内藤陽介 Yosuke NAITO
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 岩のドームの郵便学(3)
2013-03-23 Sat 22:19
 ご報告がすっかり遅くなりましたが、『本のメルマガ』493号が先月25日に配信となりました。僕の連載「岩のドームの郵便学」は、今回は“岩のドーム”を取り上げた最初の切手として、イギリス委任統治領パレスチナの1927年シリーズが発行されるまでのいきさつをご紹介しました。その中から、きょうはストレートにこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

        岩のドーム(1927年・8ミリーム)

 これは、イギリス委任統治領パレスチナの8ミリーム切手です。

 第一次大戦後、英国占領下のパレスチナでは、当初、エジプトポンドが使用されていましたが、1923年初、同年9月からの英国による委任統治のスタートを前に、独自通貨を導入するため、財務官を長とし、主要銀行の経営者をメンバーに含む検討委員会が発足。検討の結果、本国植民地省の監督の下、ロンドンにパレスチナ通貨管理委員会を設け、スターリング・ポンドとリンクしたパレスチナ・ポンドを創設することが決定されました。

 ただし、部内の調整などが長引いた結果、独自通貨の導入は委任統治の開始には間に合わず、新通貨の製造が開始されたのは1926年11月のことで、実際に新通貨が導入されるようになったのは1927年11月でした。新通貨は、パレスチナから分離したトランス・ヨルダンにも導入され、年末までに163万5296ポンドが発行されています。

 高等弁務官(植民地行政の責任者)として英領パレスチナに着任したハーバート・サミュエルは、当初、委任統治の正式スタートに合わせて、それまでの暫定加刷切手に代えて、パレスチナ独自の正刷切手(加刷ではないオリジナルデザインの切手)を発行することを計画していましたが、当時のパレスチナの独自通貨の導入が間に合わなかったことから、正刷切手の発行も独自通貨の導入まで延期されることになりました。

 正刷切手のデザインについて、サミュエルは、岩のドーム内のモザイクのパターンを元に、抽象的なアラベスク文様が良いと考えていました。これは、大戦中の1916年、いわゆるアラブ反乱によって発足したヒジャーズ政府の切手が、偶像崇拝を禁ずるイスラムの教義に反しないよう、当初、“聖メッカ”のカリグラフィーとアラベスク文様をデザインとしていたことに倣おうとしたものです。

 これに対して、英領パレスチナ政府関係者の間には、岩のドームのほか、エルサレム旧市街の城壁、シオン門、黄金門など、歴史的な建造物を取り上げるのが良いとの意見も少なからずありました。

 このため、サミュエルを長とする切手図案の検討委員会が組織され、利用者に親しみのある風景として、岩のドーム、ゲッセマネの教会、ナブルスの風景、ラムラの風景、嘆きの壁、ラヘルの墓(ベツレヘム)、オリーブの丘、などが切手に取り上げる題材の候補として挙げられ、切手の原画用の写真コンテストが行われています。

 コンテストの結果、最終的に委員会は、ラヘルの墓、エルサレム旧市街の城壁、岩のドーム、ティベリアスのモスクの4点が切手として採用されることになりました。

 なお、入選作品の写真を切手の原画として構成したのは、フレッド・テイラーです。テイラーは、1875年、ロンドン生まれのデザイナーで、ロンドンのゴールド・スミスカレッジやパリの市立美術学校アカデミー・ジュリアンでの修業を経て、1908年から1946年にかけてロンドン地下鉄のポスターを手掛けて人気を博していました。

 テイラーの原画をもとに、原版彫刻を担当したのはロンドンのトマス・デ・ラ・ルー社でしたが、どういうわけか、実際の印刷を担当したのはハリソン・アンド・サン社です。ハリソン・アンド・サン社は1927年4月13日から切手の製造を開始し、パレスチナ独自の正刷切手(4図案・18額面)は、新通貨が導入された11月1日から発行されました。

 その後、郵便料金の改正などにより、新たな額面の切手も追加で発行されることになるが、図案の変更は行われませんでした。かくして、岩のドームを描く切手は、他の普通切手とともに、1948年にパレスチナにおける英国の委任統治が終了し、イスラエル国家が建国を宣言するまで、アラブ系・ユダヤ系を問わず、パレスチナの住民が日常的に郵便物に利用し、彼らの生活とは切り離すことのできないモノとなっていきます。


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