内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手に見るソウルと韓国:尹東柱
2015-12-06 Sun 08:04
 ご報告が大変遅くなりましたが、『東洋経済日報』11月13日号が発行されました。今回は、発行日翌日の14日に、韓国の国民詩人とされる尹東柱の没後70年イベントが彼にゆかりの立教大学で行われたのにあわせて、この切手をご紹介しました。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・尹東柱

 これは、2001年に発行されたミレニアム・シリーズの1枚で、学生服姿の尹東柱の肖像をバックに、彼の自筆原稿から取った「序詩」の一部が組み合わされています。

 尹東柱は、1917年、間島(現・中国吉林省延辺朝鮮族自治州)の明東村でクリスチャンの家庭に生まれました。

 幼少時には龍井(吉林省東南部)、平壌などを転々とし、1938年、ソウルの延禧専門学校(現・延世大学校)に入学。在学中の1940年、“平沼東柱”と改名し、1941年12月に延禧専門学校を卒業しました。

 尹は中学時代から詩作を行っていましたが、延禧専門学校の卒業時に自選詩集『空と風と星と詩』の出版を計画。しかし、商業出版としては難しかったことから、小部数のみを私家版として制作し、親しい友人に配布しています。

 詩集の冒頭に置かれた「序詩」は彼の代表作のひとつ。日本語訳として最も評価が高い宇治郷毅の訳によれば、以下のとおりです。なお、デザイン上の理由からだと思いますが、切手には詩のすべてが取り上げられているわけではありませんので、取り上げられている部分は赤字にしてあります。

 死ぬ日まで天を仰ぎ
 一点の恥なきことを、
 葉かげにそよぐ風にも
 わたしは苦しんだ。
 星をうたう心で
 すべて死にいくものを愛さなくては(*“愛さなくては”の部分の사랑해야지は사のみ切手でも見える)
 そしてわたしに与えられた道を
 歩みゆかねば。
 今夜もまた星が風にふきさらされる。

 さて、延禧専門学校を卒業した尹は、1942年、日本に渡って立教大学に入学。来日後まもなく「たやすく書かれた詩」など5編を友人に送っています。その後、同年9月には京都に移って同志社大学に入学しましたが、在学中の1943年7月、治安維持法違反の容疑で逮捕されました。

 なお、しばしば、尹の逮捕については、韓国語での詩作が治安維持法に違反したためという説明がなされることがありますが、実際には、韓国語の使用(だけ)を理由に治安維持法違反で逮捕されることはなく、尹の場合も、友人に対して、日本の朝鮮総督府の政策を批難したり、韓国独立の必要性を訴えたりしたことが、「民族意識の鼓吹・民族運動の煽動」にあたるとして、逮捕容疑とされています。

 その後、1944年2月に尹は従弟の宋夢奎ともには起訴され、同年3月、懲役2年の判決をうけて福岡刑務所に収監されましたが、翌1945年2月16日、27歳の若さで獄死しました。

 こうして、生前はほとんど無名のままに終わった尹東柱ですが、1947年、ソウルの京郷新聞に「たやすく書かれた詩」が紹介されたのを機に、翌1948年、詩や散文を集めた『空と風と星と詩』が刊行され、いちやく、その名を知られるようになります。一方、日本では、1984年、伊吹郷が『空と風と星と詩』を邦訳して紹介。その後、いくつかの翻訳が出版されています。ただし、“하늘”の語をそのまま“空”と訳すか、尹東柱がクリスチャンだったことを踏まえて“天”と訳すかなど、専門家の間でも議論が分かれているそうです。

 また、日本統治時代に治安維持法で逮捕され、若くして獄死したという経歴から、尹東柱に関しては、現在の韓国では“民族的抵抗の詩人”として評価されることが多く、「序詩」に登場する“星”についても、小倉紀蔵によれば、韓国人の象徴として「どんな風にも揺らぐことなく耐え、抵抗する確固たる民族の魂を、尹東柱はうたっているのだ。日本によってずたずたにされてしまったが、決してこわれることのない民族の言葉、心、生というものを、星という言葉に託してうたっているのだ」というのが教科書的な解釈なのだとか。

 まぁ、僕のような素人は、素直に字面を追って、詩の抒情性を味わえば十分なのではないかと、ついつい思ってしまうのですが、そういうことを言うと、かの国の学校のテストでは合格点をもらえないんでしょうなぁ。

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