内藤陽介 Yosuke NAITO
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 岩のドームの郵便学(1)
2013-01-11 Fri 09:10
 ご報告が遅くなりましたが、先月25日配信の『本のメルマガ』487号から、「岩のドームの郵便学」と題する新連載をはじめました。今回は初回ということで、まずは、第一次大戦以前のエルサレムの郵便事情についてまとめてみました。その記事の中から、きょうはこのマテリアルをご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

        エルサレム・オスマン郵政

 これは、1907年にエルサレム中央郵便局から米国オハイオ州宛に差し出された葉書です。当時のオスマン帝国支配下のエルサレムで差し出された葉書としては、ごく一般的なもので、取り立てて珍しいものというわけではありません。
 
 あらためて言うまでもないことですが、第一次大戦以前、主権者としてエルサレムを支配していたのはオスマン帝国でした。

 1841年、オスマン帝国では通信制度の改革が行われ、ベイルートからダマスカス、アッカを経てエルサレムにいたる郵便物の定期輸送がスタートします。郵便網は次第に拡充されて、1852年にはエルサレム=サイダ間(経由地はスール、アッカ、ハイファ、ジャッファ)で週1回の定期便が開始。さらに、1856年 エルサレム=ヘブロン=ガザのルートが開設され、1867年 エルサレム=ジャッファ間の通信は週2便に増便されました。

 エルサレム域内の郵便局は、1841年に中央郵便局が開設されたのを皮切りに、順次、9の郵便局が開設されています。その中には、1898年10月31日から11月2日にかけて、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世のエルサレム訪問を記念して設けられた臨時の郵便局も含まれています。いずれにせよ、これらオスマン帝国の郵便局では、オスマン帝国政府の発行する切手が使用されていました。

 一方、オスマン帝国の領内には、主権者たるオスマン帝国以外に、列強諸国がいわゆるキャピチュレーション(オスマン帝国が域内在住の外国人に恩恵として与えた特権。代表的なものとしては、通商・居住の自由、領事裁判権、租税免除、身体・財産・企業の安全など)を利用して郵便局を設け、本国などとの通信や送金を取り扱っていました。

 郵便に関して、その先鞭をつけたのは帝政ロシアです。

 すなわち、ロシアは、1721年にサンクトペテルスブルグ=イスタンブール間で外交文書を運んだのを皮切りに、1774年になるとイスタンブールの領事館で郵便物の定期的な取り扱いを開始。以後、キャピチュレーションを援用するかたちで郵便網を拡充していきました。

 1856年にはロシア通商航海会社(ROPiT)による郵便サービスが始まり、翌1857年以降、オデッサ経由でオスマン帝国内の同社のオフィスからロシア全土への郵便物の配達が可能となります。さらに、1863年、オスマン帝国内のROPiTのオフィスはロシア国内の郵便局と同等の資格を与えられ、実質的なロシア局として機能するようになりました。これに伴って、オスマン帝国内のロシア局で使用するため、ロマノフ家の紋章である双頭の鷲が描く切手も発行されています。ただし、この時点では帝政ロシアはエルサレムを含むパレスチナの地には郵便局を開設していません。

 エルサレムでは、1852年、南欧から中東に広がる巨大な通信網を築き上げたオーストリア・ロイド社が郵便取扱所を開設したのが列強諸国の郵便局としては最初のケースで、以後、1890年にはフランスが、1900年にはドイツが、1901年にはロシアが、1908年にはイタリアが、それぞれ郵便局を開設しています。

 なお、しばしば誤解されがちなことですが、そうした地域に列強諸国の郵便局が複数存在している場合、多くの利用者は、所要日数や料金、便の都合などを勘案して、自分のニーズに最適な郵便局を選択するのが一般的で、イギリス人ならイギリスの郵便局を、フランス人ならフランスの郵便局を、それぞれ、固定的に利用していたわけではありません。このことは、現在でも、日本人だからといって、誰もが日本航空や全日空の飛行機で海外旅行をするわけではないのと全く同じことです。

 いずれにせよ、19世紀後半から第一次大戦以前にかけてのオスマン帝国は、ほぼ同時代の清朝がそうであったように、列強に蚕食され、崩壊寸前の巨象でした。列強諸国の郵便局が多数併存していたという状況は、まさにその証左にほかならないといえましょう。

 エルサレムに置かれていた列強諸国の郵便局は、第一次大戦を経てオスマン帝国が解体され、大英帝国がこの地の新たな支配者として君臨することで、ようやく、閉鎖されることになるります。同時に、そのことは、英国による中東政策の混迷の痕跡が、切手や郵便の上にもしっかりと刻み付けられるという結果をもたらすのですが、それらについては、今月25日配信予定の連載の次回記事でご紹介する予定です。


 ★★★ テレビ出演のご案内 ★★★

 テレビ朝日 2013年1月19日(土) 18:30~ 「雑学家族」

 今回は「郵便」の特集で、内藤がゲスト出演して“切手の面白さ”をウンチクとともにお話します。ご視聴可能な地域の皆様は、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。なお、放送番組の常として、大事故・大事件など突発的な事情により、番組の内容・放送時間等が変更になる可能性もありますが、予めご了承ください。(番組HPはこちらです)


 ★★★★ 第1回ヨーロッパ切手展のご案内 ★★★★

 今月19・20日(土・日)の両日、東京・目白駅の切手の博物館にて「第一回ヨーロッパ切手展」が開催されます。今回のお題は“黒海”で、内藤も、北カフカース(コーカサス)を題材としたミニ・コレクションを展示します。競争展ではないので、テーマティクないしは郵便史の作品としてルールに沿ってきっちりまとめたものというよりも、北カフカースに関するマテリアルをいろいろとご紹介するという気楽な内容です。僕以外のコレクションはかなり見ごたえのある内容になっておりますので、よろしかったら、ぜひ遊びに来ていただけると幸いです。


 【世界切手展BRASILIANA 2013のご案内】

 僕が日本コミッショナーを仰せつかっている世界切手展 <BRASILIANA 2013> の作品募集要項が発表になりました。国内での応募受付は2月1―14日(必着)です。詳細はこちらをご覧ください。


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