内藤陽介 Yosuke NAITO
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 エジプト、スエズ運河拡張へ
2014-08-06 Wed 16:06
 エジプトはきのう(5日)、欧州とアジアを結ぶ最短航路であるスエズ運河の拡張計画を発表しました。いわゆる“アラブの春”以降の混乱で観光客が激減したため、観光と並ぶ主要な外貨収入源であるスエズ運河の通航料収入を増やすことが目的です。というわけで、今日はスエズ運河ネタの中からこの1点です。(画像はクリックで拡大されます)

     スエズ運河標語印カバー

 これは、1956年9月13日、カイロからローザンヌ宛のカバーで、ナセルによるスエズ運河国有化宣言後も運河の自由通行を保証することをアピールする標語印が押されています。

 1952年のエジプト革命で発足したナセルの民族主義政権は、王制時代に事実上の宗主国であった英国の影響力を排除するため、1954年10月、スエズ運河地帯から英軍を撤退させる協定を成立させ、1956年6月20日までに全英国兵を撤兵させました。もっとも、この段階では、ナセル政権は自立した近代国家を建設するという意味で英国の影響力を排除しようとしていましたが、西側諸国と敵対することを望んでいたわけではありません。エジプトの経済的自立のための国家プロジェクト、アスワン・ハイダムの建設(ナイル川上流に巨大なダムと発電所を建設し、それを利用した灌漑により大規模な農地を開拓することが計画された)を遂行していくためには、米英両国と世界銀行の資金援助が不可欠だったからです。

 このため、英軍の運河地帯からの撤退に際しては、運河の所有権は英仏両国を大株主とする国際スエズ運河株式会社が保有することとされ、運河の自由な航行を保障する国際協定(1888年10月締結)も引き続き有効であることも確認されていました。

 しかし、英軍の運河地帯から撤兵すれば、エジプト軍がシナイ半島を北上するのではないかと恐れたイスラエルは、英軍の撤兵を妨害すべくさまざまな破壊工作を展開。1955年2月には、イスラエル軍の攻撃によりエジプト軍兵士38名が犠牲になるという事件も発生します。そこで、イスラエルの脅威に対抗する必要から、軍の近代化を計ろうとしたエジプトは、米国をはじめとする西側諸国から最新兵器を購入しようとしたのですが、米英仏の3ヶ国は、中東への武器供与を制限する三国宣言を理由にこれを拒絶。このため、ナセルはソ連に接近し、1955年10月、チェコスロバキア経由での通商協定という名目で、綿花(エジプトの主力輸出品)とのバーター取引を成功させ、大量のソ連製兵器の獲得しました。

 しかし、アラブの盟主を自認するエジプトがソ連に接近することで、他のアラブ諸国もこれに追随するのではないかとの懸念を抱いたた米国は、これに強く反発。エジプトの封じ込めに乗り出します。その一環として、1956年7月19日、国務長官のジョン・フォレスター・ダレスがアスワン・ハイダム建設への資金援助の約束を突如撤回。英国と世界銀行も同様の声明をエジプトに対して発し、ナセルの悲願であったアスワン・ハイダムは、資金不足から中止の瀬戸際に追い込まれてしまいました。

 追い詰められたナセルは、7月26日(革命記念日)、年間一億ドルのスエズ運河の収益をアスワン・ハイダム建設の資金に充てるべく、運河の国有化を宣言。管理会社である国際スエズ運河株式会社を接収して全資産を凍結してしまいました。これが、スエズ運河国有化のあらましです。

 今回ご紹介のカバーは、こうした状況の下で、国有化宣言後もスエズ運河の通行に支障がないことを示すため、エジプトでは、“FREEDOM OF PASSAGE GUARANTEED THROUGH SUEZ CANAL”の標語が入った機械印が使用されました。

 その後、スエズ運河の国有化に激怒した英仏は、エジプトによるチラン海峡の封鎖で経済的なダメージを受けていたイスラエルと同調し、武力による運河国有化を阻止しようとして、今回ご紹介のカバーが差し出された翌月の1956年10月、第2次中東戦争(スエズ動乱)を引き起こすことになります。

 さて、今回の拡張工事ですが、既存の運河の一部と並行して全長35キロの新運河を掘削し、通航する船舶の増大を目指す計画で、総工費は40億ドル(約4100億円)を見込んでおり、完成は2015年半ばの予定だそうです。スエズ運河がらみのマテリアルにはいろいろと面白いモノがありますので、その時には、今回とは毛色の違うモノをご紹介しましょうか。


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