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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ヴェネズエラ大統領選挙
2012-10-07 Sun 11:47
 南米のヴェネズエラで、きょう(現地時間7日)、任期満了に伴う大統領選挙が行われます。現職で4選を目指すチャベス大統領と主要野党の統一候補カプリレス氏による事実上の一騎打ちの構図で、結果は早ければ深夜にも判明する見込みだそうです。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

       武器なき新千年紀

 これは、2000年、ヴェネズエラ郵政が発行した“武器なき新千年紀”の切手で、銃口をふさぐ指が描かれています。

 1999年にヴェネズエラの大統領に就任したウゴ・ラファエル・チャヴェス・フリアス(以下、ウゴ・チャヴェス)が社会主義へのシンパシーを抱くようになったのは、中学時代のこととされています。

 高校卒業後、士官学校に進学したチャヴェスは、当時、ペルーの“軍事革命政権”(ユーゴスラヴィアの自主管理社会主義をモデルにした左翼軍事政権)を率いていたフアン・ベラスコ・アルバラードや、米国とパナマ運河返還交渉を行っていたパナマのオマール・トリホスに強い影響を受け、1975年、士官学校を卒業し陸軍少尉として空挺部隊に勤務するようになると、1982年には同志を募って軍内にCOMACATEと称する地下組織を組織しました。

 1989年2月、首都カラカスで貧困層が暴動を起こすと、鎮圧のために陸軍が出動し、多数の死傷者が発生した。このことに衝撃を受けたチャヴェスは、絶望的なまでに広がっていた貧富の格差を是正することを目指して、1992年、同志を募ってクーデターを起こしたものの失敗。ただし、投降の際に彼が行ったテレビ会見は、クーデターの是非はともかく、ヴェネズエラ国民の一定の支持を得たとされています。

 その後、チャヴェスとその同志は武装闘路線を放棄し、遵法闘争に路線を転換。ソ連崩壊後唯一の超大国となっていた米国とその新自由主義に追従するばかりの既成政党を激しく批判し、富裕層や労働組合幹部による医療・福祉の独占を廃して平等な社会の実現を訴え、1999年の大統領選挙で、現状に不満をもつ貧困層の圧倒的な支持を得て、大統領に選出されました。

 政権を掌握したチャヴェスは、ラテン・アメリカ解放の父とされるシモン・ボリバルの名を冠した新憲法、ボリーバル憲法を制定し、国名をベネズエラ共和国からベネズエラ・ボリバル共和国に変更したほか、大統領権限を強化し、二院制だった議会を一院制に変更。キューバから2万人の医師を招いて貧困層のための無料診療制度をととのえるとともに、地主の土地を収用して農民に分配する農地改革や、為替管理や統制価格の導入、石油公団 (PDVSA) への統制強化など、反米・社会主義路線を鮮明にしていきます。

 東西冷戦の終結から10年。社会主義は歴史上の遺物とする見方が一般的となっていた中で、新たな“社会主義”政権が誕生したことに世界は驚愕。その一方で、それまで挫折感を抱いていた全世界の左派リベラル勢力がチャヴェスに大いに期待を抱いたことは間違いありません。

 同時に、チャヴェスの側も、そうしたリベラル勢力との連携により、みずからの国際的な立場を強化しようとしていました。今回ご紹介の“武器なき新千年紀”と題する切手も、“反戦”“平和”を旨とする左派リベラル勢力の心情に寄り添ったものといえましょう。

 もっとも、かつての日本では誤解している人も多かったのですが、西側世界に対して“反戦”や“平和”のプロパガンダ攻勢をかけていた社会主義諸国は決して平和勢力であったわけではありません。アフガニスタン侵攻を行ったソ連、チベットウイグルで人権弾圧を続ける中国、朝鮮戦争を引き起こした北朝鮮の例を持ち出すまでもなく、多くの社会主義国家は国民生活を犠牲にして、客観的に見れば分不相応としかいいようのない軍事支出を続けるケースはめずらしくありません。

 チャヴェス政権の場合、政権発足当初から、極端な貧困層重視の政策と強引な政治手法は既存のエスタブリッシュメントの強い反発を招き、2002年にはCIAが関与するクーデター騒ぎも起こっています。結局、このクーデターは失敗に終わり、チャヴェスは政権を回復するのだが、このときの経験から、チャヴェスはあらためて軍の重要性を痛感したといわれています。

 こうした状況の下で、2004年に入ると、国際市場での原油価格が急上昇し、ヴェネズエラ経済は時ならぬ石油バブルに沸き、潤沢な資金を得たチャヴェス政権は軍拡路線を突き進んでいくことになりました。

 米国をはじめとする西側諸国は武器禁輸措置によって、反米に舵を切ったチャヴェス政権を封じ込めようとしたが、かえって、その穴を埋めるように、ロシア製を中心に、中国製、スウェーデン製の兵器がヴェネズエラで大量に流入します。具体的には、2006年のプーチン=チャヴェス会談の結果、ヴェネズエラはロシアのスホーイ30多用途戦闘機24機の購入契約を結び、陸軍の制式自動小銃をベルギーのFN FALからロシアのAK-103に変更。この結果、スホーイ戦闘機24機とヘリコプター53機も含め、2005-06年の間に両国間で交わされた兵器の売買契約は総額およそ30億ドルにものぼりました。

 ヴェネズエラが急激に軍備を増強させれば、当然のことながら、近隣諸国との軍事バランスは崩れ、地域の不安定化につながります。

 はたして、2008年、隣接する親米国家のコロンビアが国内の反政府左翼ゲリラ“コロンビア革命軍”討伐のため、エクアドルに対して越境攻撃を行い、両国関係が緊張すると、チャヴェス政権はコロンビアを非難し、コロンビア国境に軍を集結させ、アンデス危機と呼ばれる一触即発の状況が到来しました。

 このときは、米州機構の仲介により、コロンビアが謝罪することで事態は一応収拾されましたが、ヴェネズエラはロシア大統領のドミトリー・メドヴェージェフをカラカスに招き、ロシアとの合同軍事演習を行い、コロンビアの背後にいる米国を牽制しています。

 また、2009年7月、コロンビアはコロンビア革命軍に対してヴェネズエラ政府がスウェーデン製の対戦車砲を転売したと公に指摘。これに対して、チャヴェスは即座に否定し、報復措置として、コロンビアとの外交関係凍結を発表しました。

 さらに、コロンビア革命軍は麻薬カルテルとも深いつながりがあるとされていますが、コロンビア政府は、2009年8月、麻薬組織対策のために駐留米軍の増強を計画していることを発表。その背景にはヴェネズエラを牽制する意図があるのは明白でしたから、チャヴェスはこれをヴェネズエラに対する“敵対行為”であるとして激昂。ロシア製の戦車を多数調達すると発表して対抗しています。

 実際に、同年8月14日、米・コロンビアの軍事同盟が発効すると、チャヴェスはこれに対して“宣戦布告”と猛反発し、コロンビアとの断交も辞さないとの姿勢を明らかにします。チャヴェスによれば、「コロンビアと米国はヴェネズエラ攻撃をたくらんでおり、両国政府が一緒になって世界を欺こうとしている」のだそうです。いずれにせよ、“武器なき新世紀”の切手を発行したヴェネズエラという国が斯様な状況にあるという現実を、無邪気な反戦平和主義者の方々にも十分理解しておいていただきたいものですな。

 さて、ヴェネズエラの大統領選挙は直接投票による単純多数で勝者を決め(決選投票はなし)、新大統領は2013年1月10日に就任し、任期は6年となるそうです。事前の世論調査ではチャベス大統領が優位となっているものの、カプリレス候補も急速に支持を伸ばしているのだとか。カプリレス候補は外国企業の投資促進、外交では極端な反米路線の見直しを主張しており、仮に彼が勝利することになれば、良くも悪くも特異な存在として世界の耳目を集めてきたチャベス大統領は退場し、ヴェネズエラもフツーの国への復帰を目指すことになります。

 なお、このあたりの事情については、拙著『事情のある国の切手ほど面白い』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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