内藤陽介 Yosuke NAITO
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 今年の漢字は“安”
2015-12-15 Tue 14:55
 この1年の世相を漢字一字で表す“今年の漢字”が“安”に決まり、きょう(15日)、京都の清水寺で発表されました。というわけで、“安”の字の入った日本切手の中から、この1枚です。(画像はクリックで拡大されます)

      交通安全運動(1967)

 これは、1967年5月22日に発行された“全国交通安全運動”のキャンペーン切手です。日本の切手で“安”の文字が表示されたのは、この切手が最初の事例です。

 交通事故撲滅のために全国規模で行われる啓発運動としては、占領下の1948年12月10-16日の1週間、国家地方警察本部(現警視庁)が行った“全国交通安全週間”が最初の事例です。全国交通安全週間は、1952年以降は春秋2回の“全国交通安全運動”になり、現在にいたっています。

 1960年前後から、いわゆる高度経済成長が始まると、日本国内の自動車の数も飛躍的に増加しましたが、それに伴い自動車事故も急増していきました。

 このため、交通事故防止のための意識啓発を目的として、1965年、全日本交通安全協会 (以下、安全協会)の主催、総理府・警視庁・毎日新聞社の後援で「交通安全年間スローガン」が募集されました。これを受けて、同年11月15日、安全協会は東京・赤坂のプリンスホテルで関係者を招いて懇談会を催し、スローガンを普及徹底させるための方策が話し合われます。席上、東京母の会連合会 会長の吉川政枝や日本サイクリング協会専務理事の高田精作から発言があり、キャラメルの箱や封筒、切手、カレンダー、年賀状などを利用した広報活動を行なうべきとの要望意見が出されました。安全協会もこの意見を尊重し、1966年早々には会長の津島寿一の名義で、郵政省に対してスローガン入り切手の発行が申請されています。

 さらに、1966年春の全国交通安全運動に際して、毎日新聞社が交通事故防止アイディアの募集に宮城県在住の収集家・西条記一が交通安全切手の発行を提案し、これが入選となりました。これを受けて、毎日新聞社も、同年秋の交通安全運動にあわせて記念切手を発行することを内々に郵政省にも働きかけたようですが、これは実現しませんでした。

 一方、郵趣界では、1953年に西ドイツで世界最初の交通安全切手が発行されたのを皮切りに世界各国で交通安全切手が発行されていることを踏まえ、以前から、日本でも交通安全のキャンペーン切手を発行したらよいのではないかとの声が根強くありました。特に、1966年12月17日、群馬県桐生郵趣会会長の長女、土岐ゆかり(当時2歳)が自動車事故で亡くなると、土岐の葬儀に参列した収集家の金子康夫や石塚義一の呼びかけで交通安全運動のキャンペーン切手発行を求める声が急速に高まっていくことになります。

 こうした収集家の声を受けて、参議院郵趣友の会の会長で、自らも交通事故の被害者となった経験のある保利茂は切手発行運動の先頭に立っていた金子らに対して次のようにアドバイスしました。

  郵政省がこの切手を独断で決めると警察庁なり自治省の領域荒らしとなる。お役所仕事はうるさいものでそういった筋からの正式発行申請があればよいのだが果たして出ているだろうか 。この運動のもって行きどころは郵政省ばかりでなく自治省なり警察庁なりにもあるのである。さもなくば衆参両院に請願書を送って政府に勧告してもらう方法だ。

 これら各方面からの働きかけにくわえ、1967年の全国交通安全運動は前身の全国交通安全週間から数えて第20回の節目を迎えることもあって、1967年1月23日に開かれた郵政審議会専門委員打合会では、5月の全国交通安全運動 にあわせてキャンペーン切手を発行することが決定されました。

 こうして、1967年5月22日、春の全国交通安全運動の初日にあわせて、横断歩行中の児童と信号機を描いた15円切手が発行されました。今回の切手は、全国交通安全運動の期間中、通常切手の代わりに販売・使用することになっていたため、大きさは通常切手と同じサイズで、通常の記念切手の約5倍にあたる1億枚という発行枚数が設定されました。

 これに伴い、郵政省は全国の郵便局に対して「全国交通安全運動にちなむ郵便切手の発行について」と題する通達(局管周第974号)を発し、以下のように指示しています。

 (1)本切手は、特殊切手として一般の例によって取り扱うものであるが、売りさばき(窓口売りさばき、外務売りさばき、売りさばき人に対する売渡し等をいう。以下同じ)にあたっては、通常の郵便切手とみなし優先的に消化をはかること。ただし、買受人から通常の十五円郵便切手の売りさばき方を特に要望された場合はこの限りではない。
 (2)発行後、二ヶ月を経過しなお残品がある場合においても一般の例による返還または管理換えの措置を取ることなく完売まで売りさばきを継続すること。
 (3)分任局については、42請求年度十五円通常切手定期請求数の一部とみなして交付する。したがって42請求年度定期請求書交付決定数に対して、本切手の送付数だけ十五円通常切手の送付数を減ずる。

 こうして、今回の切手は大々的に売り出され、社会的にも大きな関心を集めることになり、一般のマスコミでもいろいろな角度から取り上げられています。

 このうち、切手のデザインを問題にしたのが1967年5月27日付の『東奥日報』で、同紙の社会面コラム「北と南」には、女性読者からの指摘として、以下のような批判が掲載されています。

 本紙の女性読者からこの切手の図案にミスがあるという投書、横断歩行中の児童が左手をあげているが、普通横断する場合は右手をあげるよう学校で指導しているはず――というもの。学童が見た場合、日ごろの交通指導に疑問を持ちはしないかと心配していた。

 一方、1967年5月29日号の『週刊サンケイ』には、次のような記事が取り上げられています。

  日本でははじめて、世界でも珍しい「交通安全記念切手」が22日から売り出される。1枚15円、1シート100枚1億枚という大量発売なので急の利殖にはむかないのかもしれないが、売り切れぬうちにどうぞ

 切手を利殖の手段と信じていた人々が、記念切手の発行初日に郵便局に行列を作るという光景が当たり前のように見られた時代ならではの文章といってよいでしょう。

 ところで、今回の切手は色検知枠が初めて取り入れられたものとして、切手史上において重要な位置を占めています。

 郵便の自動化を実現するにあたっては、当初、郵政省は大型郵便物(定形外郵便物)を排除する“選別”、郵便物の表裏の“取り揃え”、そして“押印”が重要な課題となります。その際、“取り揃え”と“押印”をするためには、機械の切手検知部分で郵便物の料額印面を検知できるような特定の切手ないしは印面を使うことが必要です。

 当初、郵政省では、そのシステムとして燐光を塗った切手を検知する方式の機械を採用する予定でしたが、当時の日本国内では適当な燐光インクが製造されていなかったため、蛍光インクに対応した機械の試作が行われました。その担当は日本電気で、同社は1965年になって燐光切手検知式の自動取り揃え押印機を製作し、大宮局に機械を配備して実用に向けた実験を開始しました。このとき使われたのが、いわゆる発光切手です。

 これと併行して、同年、郵政省は日本電気、東芝、日立の3社に郵便番号の自動読み取りについての研究を委託していましたが、それに対する東芝の報告書の中に、切手に発行印刷するのではなく、切手の一定の部分を一定の色にしておくことで切手を検知するシステムが提案されていました。

 当時の郵政省にとって、発行切手の実用化に向けての大きな障害の一つが、通常の切手より1割程度割高になるという製造コストの問題でした。このため、郵政省は東芝に対して「切手の色、濃淡による検出」をいう課題の研究を委託。これを受けて、東芝の中央研究所では、切手のマージンの白地の中に鮮明な色の印面を作り、その部分をレンズおよびスリット(すき間)で受光して、検地するというシステムを開発します。

 当初、東芝は、検知部分として切手の印面に水平で幅0.5ミリ以上の3本の検知線を入れるという方式を提案しましたが、これではデザイン上の制約が大きすぎる上、切手が横に貼られた封筒には対応できないため、最終的に、検知部分の枠取りをするという方式が採用されています。

 こうして、1966年10月、東芝は色検知式の自動取り揃え押印機TC-1型(機能実験機)を製作。この実験機は翌1967年6月から川崎局(神奈川県)に設置され、実際の郵便による実験が行われることになりました。

 今回ご紹介の全国交通安全運動の切手は、この実験開始に先立つ5月22日に、色検知切手の第1号として発行されたもので、その後、同年7月1日に発行された“きく”の通常15円切手を皮切りとした色検知方式対応の切手の先駆けとなったわけです。


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