内藤陽介 Yosuke NAITO
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 羅馬尼亜桃花
2012-03-03 Sat 21:50
 きょう(3日)は桃の節句です。というわけで、桃の花に絡んでこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

        ルーマニア・桃の花FDC

 これは、昨年(2011年)6月にルーマニア(漢字で書くと羅馬尼亜)で発行された桃の花の切手の初日カバーです。

 この切手の発行に際してルーマニア郵政が発表したプレスリリースでは、桃についての植物学上の説明に加え、桃が中国原産でアレキサンダー大王によってヨーロッパにもたらされ、大航海時代のスペイン人によってアメリカ大陸にもたらされたこと、17世紀には英仏の宮廷でもてはやされたこと、古代中国では不老長寿の象徴としてみなされていたことなどが説明されています。また、プレスリリースには、「この切手と合わせて2011年3月に発行された芍薬の切手もあわせてどうぞ」といった趣旨の文言も見られます。

 このように、今回ご紹介の切手を発行するに際して、ルーマニア郵政は“中国”を強く意識している様子がうかがえますが、その背景には、昨今のルーマニア社会において中国(人)のプレゼンスが急速に高まっているという事情があるとみて間違いないでしょう。

 もともと、共産主義時代のルーマニアは、ソ連と距離を置く独自路線を推し進めていたことに加え、チャウシェスク夫妻は1971年に中国・北朝鮮を訪問し、かの地で毛沢東ないしは金日成に対する異常な個人崇拝やマスゲームなどを目にし、自国でもこれと同じことを行うべく、帰国後の同年7月、“ルーマニア文化大革命”を発動して独裁体制を強化していったという経緯があります。したがって、共産政権時代、ルーマニアと中国・北朝鮮は強い友好関係にあり、チャウシェスク政権の崩壊後、北朝鮮は政権崩壊のプロセスをかなり詳細に分析したレポートを残していたとされています。

 共産政権の崩壊後の1990年代、中国とルーマニアの政治的な関係は以前ほど緊密ではなくなりましたが、中国が急激な経済成長を遂げると、今度は経済という点から中国はルーマニアに注目するようになります。特に、2004年にルーマニアが北大西洋条約機構 (NATO) に参加し、2007年1月に欧州連合(EU)に加盟すると、中国はかつての友誼を持ち出してルーマニアに対するアプローチを加速させていきました。
 
 中国からすれば、NATOの1票を持つルーマニアを取り込んでおくことで、NATOにおける対中批判に対する反撃の拠点を確保することができます。また、EU加盟国であるルーマニアの国内に工場を設けて製品を生産すれば、EU域内の産品としてEU全域へ無関税で持ち出すことができます。さらに、中国とルーマニアの総合的な国力を比較してみれば、中国が圧倒的な優位に立っていることは明白です。こうしたことから、中国にとって、ルーマニアは対EU工作の拠点として格好の存在といえましょう。

 一方、人口2100万人強、経済規模でほぼ広島県並みといわれるルーマニアにしてみれば、中国の経済力は非常に魅力的で、それゆえ、近年、中国への傾斜を急速に強めています。

 たとえば、2011年8月10日から16日にかけて、ルーマニアのエミル・ボック首相以下、外相、公共財務相、運輸・社会基盤相らを含む大代表団が訪中。ドナウ川・ブカレスト間の運河建設、ブカレスト環状道路の整備に水力発電所の建設、さらには原発2期の増設など、ルーマニアのインフラ整備に関して、中国のより一層の関与を要請しています、これ以外にも、ルーマニア政府は、炭鉱経営や地下鉄建設を中国に任せる意向を示しています。

 もちろん、こうした対中依存ともいうべき外交政策に関しては、ルーマニア国内でも国家の基幹インフラを外国にゆだねるのはいかがなものかとの反対意見もあるのですが、訪中団を組織したボック首相は「中国は大事な国だからもっと早く行くべきだった」と応じて、全く意に介するようすはなかったそうです。

 一方、中国資本の進出に伴い、ルーマニア国内で働く中国人労働者の数も急増していますが、昨年8月には、古都ヤシの建設現場で働く中国人約50人が待遇への不平から暴動を起こす事件も発生しています。この暴動に際して、中国から派遣された管理者が説得に失敗したことから、ルーマニア警察が催涙ガスを打ち込んで暴動を鎮圧しましたが、このことは、あらためて、ルーマニアの社会と経済における中国のプレゼンスを見せつける結果となりました。

 いずれにせよ、今回ご紹介の切手が発行された背景には、現在のルーマニアと中国との抜き差しならぬ関係があるということは、留意しておいた方が良さそうです。

 なお、ルーマニアについては、拙著『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』でもいろいろとご紹介しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。

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