内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手に見るソウルと韓国:河回の仮面劇
2015-12-27 Sun 10:19
 ご報告が遅くなりましたが、『東洋経済日報』12月11日号が発行されました。僕の月一連載「切手に見るソウルと韓国」は、今回は、ソウルで覆面を着用しているデモ参加者に対して朴槿恵大統領が「“IS(イスラム国)”のようだ」と評し、覆面着用を規制する“覆面禁止法”の問題が話題となっていた時期の発行でしたので、この切手をご紹介しました。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・河回面(1967)

 これは、1967年に発行された民俗シリーズ第1集のうち、河回の仮面を取り上げた1枚です。

 宗教的・呪術的な意味を込め仮面をつけて舞を舞うということは、洋の東西を問わず、古代社会で自然発生的に行われてきましたが、朝鮮半島では新石器時代の貝面や土面が出土しており、三国時代以降は大陸の影響を受けて発達したとされています。『日本書紀』にも、612年に百済出身の味摩之が中国南部の呉の国で学んだ伎楽(面をかぶって舞う舞踏劇で、獅子舞の原型ともいわれる)を日本に伝えたとの記述があります。

 韓国の伝統芸能として最も有名な仮面劇といえば、なんといっても、河回(慶尚北道安東市)の仮面劇でしょう。

 伝承によれば、高麗時代の中期、河回に移住してきた若者、許道令は神の命を受けて誰にも見られずに仮面を作ることになったものの、彼に思いを寄せた女性が命令に背いて面打ちの作業場を覗いたため、許は絶命してしまいました。その後、彼の霊を慰めるため、仮面劇が行われるようになったとされています。

 朝鮮王朝時代、河回の仮面劇は、神を楽しませ、五穀豊穣と厄除けを願うための演劇として、年に2回(陰暦1月15日と陰暦4月8日)に行われていました。

 河回の仮面劇は、そもそも、神(実際には村人)を楽しませることが目的でしたから、素朴な踊りと衣装を使いながらもユーモラスな内容となっており、①チュジ(悪霊を追い払う獅子)の物語、② 白丁(食肉加工などに従事していた最下層の被差別民)の物語、③ハルミ(老婆)の物語、④破戒僧の物語、⑤両班とソンビ(学者)の物語、の5幕で構成されており、劇全体としては、上流階級に対する喜劇的な風刺と批判が中心になっています。

 左右対称の均整のとれた人工美を重んじるとされる韓国人ですが(美容整形が多いのもそのためです)、仮面に関しては、喜怒哀楽の表情が際立つように左右非対称で作られており、特に、河回の面では、両班、ソンビ(学識があって高潔な人格者)、僧侶、白丁(朝鮮王朝時代の被差別民)などは、顔の本体と分離した顎が紐で結びつけられており、実際に台詞を話すとき、あごの動きがリアルに見える仕組になっているのが特徴です。このうち、最も有名な両班の面は、頭をのけぞると大笑いする顔に、下げると怒った表情になるようにデザインされています。

 怒りの表情も表現できる面であるなら、昨今の覆面デモでも河回の両班の面をつけた参加者がいてもよさそうなものですが、報道されている写真や映像を見る限り、そうした人はほとんどいないようです。もっとも、デモというのは、一般に、顔を上げてシュプレヒコールを連呼するのが常ですから、その格好で両班の面が大笑いの顔になってしまっては格好がつかないということなのかもれません。

 今回ご紹介の切手は、河回の仮面(両班)を取り上げたモノとしては最初の1枚なのですが、河回の仮面劇は、日本統治時代の1928年の祭祀を最後に行われなくなっており、この切手が発行された時点では途絶状態になっていました。このため、1973年、地元の若者たちが仮面劇の再生を目指して保存会を作り、唯一の伝統劇保存者であったイ・チャンヒの指導を受けて、ようやく1977年に復活させ、1980年に国の重要無形文化財第69号指定されたという経緯があります。ちなみに、この間の1978年に発行の世宗文化会館開館の記念切手には、伝統芸能として復活したばかりの河回の仮面も描かれています。


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