内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 “イスラム国”の樹立を宣言
2014-06-30 Mon 10:25
 イラク北部の主要都市を制圧したイスラム過激派のISIS(イラク・シリアのイスラム国。ISIL:イラク・レバントのイスラム国とも)が、きのう(29日)、ウェブサイト上で声明を発表し、アブー・バクル・バグダーディーを“カリフ”として、シリア北部のアレッポからイラク中部のディヤラ州までを領域とする“イスラム国”の樹立を一方的に宣言しました。というわけで、今日はこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ハイファ・フランス局カバー

 これは、1911年11月26日、現在はイスラエル領となっているハイファのフランス局からドイツ宛に差し出されたカバーで、フランスのレヴァント用切手(1ピアストル)が貼られています。消印には地域名として“シリア”と表示があるのがミソです。

 今回、“イスラム国”の樹立を宣言した組織のアラビア語での名称は、“الدولة الاسلامية في العراق والشام‎”で、これは、直訳すると“イラクとシャーム(الشام)のイスラム国家”となります。

 ここでいう“シャーム”というのは、地中海東岸、いわゆる歴史的シリアに相当する地域で、欧米語ではレヴァントと呼ばれている地域とほぼ同一です。地域概念として厳密な定義はないのですが、最も広くとらえると、現在の国名でいうギリシャ、トルコ、シリア、キプロス、レバノン、イスラエル・パレスチナ、エジプトにまたがる地域ということになりますが、現在では、地中海東岸のアラブ地域として、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル・パレスチナを指すことが多いようです。

 いずれにせよ、このシャームを“シリア”と訳すと、件の組織の英文名称は“Islamic State of Iraq and Syria(ISIS:イラク・シリアのイスラム国)となり、“レバント”と訳すと“Islamic State of Iraq and the Levant(ISIL:イラク・レヴァントのイスラム国)となるわけで、日本の報道では両者が混在しているためにわかりづらいのですが、どちらも同じ組織です。なお、アラブ世界では、アラビア語の頭文字を取ってダーイシュ(داعش)という略称が用いられているので、それをそのまま用いるのが混乱は少ないのではないかと思います。ちなみに、アラビア語の略称がそのまま日本語でも用いられている例は、PLO傘下のファタハや、いわゆるイスラム原理主義組織のハマス等の事例もありますので、それほど突飛なことではないと思います。

 さて、第一次大戦以前、オスマン帝国の支配下に置かれていたレバント地域では、オスマン帝国の郵政とは別に、列強諸国の郵便局が活動していました。その先鞭をつけたのはロシアで、1721年にサンクトペテルスブルグ=イスタンブール間で外交文書を運んだのが最初です。その後、ロシアは1774年にイスタンブールの領事館で郵便物の定期的な取り扱いを開始。以後、ロシアが“治外法権”を援用するかたちで郵便網を拡充していったことで、列強諸国もこれに続くことになります。

 今回ご紹介のカバーのハイファを含むパレスチナの地域では、1852年にフランスとオーストリアの両国が郵便局を開設したのを皮切りに、1856年にロシアが、1898年にドイツが、1908年にイタリアが、それぞれ、郵便局を開設しています。

 このうち、フランスは、1852年、ヤッファ(ジャッファ)に最初の郵便局を開設し、以後、1890年にエルサレム局を、1906年にハイファ局を開局しています。当初、ヤッファのフランス局ではフランス本国の切手がそのまま使われていましたが、1885年以降、現地通貨に対応した加刷切手が発行され、1902年からは“仏領レヴァント”切手が持ち込まれて使用されました。なお、パレスチナのフランス局が取り扱った郵便物は、フランス本国のほか、イタリア、イギリス、アメリカ宛に限定されており、各局から集められた郵便物は地中海東岸沿いに、アレクサンドレッタ、コンスタンティノープル(イスタンブル)を経由して、各地に運ばれています。

 いずれにせよ、今回ご紹介のカバーは、現在はイスラエル領となっている地域で“レヴァント”表示の切手が使われ、“シリア”表示の消印が使われているわけですが、このことは、第一次大戦の結果、英仏によりオスマン帝国の支配地域が分割されて現在のアラブ諸国の基本的な枠組が形成される以前は、東地中海のレヴァントなり歴史的シリアなりが歴史的に一体性を持った地域であったことを物語っていると言えましょう。

 さて、7月18日・8月29日・9月19日の3回、愛知県名古屋市の栄中日文化センターで、第一次大戦100年の企画として、「切手を通して学ぶ世界史」と題する講座を行います。講座では、第一次大戦後、オスマン帝国の崩壊により現在の中東諸国の枠組ができあがっていくプロセスについても、当時の切手や郵便物等を使ってわかりやすく解説する予定です。名古屋エリアの方は、ぜひ、遊びに来ていただけると幸いです。 


 ★★ 講座「切手を通して学ぶ世界史:第一次世界大戦から100年 」のご案内 ★★ 

       中日・講座チラシ    中日・講座記事

 7月18日・8月29日・9月19日の3回、愛知県名古屋市の栄中日文化センターで、第一次大戦100年の企画として、「切手を通して学ぶ世界史」と題する講座を行います。

 講座では、ヨーロッパ、中東、日本とアジアの3つの地域に分けて、切手や絵葉書という具体的なモノの手触りを感じながら、フツーとはちょっと違った視点で第一次世界大戦の歴史とその現代における意味を読み解きます。

 詳細は、こちらをご覧ください。

 * 左の画像は講座のポスター、右は講座の内容を紹介した5月20日付『中日新聞』夕刊の記事です。どちらもクリックで拡大されますので、よろしかったらご覧ください。
 

 ★★★ 『外国切手に描かれた日本』 電子書籍で復活! ★★★

      1枚の切手には 思いがけない 真実とドラマがある

    外国切手に描かれた日本(表紙)     外国切手に描かれた日本(ポップ) 
    光文社新書 本体720円~

 アマゾン紀伊国屋書店ウェブストアなどで、6月20日から配信が開始されました。よろしくお願いします。(右側の画像は「WEB本の雑誌」で作っていただいた本書のポップです)


 ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★

 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。
スポンサーサイト

別窓 | 歴史的シリア | コメント:2 | トラックバック:0 | top↑
<< ケティコティの日 | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  切手で訪ねるふるさとの旅:香川県 >>
この記事のコメント
#2340 カリフ
 先日、東洋文庫のトルコ展を見学して来たばかりだけに「カリフ」称号の登場には驚きました。イスラーム世界の支持を得られるのだろうか。
 それにしてもイラク、エジプト、リビア、ネパール等、独裁者を打倒してもその後も不安定な状態が続く国々を見ていると、「解放」されて本当によかったのだろうかと言う気もして来る。
2014-07-02 Wed 20:40 | URL | いわゐ將軍 #B7q/.fmY[ 内容変更] | ∧top | under∨
・いわゐ將軍様
 レスが大変遅くなり、申し訳ございません。
 まさに、「一夜の無政府状態よりも百年の圧政の方がマシである」という格言を思い出しますね。
2014-09-27 Sat 20:46 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/