内藤陽介 Yosuke NAITO
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 メディア史研究・検閲の諸相
2012-10-13 Sat 21:11
 ご報告が遅くなりましたが、『メディア史研究』第32号ができあがりました。今号は特集が「検閲の諸相」ということで、僕も「シベリア抑留前期の捕虜郵便と検閲」と題する論文を投稿しています。というわけで、きょうは拙稿の中から、この葉書をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

       シベリア抑留葉書タイプIIB2

 これは、第二次大戦後、ソ連によってシベリアに連行され、強制労働に従事させられていた日本人抑留者の通信用に作られた専用の往復葉書のうち、タイプIIB2と呼ばれるものです。

 シベリア抑留日本人用の往復葉書は、大きく4つのタイプに分けられますが、このうち、往信部右下の番号が613で、赤十字・赤新月の入っていないものはタイプIIとされています。タイプIIは、字体がローマン体のAとゴシック体のBの2タイプに分けられ、さらに、表題2行目の“Й”の文字の位置により細分されます。今回ご紹介のモノは、表題2行目の“Й”が1行目の“O”の右下にあるタイプIIB2呼ばれるものです。

 さて、ソ連側の検閲基準では、反ソビエト的ないしは親ファシスト的と彼らが判断した内容の記述がある葉書は没収されたほか、①各収容所や特設病院、労働大隊に収容されているその他の軍事捕虜についての記述、②各収容所や特設病院、労働大隊に滞在時に病死したか事故死した軍事捕虜についての情報、③各収容所や特設病院、労働大隊、軍事捕虜が働いている企業の配置場所、④軍事捕虜が遂行している労働の性格、などを日本宛の葉書に書くことは「絶対に禁止」されており、必要に応じて問題個所を検閲担当者が抹消した後、日本宛に送られたといわれていました。

 このため、規則上は、捕虜郵便の差出人住所に“収容所”の語を記載することは禁じられており、ウラジオストクないしはハバロフスクの郵便局私書箱(実際の葉書の記述例としては“郵便函”となっている事例が多い)をリターンアドレスとすることになっています。そして、収容所によっては、日本人の通訳または収容所当局の担当者が一括してロシア語で差出人住所を記入する場合ありました。

 ところが、今回ご紹介の葉書のように、収容所側がロシア語での差出人の住所を記載した場合には、収容所当局みずからが“収容所”を意味するロシア語の“Лагерь”の印を押した事例がしばしばみられます。日本に送る郵便物なので、ロシア語の読めない日本人には意味が分かるまいとの判断だったのでしょう。こうした制度や規則と実際の運用とのズレというのは、文献資料を眺めているだけでは絶対に見えてこないわけで、実際のマテリアルを直接手に取ってみることの重要さを改めて教えてくれます。

 今回の『メディア史研究』に掲載の拙稿では、今回ご紹介の葉書以外にも、いろいろな実例を挙げながら、ソ連側の検閲規定とそれが実際にどのように運用されていたのかという点について、多角的に検証しています。拙著『ハバロフスク』には掲載されていない葉書も少なからず取り上げておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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