内藤陽介 Yosuke NAITO
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 岩のドームの郵便学(5)
2013-05-21 Tue 10:29
 ご報告がすっかり遅くなりましたが、『本のメルマガ』499号が先月25日に配信となりました。僕の連載「岩のドームの郵便学」は、今回は第2次大戦中のイギリス委任統治領パレスチナを題材として、いろいろと書いてみました。その中から、きょうはこんなモノをご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

       パレスチナ宛航空便取扱停止(赤印)

 これは、1944年6月19日、英国オクスフォードから、パレスチナのベンシェメン宛に航空便として差し出されたものの、欧州大戦により航空便の運航が不可能になったため、船便により宛先まで届けられたカバーです。

 大戦の勃発後、欧州大陸が戦場になり、パレスチナと英本国との間の交通に鉄道や航空機(当時、英国=パレスチナ間の航空便は、途中、給油などのため欧州大陸の都市を経由していました)を利用することは不可能になりましたが、船舶による物流は引き続き可能であした。これは、大西洋への出入口にあたるジブラルタル(ちなみにジブラルタルの周囲を領有するスペインは中立国)と、地中海のほぼ中央に位置するマルタ島を抑えていた英国が、大戦の期間を通じて、地中海の制海権・制空権を保持し続けたことによるものです。

 今回ご紹介のカバーもそうした事情を反映したもので、ジブラルタル海峡から地中海を航行する船によってパレスチナ最大の港であるハイファに陸揚げされ、宛先まで届けられたものと思われます。また、カバーには、すべてのエアメールが取扱停止となっていることを受取人から差出人に知らせてほしいとの指示の入った印が押され、エアメールの表示も抹消されています。

 さて、ナチスによる弾圧と戦禍を逃れてパレスチナへと逃れようとするユダヤ系難民もまた、船でハイファ港を目指すのが一般的なコースでした。

 そうした中で、781人のユダヤ系難民を乗せた難民船シュトルーマ号が、1941年12月12日、ルーマニアのコンスタンツァ港を出港し、パレスチナを目指したものの、英当局はマクドナルド白書を理由に難民船の入港を拒否。シュトルーマ号は行き場のないまま地中海を迷走しつづけ、1942年2月、ルーマニアへ戻る途中、黒海で沈没し、760人以上の難民が死亡する大惨事となりました。

 この事件は、ユダヤ系社会に大きな衝撃を与え、英国の責任者にあたる植民地相のウォルター・モインは彼らの怨嗟の対象となります。そして、1944年6月、資金調達のためには銀行強盗をも辞さない過激派組織の“シュテルン(正式名称は「イスラエル自由戦士団」を意味するロハメイ・へルート・イスラエルですが、創立者のアブラハム・シュテルンにちなんで、こう呼ばれることが多い)”が、事件の報復として、モインをカイロで暗殺。すでに、それ以前から、シュテルンを含む一部シオニスト過激派は反英テロを展開していましたが、モイン暗殺を機に、英国のシオニストに対する不信感は決定的になりました。

 かくして、英国政府は、パレスチナ問題を収拾する意欲を喪失し、次第に、委任統治領の管理者としての責任を放棄していくようになります。ちなみに、英国のパレスチナからの撤退は1948年5月のことでした。


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