内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手の帝国:ケープ植民地
2013-11-05 Tue 10:29
 ご報告が遅くなりましたが、大修館書店の雑誌『英語教育』2013年11月号が発売になりました。僕の連載「切手の帝国:ブリタニアは世界を駆けめぐる」では、今回は、三角切手で有名なケープ植民地を取り上げました。その記事の中から、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

       ケープ植民地(四角)

 これは、1884年にケープ植民地で発行された2ペンス切手で、半立ち姿の“希望の女神”が描かれています。このデザインの切手は、1864年から発行されていますが、1884年以降の切手は錨型の透かしが入っているので容易に区別することができます。

 1864年以降のケープ植民地の切手のデザインは、三角切手同様、チャールズ・ベルが制作しました。基本的なモチーフは、三角切手同様、女神が錨の上に座った姿を描いていますが、画面が縦長になったため、三角切手に比べると背筋が伸びています。また、女神の傍らには、ケープ植民地の産業を象徴するものとして、ワインのブドウと羊も描かれている点にも注目したいところです。

 ケープ植民地では、オランダの初代総督、ファン・リーベックが1655年にブドウの苗木を植え、1659年に最初のワインを生産。その後、この地に亡命してきたユグノーによってワイン産業の基礎が築かれました。

 1778年、ドイツ系移民の血を引くヘンドリック・クローテは、ワイナリー、グルート・コンスタンスを率いて、デザート・ワインの傑作とされる“コンスタンシア”を作り出すことに成功。ヘンドリックの死後、コンスタンシアのワイナリーは息子のヘンドリックJrを経て、孫のヤコブ・ピーターが後を継ぎます。このヤコブ・ピーターはフランス語を巧みに操り、パリにコンスタンシアの代理店を開設しました。

 時あたかも、ナポレオン戦争の時代。フランスのワイン産業が大きな打撃を受けたことに加え、英仏間の貿易も途絶したことから、コンスタンシアはその空白を埋めるかのように、シャトー・ディケム(フランス産の最高級貴腐ワイン)、トカイ(ハンガリー産貴腐ワイン)、マデイラ(ポルトガル産ワイン)に勝るとも劣らぬ最上級のデザート・ワインとしてヨーロッパの上流社会を席捲します。その成功に引きずられるかたちで、他のケープ・ワインもヨーロッパで広く飲まれるようになり、ケープ植民地のワイン産業は急速な発展を遂げていきました。

 ところが、1861年、ナポレオン戦争以来、断絶状態にあった英仏の国交が正常化され、英国内でのフランス製品への輸入関税が大幅に引き下げられると、ケープ・ワインの英国向け輸出は激減。さらに、1866年にはブドウに被害をもたらす害虫、フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)が蔓延してケープ・ワインの生産は壊滅的な打撃を受けます。

 ワイン産業に代わり、ケープ植民地の主要な輸出品となったのが羊毛で、1840年代前半には年平均3万ポンドだった輸出高は、1845-50年の5年間に年平均20万ポンドに、さらに、1869年には170万ポンドにまで急増。ケープ植民地の経済を支える主役に躍り出ました。

 今回ご紹介の切手は、まさに、ケープ経済の主役がワインから羊毛へと変わっていく転換期を象徴するかのように、ブドウと羊が並べられているのがミソです。

 ちなみに、ケープ植民地のワイン産業は19世紀末のボーア戦争の影響もあって、長らく低迷の時代が続きましたが、20世紀初頭、南アフリカ連邦成立の前後に北米からフィロキセラに対する耐性があるブドウの苗木が持ち込まれると、ようやく復活。それまでの空白を埋めるかのごとく、ワイナリーが競って生産量を増やしていくことになります。

 なお、ケープワインとその歴史については、拙著『喜望峰』でも解説しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。

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