は上得意ですから、一般の利用者に比べて料金を割安に設定するなどの優遇措置が講じられます。その結果、新聞を送るための専用切手(新聞切手)を発行する国も少なからずありました。

 さて、今回ご紹介の郵便物は、1851年にオーストリアで発行された世界最初の新聞切手の使用例で、切手に描かれているのは、ローマ神話の商業神・マーキュリーです。マーキュリーは、ラテン語読みではメルクリウスで、ギリシャ神話のヘルメス(日本ではフランス語読みの“エルメス”といった方が通りが良いかもしれません)と同一視されています。ヘルメスは、ゼウスとマイアの子でオリュンポス12神の1柱で、 旅人、泥棒、商業、羊飼いの守護神にして神々の伝令役であることから通信の象徴ともされており、ヨーロッパの切手にはしばしば取り上げられています。

 切手には額面の表示はありませんが、刷色によって額面が決まっており、青色は0.6クロイツァーに相当します。切手の上部には“新聞”を、下部には“切手”を意味するドイツ語が印刷されており、国名の表示はないものの、左側にはドイツ語の“Kaiserlich-Koeniglich”の頭文字に相当する“KK”の表示も見られます。

 “Kaiserlich-Koeniglich”は直訳すると“帝国にして王国(の)”という意味で、オーストリア皇帝とボヘミア王、ハンガリー・クロアチア王を兼ねる君主としてのハプスブルク家の支配体制をあらわします。この場合、トランシルヴァニアのヘルマンシュタットは、ハンガリー王としてのハプスブルク家の支配下にある地域という位置づけです。

 その後、ハプスブルク家は、1853年にバルカン半島での権益をめぐってロシアと対立してからは坂道を転げ落ちるかのごとく衰退の一途をたどり、1859年にはイタリア統一を目指すサルディニャとの戦争に敗れてロンバルディアを失い、1866年にはプロイセンとの戦争に大敗を喫し、KK体制の維持もおぼつかなくなってしまいました。

 そこで、彼らが起死回生の策として打ち出したのが、KKの人口の2割を占めるハンガリー人と友好を結び、ドイツ人とハンガリー人によって体制を維持しようとする“二重帝国”のプランでした。

 かくして、1867年、オーストリア・ハンガリー二重帝国が発足。これに伴い、“Kaiserlich-Koeniglich”のKaiserlich(帝国)とKoeniglich(王国)は同格に並立するものとなり、英語のandに相当するundを間に入れた“Kaiserlich und Koeniglich”の略称“K.u.K.”が使われるようになります。

 そして、二重帝国体制の下では、オーストリア皇帝にしてハンガリー国王にであるハプスブルク家の人物の下、軍事・外交および財政のみは中央政府が担当するものの、その他はオーストリアとハンガリーの両政府がそれぞれ独自に担当することになりました。このため、ハンガリー政府の担当地域では従来のオーストリア切手に代わって独自のハンガリー切手が発行・使用されることになりました。

 今回ご紹介のマテリアルの差出地であるヘルマンシュタットは、二重帝国の発足に伴い、ハンガリーの領域とされ、消印の表示もドイツ語のヘルマンシュタットからハンガリー語のナジセベンに改められました。そして、第一次大戦によりハプスブルク帝国が崩壊し、トランシルヴァニアがルーマニア領となると、ヘルマンシュタットないしはナジセベンと呼ばれていた地名もルーマニア語でシビウと呼ばれるようになりました。

 なお、シビウを含むトランシルヴァニア地方の過去と現在については、拙著『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』でもいろいろとご紹介しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。


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