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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 卍と鉤十字
2015-08-21 Fri 23:26
 大手衣料品チェーンの“しまむら”は、きのう(20日)、消費者からの指摘を受けて、今年7月からナチスドイツがシンボルとして使っていた“鉤十字”をデザインした商品の販売を取りやめました。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      東大寺・大仏蓮弁毛彫
 
 これは、2002年に発行された世界遺産シリーズ第7集のうち、東大寺・大仏の蓮華座の花弁に刻まれた釈迦説法像(大仏蓮弁毛彫)が取り上げられています。釈迦の胸の部分をよく見ていただくと、ナチスの鉤十字とデザイン上は全く同一の右卍(=卐)がしっかりと刻まれているのがお分かりかと思います。

 卍は単純なデザインゆえ、洋の東西を問わず、古くから自然発生的に使われていました。卍のデザインされたもっとも古い遺物は新石器時代のインドのものですが、ハインリッヒ・シュリーマンの発見したトロイの遺物の中にも卍のデザインが見られます。このため、シュリーマンは、卍を古代のインド・ヨーロッパ語族に共通の宗教的シンボルと考えていました。

 古来、インドでは卍は吉祥の印とみなされており、左旋回の卍は和の源といわれ、右旋回の卐は力の源とされてきました。このため、ヒンドゥーではヴィシュヌ神の胸の旋毛として、仏教では釈迦の胸の瑞相としてデザインされてきたほか(このため、今回ご紹介の釈迦像に限らず、卍を胸にデザインした仏像はアジア各地で数多くあります)、ジャイナ教でも信仰のシンボルとして用いられています。わが国では、仏教関係以外にも、卍を家紋として使う例も数多くありました。

 一方、ナチス・ドイツの鉤十字は、シュリーマンが卍をインド・ヨーロッパ語族に共通のシンボルと考えたことを根拠として、アーリア人の象徴として、1920年に党章として採用したものです。したがって、3000年以上前にまで遡るとされる卍の歴史のなかで、ナチスとの関連はわずか100年に満たないということは留意しておくべきだと思います。

 もちろん、僕はナチス・ドイツによる数多くの蛮行を擁護するつもりはありませんし、それゆえ、ナチスを礼賛する意図をもって鉤十字をデザインした商品を販売することには賛成しかねます。今回の問題となった“しまむら”の商品については、ネット上の画像を見る限り、黒十字を背景に鉤十字を重ねたデザインになっており、明らかにナチスを連想させる仕様になっていましたから、現在の価値観からすれば軽率のそしりは免れないでしょう。

 ただし、その一方で、卍であれば、明らかにナチスとは無関係のものであっても“臭いものには蓋”よろしく、無条件にすべて排除してしまおうという風潮が無きにしも非ずという現状には、大いに首をかしげざるを得ません。たとえば、少林寺拳法のシンボルマークであった盾卍が、ヨーロッパの一部の国では使用することができないために変更を余儀なくされたというのは、明らかに、理不尽な話です。

 まぁ、日本を含むアジアについての知識が乏しい欧米人が単純に卍をナチスと同一視してしまうのは、ある程度やむを得ないにしても、日本の伝統文化の中で使われている卍については、その意味や歴史的背景などを、もっと我々自身がきちんと発信していかねばなりませんな。もっとも、この切手を貼ってドイツ宛に差し出した郵便物が、ナチスを連想させるとして差出人戻しになったとしたら、それはそれで興味深いマテリアルにはなるのですが…。


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