内藤陽介 Yosuke NAITO
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 シリア政府が撤収期限無視
2012-04-11 Wed 15:48
 反政府勢力への大規模な武力弾圧が続いているシリアのアサド政権は、アナン前国連事務総長の調停に基づき、きのう(10日)までに人口一周地域から政府軍を撤収させることになっていましたが、期限を過ぎた現在なお、各地では反体制派への攻撃や戦闘が続いているそうです。というわけで、きょうはシリアがらみのマテリアルを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

        シリア・アラブ王国正刷カバー

 これは、1920年7月11日、アレッポからテュニス宛のカバーで、ファイサルのアラブ王国が発行した正刷切手が貼られています。

 第1次大戦中、英仏間の密約として結ばれたサイクス・ピコ協定により、現在のシリア・レバノンにあたる地域がフランスの勢力圏と規定されましたが、大戦の終結時、フランスはベイルートやアレキサンドレッタ、ラタキア対岸のルアド島などを占領していたにすぎませんでした。

 一方、ダマスカスの陥落とともに、シリアではファイサルを首班とするアラブ政府の樹立が宣言されていたこともあり、1919年のベルサイユ会議では、アカバからアレッポにいたる内陸部は東部OETAとしてアラブ支配地域に指定され、フランス支配地域の西部OETAはティールからキリキアにいたる海岸地域に限定されています。

 しかし、フランスは、あくまでもサイクス・ピコ協定の遵守を求め、シリアにおける自国の権利を主張。1919年11月、イギリス支配地域の南部OETA以外のシリア・パレスチナ全域からイギリスの占領軍を撤退させることに成功します。なお、これに伴い、フランスは西部OETAの郵便業務を引き継ぐことになり、自国の切手に「敵国領土占領(区域)」を示すフランス語(Territoiers Ennemies Occupes)の頭文字にあたるT.E.O.の文字を加刷した切手を発行しました。

 一方、イギリス軍の撤退により軍事的保護者を失い、フランスの軍事的脅威に直接さらされることになったアラブ支配地域では、首長のファイサルが、フランスとの交渉により、シリア内陸部におけるアラブ政府の存在を認めさせるべく、レバノンにおける委任統治の承認やベカー高原における中立地帯の設置などの妥協案を提示していました。その一方で、ファイサル政権は、オスマン朝時代の切手を接収して“アラブ政府”と加刷した切手を発行するなど、アラブ政府の存在を既成事実化するための措置も取っていました。

 しかし、シリア地域のアラブの間では、フランスとの妥協を図ろうとするファイサルの弱腰を非難する声が強く、それに押し切られるかたちで、1920年3月に招集されたシリア国民大会において、ファイサルはシリア・パレスチナ地域全域を領土とする立憲君主国「アラブ王国」の国王となり、独立を宣言。これにあわせて“シリア・アラブ王国”のカリグラフィーを中心にした切手が発行されました。

 これに対して、フランスは、1920年4月のサンレモ会議において、イラク北部のモースルの支配を放棄する代償として、イギリスに対して現在のシリア・レバノンの地域を自らの勢力圏とすることを最終的に承認させることに成功。当然、アラブ側は完全独立の要求と委任統治の拒否を決議してこれに抗議しましたが、同年6月、英仏両国は、これを無視して、それぞれの勢力圏内での委任統治を開始。全シリアを軍事占領したフランスは、同年7月、ファイサルを放逐してアラブ王国を崩壊させました。

 今回ご紹介のカバーはそうしたアラブ王国末期の使用例で、宛先地のテュニスは、アラブ王国の存在を認めないフランスの領土でしたが、アラブ王国の切手に関しては、料金未納扱いにせず、そのまま受け付けているのが興味深いところです。
 
 さて、第一次大戦から現在のシリア国家が独立するまでの期間のシリアは、切手や郵便の面で非常の面白い材料が多いので、いずれはまとめてみたいと思っています。書籍化を目指すということであれば、良くも悪くも、シリア情勢が人々の耳目を集めている現在は千載一遇のチャンスなんですが…。


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