内藤陽介 Yosuke NAITO
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 イラン特殊工作部隊の名前
2011-10-12 Wed 23:53
 アメリカ司法省はきのう(11日)、イラン革命防衛隊の特殊工作部隊の支持を受けて、駐米サウジアラビア大使の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男など2人を訴追したと発表しました。で、この特殊工作部隊の名前が、日本の報道ではいろいろと表記が揺れているようなので、きょうはこんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

        世界エルサレムの日

 これは、1982年にイランが発行した“世界エルサレムの日”の切手で、エルサレムにおけるイスラムの聖地、岩のドームが描かれています。

 1948年の第一次中東戦争の結果、イスラエルは西エルサレムを領土として確保しましたが、ユダヤ教・キリスト教・イスラムの三宗教の聖地であるエルサレム旧市街を含む東エルサレムとヨルダン川西岸地区はトランスヨルダンが領土として併合し、トランスヨルダンは現在のヨルダン・ハシミテ王国となりました。

 その後、1967年の第3次中東戦争の結果、イスラエルは東エルサレムとヨルダン川西岸地区を占領しましたが、この戦争がイスラエル側の先制奇襲攻撃ではじまったことから、イスラエルによる占領地拡大の正統性については、アラブ諸国はもとより、社会主義諸国や中立諸国なども懐疑的で、1967年11月の国連安保理では、占領地域からのイスラエル軍の撤退を要求する決議が採択されました。

 これに対して、エルサレム全域を支配下に置いたイスラエルは、テルアビブからエルサレムへの“遷都”を宣言しましたが、上記のような理由で、国際社会は、イスラエルによる東エルサレムの占領を認めておらず、必然的に、エルサレムを“首都”とするイスラエル側の主張も認めていません。このため、在イスラエルの外国大使館は、従来どおり、テルアビブにおかれるのが慣例となっています。

 今回ご紹介の切手は、こうした背景の下で、イスラム原理主義国家のイランが、イスラエルによるエルサレム占領に抗議する国際世論を喚起するために発行したものですが、“世界エルサレムの日”の英文表記が“THE UNIVERSAL DAY OF GHODS”となっている点にご注目いただきたいと思います。

 ここに出てくる“GHODS”はエルサレムのことですが、エルサレムはアラビア語ではクドゥス(コドゥスと訛ることもあります)と呼ばれています。そのスペルをローナ字表記に直すと“Quds”となるのですが、アラビア文字のqに相当する音は、イランの言語であるペルシャ語では、しばしば、ガ行の音として発音されます。イランで近代郵便制度を導入し、最初の切手を発行した王朝が、日本語表記で、カージャール朝ともガージャール庁とも呼ばれるのは、単語の最初のqの音をどう表記するかという違いによるものです。

 したがって、エルサレムの呼び方は、ペルシャ語でもアラビア語に由来する“Quds”ですが、それを日本語表記にしようとすると、クドゥス、コドゥス、ゴドゥスなどの可能性が出てきます。さらに、“Quds”を英語読みするとクッズとなりますが、そこに上記のコドゥス、ゴドゥスが混じってくると、コッズやゴッズといった表記も出てくることになります。今回の報道での表記がいろいろと揺れていたのは、このためです。

 ちなみに、問題のクドゥス部隊は、もともとはイラン=イラク戦争の最中に編成された特殊部隊として出発し、その後、秘密工作担当となりました。レバノンのシーア派組織、ヒズボラの国際テロ部門を事実上指揮しているとされるほか、アフガニスタンではマスウードのタジク人部隊を支援し(アフガニスタンにおけるイランの影響力拡大を嫌ったサウジやパキスタンが、当初、ターリバーンを支援したのはこのためです)、イラクのクルド民兵やボスニア紛争時のイスラム教徒軍なども支援しており、世界の紛争・テロにおいて重要な役割を果たしているとも言われています。

 当然のことながら、アメリカをはじめ西側世界にとっては厄介な存在ですから、今後も、なにかと問題を起こしてニュースに登場することになると思います。それだけに、この組織の名前を日本語で表記どうするのかということも、どこかできちんと基準を作った方がよいでしょうね。
 

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