内藤陽介 Yosuke NAITO
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 韓米FTA発効
2012-03-16 Fri 23:02
 きのう(15日)、韓米自由貿易協定(FTA)が発効しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

        韓国8大輸出産業

 これは、2006年3月に、韓国が発行した“8大輸出産業”の切手で、自動車、半導体、石油化学、電器、機械、造船、鉄鋼、繊維自動車、半導体、石油化学、電器、機械、造船、鉄鋼、繊維の各産業を象徴するデザインの切手の連刷となっています。切手が発行された2006年3月は、韓国が米国とのFTA締結に向けた交渉を開始した時期であり、今回ご紹介の切手は、貿易立国としてFTA交渉の早期妥結にかける韓国側の意気込みをしましたものと理解されています。

 韓米FTA交渉を開始した盧武鉉政権は、いわゆる左派政権として、企業により大きな社会的負担を求める経済政策を採用していましたので、国内総生産(GDP)を基準とした経済成長率は前政権までと比べて大きく落ち込んむことになりました。すなわち、金泳三時代の平均成長率は、前期(1993-95年)7.9%、後期(1996-97年)5.9%、金大中時代は前期(1999-2000年)9.0%、後期(2001-02年)5.4%だったのに対して、盧武鉉時代は初年度の2003年で3.1%、2005年までの政権前半の3年間平均でも3.9%にとどまっており、潜在成長率(4%代後半)さえクリアできませんでした

 このため、政府としては、EU(ヨーロッパ連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)に次ぐ、世界3位の経済規模となる韓米FTAを実現し、①関税・非関税障壁の撤廃により貿易を増大させ、企業の収益を増大させる、②外国人投資家の活動を保証し、韓国への投資環境を向上させて外国新投資を増大させ、国内への投資が増大させる、③競争の促進、新技術の導入、システムの近代化などを通して生産性を向上させ、国民所得を増大させる、というシナリオを構想。早くも2007年4月には協定の調印にこぎつけます。通常のFTA交渉の場合、両国の関係当事者・有識者による共同研究会や個別事案についての政府間交渉などで、少なくとも3年はかかりますから、異例のスピードといえましょう。

 その後、2010年12月初旬に追加交渉が署名され、米国では合意法案が2011年10月に上下両院を通過し可決。韓国では、2011年6月に韓国国会に批准同意案が提出され、野党が激しく反対し、同年10月28日にはデモ隊が国会に乱入したものの、その後11月には可決されました。

 今回のFTA発効により、両国間では直ちに約80%の品目への関税が撤廃され、今後5年以内に95%の品目への関税が撤廃されることになっています。

 きょう(16日)付の『中央日報』紙によると、韓国の自動車部品会社は、輸出関税の4%がなくなったことで、米国の自動車会社から大量の注文が入り、自動車用電気部品を生産する大星電機の担当者は「GMなど米国自動車会社から注文を受けた量は昨年の6倍にのぼる」と話しているそうです。また、大手スーパーなどでは、米国産のオレンジ、牛肉、ワインなどが軒並み値下げされ、活況を呈したのだとか。

 こういうニュースだけ聞くと、韓米FTAは良いことづくめのようにも見えますが、その一方で、以下のような問題点も指摘されています。すなわち、

 1.サービス市場を全面的に開放しなければならず、禁止する品目は例外的に明記しなければならない。リストに明記されていない新たなサービス市場などについては、国内産業を保護することができない。

 2.ラチェット条項:一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない。たとえば、狂牛病が発生しても牛肉の輸入を中断できない。

 3.未来最恵国待遇:今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用する。

 4.スナップ・バック:自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすと米企業が判断した場合、米の自動車輸入関税2.5%撤廃を無効にする。

 5.ISD:韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、(米国が絶大な影響力を行使できる)世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。また、この条項は韓国にだけ適用される。

 6.非違反申立:米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できる。例えば米の民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない」として、米国政府に対し韓国を提訴するよう求める可能性がある。

 7.韓国政府が規制の必要性を立証できない場合は、市場開放のための追加措置を取る必要が生じる。

 8.米企業・米国人に対しては、韓国の法律より韓米FTAを優先適用する。例えば牛肉の場合、韓国では食用にできない部位を、米国法は加工用食肉として認めており、韓国はそういった部位も輸入しなければならなくなる。また韓国法では、公共企業や放送局などの基幹となる企業において、外国人の持分を制限しているが、韓国の全企業が外国人持分制限を撤廃する必要がある。

 9.知的財産権を米が直接規制:例えば米国企業が、韓国のブログやウェブサイトに対して、米国の基準に基づく著作権侵害を理由として閉鎖を求める訴訟を米国内で起こし、判決によっては当該ウェブサイトを閉鎖させることができる。

 10.公企業の民営化

 これらの10項目から予想されるダメージと、現時点ではほくほく顔の自動車部品会社などの利益とを差し引きしてみた場合、韓国の社会と経済に対してFTAがもたらすプラスとマイナスの収支がどのようなものになるのかは、現時点では神のみぞ知るとしかいえません。もちろん、プラスの面が天文学的に大きければ、ダメージなど吹き飛んでしまうという楽観論も完全には否定できないのでしょうが、僕などは、上記10の問題点を見る限り、わが国が幕末に欧米列強と結ばされた不平等条約を連想してしまいますな。

 いずれにせよ、韓米FTAは、現在、国論を二分する問題となっているTPPの先例ともいうべき事例となるはずですから、わが国も、その成否を見極めたうえで対応するという選択肢があってもいいように思います。少なくとも、「バスに乗り遅れるな」と呼号して、TPPへの参加を急ごうとする人に対しては、なぜ、議会と政党の自殺行為ともいうべき大政翼賛会結成の時のフレーズを繰り返したがるのか、ぜひとも、ご説明を求めたいところです。

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