内藤陽介 Yosuke NAITO
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 カナダ代表、中国が入国拒否
2015-11-27 Fri 23:43
 ミス・ワールド世界大会のカナダ代表に選出された中国生まれのアナスタシア・リンさんが、同大会が開かれる中国本土・三亜への乗り継ぎ便への搭乗を拒否され、香港で足止めされています。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      カナダ・丑年年賀

 これは、1997年に発行されたカナダ最初の年賀切手です。シートが扇型になっており、余白には十二支のイラストが描かれていますが、丑年が“牛年”になっているのは、まぁ、ご愛嬌というところでしょうか。

 欧米諸国で年賀切手が発行されるようになったのは、その国においてアジア系(主として中国系)の住民の社会的影響力が増大し、彼らの習慣を無視できなくなった結果であるわけですが、今回ご紹介の切手もまた、その典型的な事例といえます。

 現在、カナダにはトロントやヴァンクーヴァーなどを初めとしてチャイナタウンがいくつか形成されていますが、そのルーツは、1858年のゴールド・ラッシュにまでさかのぼることができます。

 当時、カナダには、多くの中国系移民がサンフランシスコや中国本土から押し寄せ、ブリティッシュ・コロンビア州の鉱山地区に中国人の居住地区が作られました。

 1880年代に入ると、大陸横断鉄道の建設労働者として、沿線の各地に中国人が進出していきます。鉄道は1886年には西海岸のヴァンクーヴァーに到達しますが、それにあわせて沿線開発も進み、さらに多くの中国人労働者が流入。20世紀初頭まで、カナダのチャイナタウンは発展を続けました。

 しかし、安価な中国人の労働力は、しだいに、白人労働者の職を奪うものとして白人社会から危険視されるようになります。すでに、1885年には中国人の移民労働者に対して人頭税がかけられてカナダへの入国は制限されています。そして、1923年には中国人労働者とその家族の入国を禁止した中国人排斥法が制定され、1947年に同法が廃止されるまで、新規の中国人移民はほとんどなくなってしまいました。

 その後、1949年の中華人民共和国の成立や1960年代の文化大革命を経て、香港経由でカナダに亡命する中国人が次第に増加していくのですが、1984年に香港の中国返還が決まると香港からカナダへの中国系移民の数は急増します。カナダ政府は富裕な中国系移民を積極的に受け入れたため、たとえば、西海岸のヴァンクーヴァーが“ホンクーバー”と揶揄されるほど、香港からの移民が押し寄せました。

 その後、1997年の香港返還まで香港からカナダへの移民は増え続けますが、今回ご紹介の切手は、まさに、香港返還の年の1997年1月に発行されています。

 日本人の感覚では、太陽暦の1月1日から始まる暦年と干支は対応していますが、中華世界では、現在なお、春節(旧正月)を基準に1年の干支が始まると考えられているため、“Chinese New Year(中国の新年)”という表示がしっかり入ったこの切手も、春節の挨拶状に使うことを想定して年明け1月7日に発行されています。

 カナダ郵政としては、香港返還を前に流入してきた大量の中国系市民を新たな“カナダ人”として正当に処遇することを内外に宣言する必要もあって、“中国の新年”と題する年賀切手の発行を開始したものと考えてよいでしょう。すくなくとも、十二支のスタートにあたる子年の1996年にではなく、わざわざ、翌年の丑年から年賀切手の発行をスタートさせているのは、彼らが香港返還の年である1997年に特別の意味を見出していたと考えるのが妥当なように思われます。

 こうして、カナダでは毎年、年賀切手を発行するようになりましたが、その背景には、ただ単に中国系移民が大量に流入してきたというだけではなく、在来の中国系市民が社会的に重要な地位を占め、その影響力を拡大していったという事情があるのは、あらためていうまでもありません。

 その象徴的な存在が、1999年10月に中国系カナダ人として初めてカナダ総督に就任したアドリエンヌ・クラークソンです。

 クラークソンの中国名は伍冰枝。1939年に香港で生まれました。1941年12月に太平洋戦争が始まり香港が日本軍に占領されると、1942年、難民としてカナダのオンタリオ州に移住しています。1960年にトロント大学トリニティー・カレッジ英文科を最優秀で卒業した後、フランスのソルボンヌ大学への留学を経て、長年、TVキャスターとして活躍しました。総督への就任は、1999年のことで、当時の首相ジャン・クレティエンが指名し、元首であるエリザベス2世がこれを承認しています。当初の予定では任期は2004年秋まででしたが、当時のカナダは少数与党政権で政局の混乱も予想されたことから、2005年9月に後任のミカエル・ジャンと交代するまで、任期が延長されました。

 意外と見落とされがちですが、カナダは英連邦の一国ですので、形式的には英国王がカナダの国家元首となります。総督は、その国王の名代として任命されるもので、事実上の国家元首ですが、現実には総督の役割は“君臨すれども統治せず”の原則にのっとった象徴的なもので、実際の政治は、カナダ連邦議会が立法権を持ち、首相と内閣が行政権を担当しています。とはいえ、国家の序列という点からすれば、総督は首相よりも上位に位置するわけで、こうした地位に中国系の女性が就任したということは、カナダ社会における中国系市民の占める地位が、以前に比べると飛躍的に向上したことを雄弁に物語っているといえます。

 ちなみに、カナダが中国との国交を樹立した1970年の段階では、まだニクソンの訪中声明は出されておらず、米中関係は朝鮮戦争以来の険悪な状況が続いていました。当然、米国は中華人民共和国を中国の正統政権として認知しておらず、日本を含む西側諸国もこれに追随していました。

 これに対して、米ソの戦争が起これば、米国よりも先にソ連から攻撃を受けることが確実であったカナダは、あまりにも米国一辺倒の外交姿勢を取ることで東側世界との関係が極端に悪化すれば、結果的に、自国の不利益になるということを肌で感じていました。
 
 このため、当時のトルドー政権は、中国大陸の実情にあわせて現実的な外交政策を展開することを決断。1970年10月、米国に先んじて中国と国交を樹立したのです。その際、懸案の台湾問題に関しては、カナダ側が中国政府の立場に“留意する”というかたちで解決が図られました。

 その後、カナダの後を追って、イタリア、ベルギー、ペルー、レバノンが相次いで中国と国交を樹立。こうした時流に押されて、米国も次第に対中宥和政策を取らざるを得なくなり、1972年2月のニクソン訪中へと繋がっていくのです。

 もともと、カナダは、米国という巨大な隣国に対して自らの独自性・自主性を常に発揮していなければ、実質的に米国に吸収されてしまいかねない立場に置かれ続けています。それゆえ、カナダの外交戦略は“機能主義(各国はその独自性を最大限に発揮して、機能的に国際社会に参加すると共に、人類の福祉に貢献する機械が与えられるべきとする考え方。たとえば、貿易国は、政治的・軍事的大国である必要はなく、国際的通商機関に有意義な地位と責任を持つべきとされる)”を機軸に展開されてきました。

 1970年の中国との国交樹立は、そうしたカナダの機能主義外交の一つの成果として現在でもカナダ国内では高く評価されてきたわけですが、今回のように、カナダ代表が入国拒否というような事態になると、中国の人権状況に対するカナダ国民の目も当然、厳しくなるでしょうな。このあたり、対中国交を樹立したトルドー元首相の息子で、現首相のジャスティン・トルドーがどう対応するか、お手並み拝見といったところです。


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