内藤陽介 Yosuke NAITO
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 岩のドームの郵便学(9)
2013-09-21 Sat 10:35
 ご報告が遅くなりましたが、『本のメルマガ』511号が先月25日に配信となりました。僕の連載「岩のドームの郵便学」は、岩のドームを含むエルサレムがトランスヨルダンの支配下に入った直後について取り上げました。その中から、きょうはこんなモノをご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

       ヨルダン強制貼付切手・郵便加刷

 これは、1953年6月、1947年に発行されたパレスチナ救援のための強制貼付切手にアラビア語と英語で“郵便”を意味する加刷を施し、普通切手として再発行されたもので、岩のドームが描かれています。

 第一次中東戦争の結果、トランスヨルダンはエルサレム旧市街を含むヨルダン川西岸地区を併呑し、1949年にヨルダン・ハシミテ王国が誕生しました。しかし、早くも1951年7月20日、国王アブドゥッラーはエルサレムのアクサー・モスク(このドームの北側130メートルの場所にあるのが“岩のドーム”です)で金曜礼拝の最中に暗殺され、息子のタラールが第2代国王として即位します。

 ところが、翌1952年8月11日、タラールは精神分裂病を理由に議会によって廃位されてしまいます。タラールの廃位により、王位は息子のフサインが継承しますが、この間の混乱の影響で、ヨルダンでは深刻な切手不足が生じています。

 英領時代を含むトランスヨルダンの時代、この地域で流通していた通貨は英委任統治下のパレスチナ(英領パレスチナ)と同じくパレスチナ・ポンドでした。ところが、第一次中東戦争が勃発し、英領パレスチナが消滅したことによって、パレスチナ・ポンドも無効となり、新生ヨルダンの発足にあわせて、新たに新通貨としてヨルダン・ディナール(1ディナール=10ディルハム=100ピアストル(カルシュ)=1000フィルス)が導入されます。

 このため、1952年2月、ベイルートのカトリック・プレス社でトランスヨルダン時代の切手に対して、新通貨に対応した額面が加刷され、同月26日から発売されます。また、これと並行して、とりあえず、初代国王アブドゥッラーの肖像を描く従来の通常切手と同じデザインで、額面表示のみをヨルダン・ディナール表示に変更した切手の製造が、ロンドンのブラッドバリー・ウィルキンソン社に発注されました。

 国王アブドゥッラーの図案でヨルダン・ディナール額面の切手、当初、新国王タラールの肖像を描く新切手(額面表示は、当然、ヨルダン・ディナールである)が発行され、流通するまでの暫定的なものと考えられていましたが、タラールの廃位によって、その後も使用されることになります。

 しかし、ヨルダン川西岸地区の併呑によって従来よりも大量の切手が必要になっていたことに加え、ブラッドバリー・ウィルキンソン社に発注された切手の数は、あくまでも当座の需要を満たすためのものでしかなかったため(最も大量に製造された5フィルス切手でさえ、わずか8万4100枚しか印刷されていません)、ヨルダン国内ではすぐに切手の在庫が底をついてしまいました。

 このため、1953年5-6月にかけて、首都のアンマンとエルサレムでは、料金収納済み”の印を郵便物に押すことで対応。これと並行して、1952年4月1日に発行されたものの、比較的在庫が残っていた“ヨルダン統一”の記念切手の記念名を棒線で抹消して、1953年5月18日以降、普通切手として流通させることになりました。

 さらに、これでも切手の不足を解消することが抱きなかったため、1953年6月には、今回ご紹介のように、強制貼付切手に“郵便”を意味する加刷を施した切手も発行されたというわけです。

 このように、過去に発行された切手の売れ残り在庫をかき集め、各種の加刷を施すことで急場をしのぐという状況は、1954年2月9日から、ブラッドバリー・ウィルキンソン社製の新たな普通切手が発行されるまで続きました。

 なお、1954年から発行された新普通切手は1フィルスから1ディナールまでの全13種で、国王の肖像やヨルダン国内の名所旧跡などが取り上げられましたが、このうちの10フィルス、15フィルス、20フィルスの各額面には岩のドームが描かれています。

 このように、トランスヨルダンからヨルダン・ハシミテ王国への体制変革に伴う一連の混乱の時代を通じて、ヨルダンの切手に岩のドームが頻繁に登場している事実は、この国の成立過程を考えるうえで記憶にとどめておいてよいでしょう。エルサレムを含むヨルダン川西岸を版図に加えることによって成立したヨルダン・ハシミテ王国にとって、西岸地区の象徴として、切手という国家のメディアにおいて全世界に発信するための素材としては、やはり、岩のドームに勝るものはなかったのです。

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