内藤陽介 Yosuke NAITO
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 泰国郵便学(26)
2013-06-27 Thu 16:57
 ご報告が遅くなりましたが、財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第47巻第3号ができあがりました。僕の連載「泰国郵便学」では、今回は1965-66年の状況について取り上げました。その中から、きょうはこの切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

       フィリピン・タイ国王訪問記念

 これは、1965年にフィリピンで発行された「タイ国王夫妻フィリピン訪問」の記念切手で、タイ国王夫妻とフィリピンのマカパガル大統領夫妻の肖像が並べて取り上げられています。

 タイの国王ラーマ9世とシリキット王妃は、1963年7月9日から14日にかけて、国賓としてフィリピンを訪問しました。国王夫妻の訪比当時、フィリピン、タイのいずれにおいても記念切手は発行されませんでしたが、2年後の1965年6月12日、フィリピン郵政は突如、国王夫妻ならびに大統領ディオスダド・マカパガルと妻エヴァンゲリナの肖像を取り上げた記念切手を発行しました。ちなみに、タイ国王の肖像を描く切手が外国で発行されたのは、これが最初のことでした。

 国王の訪問を記念するには、記念切手の発行はいささか遅きに失した感がぬぐえませんが、その背景には、当時のマカパガル政権の事情がありました。

 当時のフィリピン大統領、マカパガルは、1910年9月28日、ルソン島中部のパンパンガ州ルバオ生まれ。ちなみに、2001年から2010年にかけて大統領を務めたマカパガル・アロヨは実の娘です。

 マカパガルはスラム街の貧困家庭に育ちましたが、幼少時から秀才の誉れ高く、内務長官ホノリオ・ヴェントゥーラの援助でサント・トーマス大学法学部を卒業し、1936年に司法試験に合格。第二次大戦後、フィリピン第3共和国(現在のフィリピン国家)が発足すると、米国ワシントンのフィリピン大使館に二等書記官として勤務した後、1949年、下院議員に当選し、1956年まで議席を維持しています。

 1957年、現職大統領のラモン・マグサイサイの飛行機事故死に伴う総選挙では、自由党から副大統領選挙に出馬して(フィリピンでは正副大統領はそれぞれ別の選挙で選出されます)当選。国民党のカルロス・ガルシア大統領の政権を支える役割を担ったが、1961年の大統領選挙では現職のガルシアを破って第3共和国第5代大統領に就任しました。

 マカパガル政権は、ガルシア政権時代の保護主義的な経済政策が効果を挙げなかったことから、輸入規制を撤廃して自由化路線を採択しましたが、工業化は進まず、経済的な苦境を脱することはできませんでした。

 その一方で、国際的にはマレーシア領と認識されているボルネオ島・サバ州の領有権を主張したほか、1963年7月にはマラヤ・フィリピン・インドネシアの非政治的連合としての“マフィリンド構想”を提唱。さらに、反共陣営の一員として南ヴェトナムへの派兵を決定するなど、派手な外交政策を展開します。

 さて、当時のフィリピンの大統領は任期4年で1965年は大統領選挙の年にあたっていました。このため、同年11月19日の選挙で再選を目指す現職のマカパガルは、選挙イヤーの1965年に入ると政権の外交成果を宣伝するようになります。その一環として、マカパガル政権下で訪比した各国元首とマカパガルないしは妻のエヴァンゲリナを並べて取り上げた切手が盛んに発行されるようになりました。

 すなわち、今回ご紹介のタイ国王訪比(1963年7月)の記念切手が1965年6月12日に発行されたほか、西ドイツ大統領ハインリッヒ・リュプケの訪比(1964年11月)の記念切手が4月19日に、オランダ王女ベアトリクス(のち国王)の訪比(1962年11月)の記念切手が7月4日に発行されています。

 メキシコ大統領アドルフォ・ロペス・マテオスの訪比記念切手が実際の彼の訪問日程に合わせて1963年9月28日に発行されていたこととあわせて考えると、1965年に入ってから、過去の国賓訪比を題材とした記念切手を相次いで発行するのはかなり不自然であり、選挙を意識して現政権の実績を宣伝するという以外にそうしなければならなかった理由は見当たりません。

 なお、それぞれの切手の発行日となった日附ですが、4月19日は1965年のイースター(4月18日)の翌日、6月12日は1898年にエミリオ・アギナルドが第1共和国の独立を宣言した記念日で、マカパガル自身によって現在の独立記念日に指定された日、7月4日は1946年に第3共和国が米国からの独立を宣言した日です。いずれも、フィリピン国民にとっては重要な日で、大統領の公式祝辞が発せられる日でもありますから、大統領の業績を宣伝する切手の発行日には絶好の機会と言えよましょう。

 ちなみに、実際の選挙戦では、売出し中の若手下院議員で、与党・自由党の公認候補になれなかったことに不満を抱いたフェルディナンド・マルコスが、野党・国民党に移籍し、同党公認の大統領候補として出馬。マカパガル政権の経済失政を激しく非難し、当選を果たしています。

 その意味では、結果的に、ラーマ9世夫妻の“選挙応援”は実を結ばなかったことになりますな。

 なお、今回の記事では、このほか、韓国大統領・朴正煕のタイ訪問やアジア国際見本市などについても、当時の記念切手をご紹介しながら解説しております。機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。 

 
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