内藤陽介 Yosuke NAITO
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 岩のドームの郵便学(37)
2016-01-13 Wed 10:38
 ご報告が大変遅くなりましたが、『本のメルマガ』595号が先月25日に配信となりました。僕の連載「岩のドームの郵便学」では、今回は、1980年代初頭のモロッコについて取りあげました。その中から、この1枚をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      モロッコ・アラブ首脳会議(1981)

 これは、1981年11月25日、モロッコで発行された“第12回アラブ首脳会議”の記念切手です。

 1981年11月25-27日、モロッコのフェズで開催された第12回アラブ首脳会議の会期初日に、1978年に発行の“パレスチナにおける自由の戦士と殉難者の遺家族の福祉のために”の切手に記念の文字を加刷して発行された切手です。

 ハサン2世のモロッコ王制は対外強硬路線を取ることで国民の支持を集めていたため、パレスチナと西サハラを重要な政治的シンボルとして機能させており、その一環として、1978年には、今回ご紹介の切手の台切手となった“パレスチナにおける自由の戦士と殉難者の遺家族の福祉のために”の切手を発行しました。ただし、その後、1979-80年にはパレスチナ関連の切手は発行されておらず、やはり、アラブ首脳会議の開催国として、パレスチナ問題の討議を通じて自らの存在感をアピールしようという意図が、今回の記念切手からも垣間見えるといってよいでしょう。

 ところが、結論から言うと、第12回アラブ首脳会議は中途での閉会を余儀なくされるという、惨憺たる失敗に終わります。

 そもそもの発端は、会議の開催に先立ち、1981年8月7日、サウジアラビアの第1副首相だったファハド皇太子が発表した“中東和平8項目”にありました。

 ファハド提案の骨子は、①ヨルダン川西岸とガザ地区に東エルサレムを首都とするパレスチナ人国家を建設する、②パレスチナ以外の難民には帰還または賠償を行う、③この地域のいかなる国家にも平和に存続する権利を保証する、というもので、アラブ諸国はおおむねこれに賛同しましたが、アラブ連盟として、イスラエルとの単独和平に踏み切ったエジプトを“裏切り者”として1979年3月に加盟資格停止処分としてまだ日も浅いうちに、“いかなる国家にも平和に存続する権利を保証する”との一項により、事実上、イスラエルの存在を承認してしまうことには、抵抗感を示す国も少なくなくありませんでした。

 さらに、首脳会議を控えた10月6日、キャンプ・デービット合意の主役であったエジプト大統領のサダトが、第4次中東戦争の戦勝8周年記念式典で軍事パレードを閲兵中、イスラム過激派組織、ジハード団のハリド・イスランブリによって暗殺される事件が発生します。

 事件を起こしたジハード団は、1980年にエジプト国内の小規模な過激派組織が合同したことで結成され、イスラム法(シャリーア)以外の法を施行する為政者はムスリム(イスラム教徒)であろうと背教者であり、ジハードによって排除せねばならないと主張していました。当然、彼らの価値観からすると、シナイ半島奪還のためとはいえ、米国に接近し、イスラエルと和平を結んだサダトを“背教者”であり、非難されるべき存在だったわけですが、当時のイスラム過激派組織のターゲットが、外国人や異教徒ではなく、自国の不正な(ムスリムの)為政者に向いていたという点は記憶にとどめておいてよいでしょう。

 このため、エジプト以外のアラブ諸国でも、エジプトの事件に影響を受けた過激派組織によるテロの危険性が高まったと考えるのが当然で、国内の体制引き締めを優先させるという必要もあって、11月25日からのアラブ首脳会議には、そもそも、リビア、シリア、アルジェリア、イラク、スーダン、チュニジア、オマーンの各国が欠席します。

 さらに、会議での中心的な議題となったファハド提案についても、イスラエルの存在を事実上承認するという点で参加各国の合意が得られず、会議は途中で流会となってしまいました。

 ところが、翌1982年、レバノン内戦が激化するなかで、事態は大きく動くことになります。

 1975年以来、内戦状態になっていたレバノンでは、PLOが南部を拠点にイスラエル北部への越境攻撃を展開していました。このため、1982年6月、イスラエルはレバノン南部に点在するPLOの拠点を潰滅させ、彼らの対イスラエル攻撃を断念させるべく、“ガリラヤの平和”作戦を敢行。レバノ領内に侵攻し、7週間にわたってベイルートを包囲します。

 この結果、同年8月末までに、PLOはベイルートを撤退し、その本部はテュニスへと移転。米仏伊の多国籍軍がパレスチナ人ならびにムスリム市民保護のためベイルートに展開したほか、レバノン南部はイスラエルの占領下に置かれることになりました。

 PLOのベイルート撤退を受けて、9月1日、米国のレーガン大統領は“新たな出発”と題するパレスチナ和平案を提案し。レーガン提案の内容は、キャンプ・デーヴィッド合意をほぼ周到するものでしたが、占領地からのイスラエルの全面撤退とエルサレムの分割を明記していたこともあって、イスラエルは即座にこれを拒否します。

 一方、アラブ側も9月6-9日、あらためてフェズでの第12回首脳会議をやりなおし、ファハド提案の内容をほぼ踏襲した“フェズ提案”をアラブの平和統一案として採択しました。その内容は以下の通りです。

 (1)1967年に占領されたアラブ・エルサレムを含むアラブの全占領地からのイスラエルの撤退
 (2)1967年以降のアラブ占領地内におけるイスラエルの入植地の撤去
 (3)聖地におけるあらゆる信仰及び宗教的儀式の自由の保障
 (4)パレスチナ人の唯一正当な代表であるPLO指導下におけるパレスチナ人民の自決権及び永久に消滅することのない不可譲の民族的権利行使の確認並びに祖国への帰還を希望しないすべての者に対する補償
 (5)西岸及びガザ地区を数か月を限度とする暫定期間、国連の監督下に置くこと
 (6)エルサレムを首都とする独立パレスチナ国家の建設
 (7)国連安保理は、独立パレスチナ国家を含むすべての域内国家の平和を保障すること
 (8)国連安保理は、上記諸原則の尊重を保障すること

 フェズ提案は、(国連安保理が)すべての域内国家の平和を保障することとして、イスラエル国家の存在を事実上承認するもので、パレスチナ独立国家樹立などの基本的な主張は崩していないものの、レーガン提案を正面から否定してはおらず、和平への期待を高めるものでした。

 しかし、イスラエルは、こうした一連の動きを一蹴すべく、ベイルートに侵攻し、左派勢力の武装解除とPLO残存ゲリラの捜索に自ら着手。その過程で、9月16日から18日にかけて、少なくとも1000名以上の犠牲者を出したパレスチナ難民の大量虐殺事件が発生し、和平への期待は一挙にしぼんでいくことになります。


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