内藤陽介 Yosuke NAITO
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 “臺灣郵票”の復活なるか
2016-01-16 Sat 12:20
 台湾では、きょう(16日)、総統および立法院(国会)選挙の投開票が行われています。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      台湾・義民節(賽神豬)

 これは、2008年に台湾で発行された“義民節”の切手のうち、賽神豬を取り上げた1枚です。ちなみに、賽神豬は、義民節のメイン・イベントともいうべき行事で、太らせた豚の重さを競い、順位を付けた後に豚を屠って飾りつけをし、山車に載せて町を練り歩くというものです。

 1949年、台湾に逃げ込んだ中国国民政府(以下、国府)は“大陸反攻”を呼号し、みずからが中国を代表する正統政権であると主張していましたが、この“中国”政府は、福建省沿岸の小島を除くと、中央政府と地方政府である台湾省政府の管轄が同じという異常な構造になっていました。

 このため、台北への“遷都”早々、国府は台湾での“地方自治”を実施し、県・市長を公選として県議会を開設したものの、省主席は官選という体裁を取っていました。これは、中華民国総統(蒋介石)が住民によって直接選挙されないにも関わらず、台湾省主席が公選されるということになると、台湾の人々にとっては省主席が総統よりも権威をもつことになるためです。“中央”と“地方”がほぼ同じサイズである以上、蒋介石としては台湾における自己の権力基盤を維持するためにも、そうした事態は何としても避けなければならなりませんでした。

 こうした異常事態は、1996年3月23日に住民の直接投票による総統選挙(李登輝が当選)が実施されるとその根拠を失い、1997年の憲法改正では地方政府としての台湾省の機能が停止される(台湾の本土化)ことで、とりあえずは解消されます。

 こうした経緯を経て2000年の総統選挙で民主進歩党(民進党)の陳水扁が当選すると、2002年以降、中国ないしは中華の名称を台湾へと置き換え、台湾の存在を“中国の一部”から“中国(大陸)とは別個の地”に代えることを目標とする台湾正名運動が本格化することになります。

 その一環として、陳水扁政権2期目の2007年2月12日、台湾の郵政機関である中華郵政公司が台湾郵政公司に社名変更された。そして、これに伴い、同年2月28日に発行の“二・二八国家記念館”の記念切手から、切手上の国名表記も、それまでの“中華民國郵票/REPUBLIC OF CHINA”から“臺灣/TAIWAN”に変更されています。

 なお、“臺灣”表示の最初の切手の題材が、外省人による本省人抑圧の象徴ともいうべき二・二八事件を主題とする“二・二八国家記念館”であった背景には、野党・国民党の旧悪を指摘し、政権基盤を強化しようという政治的な思惑があったことは言うまでもありません。じっさい、同記念館の開館記念式典において、陳水扁は「政府はこれまで(二・二八事件の)被害者や家族に補償する一方、首謀者の責任は追及してこなかった。国民党は責任を台湾における共産党に押し付け、最近は役人の抑圧が民衆の反逆を引き起こしたと説明しているがこれも責任回避だ」と指摘し、国民党を批判しています。

 こうして発行されることになった“臺灣”表示の切手でしたが、“二・二八国家記念館”からおよそ1年後の2008年3月22日の総統選挙で、台湾独立を否定し、“中華民国”体制の現状維持を主張する国民党の馬英九が与党民進党の謝長廷・元行政院長を破って当選すると、再び見直しが検討されることになります。

 すでに、選挙期間中から馬は、切手上の国名表記を“臺灣”から“中華民國”に戻すことを公約の一つとして掲げていましたが、当選後は、5月20日の就任式にあわせて発行される予定だった“中華民國第十二代総統副総統就職紀念”の原画で、切手の国名表示が“臺灣”となっていたことに対して早速クレームをつけています。

 すなわち、就任式に先立つ4月8日、切手の原画を見せられた次期総統の馬と次期副総統の蕭萬長は、2007年の中華郵政公司から台湾郵政公司への社名変更に際しては、同公司設置の根拠法である「中華郵政公司条例」が改正されておらず、“台湾(郵政)”の名称で郵便事業を行うには疑義があると指摘。これを受けて、台湾郵政は就任式にあわせての切手発行を見合わせるとともに、馬・蕭とも相談の上、後日、“中華民國”表示の切手を発行することで両者の了解を得ました。

 一方、行政院発言人の謝志偉は「関係法令によれば、切手の発行には、台湾郵政が行政院に図案を送り査定を受ける必要がある。現時点では図案はまだ行政院に届けられておらず、図案が届けられてから行政院長の張俊雄が台湾郵政の文書や状況などから判断して最終的に決裁することになる」との趣旨のコメントを発表しましたが、同時に「彼らは選挙前には絶えず“台湾”と言っていたのに、選挙が終わった途端に“台湾”を用済みと捨てている。馬英九のこのようなやり方は、与野党両方の支持層をいたく悲しませるものだ」として馬・蕭に対する不快感をあらわにしています。

 結局、切手上の国名表記問題に関しては、新政権発足後の5月28日、交通部は、すでに“臺灣/TAIWAN”表示での印刷を終えていた切手はそのまま発行するものの、8月1日に台湾郵政公司の取締役会を開いたうえで、中華郵政公司への社名の再変更を決議し、8月20日に発行の“義民節”の切手(今回ご紹介の切手です)から“中華民國郵票”表示を復活させると発表。問題となっていた“中華民國第十二代総統副総統就職紀念”の切手も、9月12日、“中華民国郵票”との国名表示を入れて発行するということで決着しました。ただし、復活した“中華民國郵票”表示の切手も、ローマ字での国名表示に関してはかつての“REPUBLIC OF CHINA”がそのまま復活したわけではなく、“REPUBLIC OF CHINA (TAIWAN)”として台湾の本土化という現実を反映したものとなっています。

 ところで、“中華民國郵票”表示が復活した最初の切手の題材が“義民節”であるという点は注目しておきたいところです。

 清朝の時代、臺灣では、大陸から派遣された官吏に抵抗する民衆蜂起が何度か発生。その際、身長との戦いで命を落とした人々は“義民”として、各地の義民廟に祀られました。そうした義民の祭祀は、もともと、客家系の人々の間では旧暦11月9日に行われていましたが、後に、中元節の“中元普渡(衆生を済度する行事)”に合わせて旧暦7月20日に行われるようになり、これが、改められ、現在の義民節となっています。したがって、大陸の支配に対する先住民の抵抗をたたえるお祭りとしての義民節の切手をあえて選んで“中華民國”表示の切手を復活させた背景には、“台湾”の独立傾向は何が何でも封じ込めようという、強固な意志が感じられます。

 さて、今回の選挙では、総統選挙は台湾独立志向の最大野党・民進党、蔡英文候補の当選が確実視されています。台湾の将来は台湾の人々の意思によって決められるべきですが、歴史的に見ると、台湾が“中国”の一部というという主張には全く根拠がなく、台湾では、歴史上、中国大陸と同一の切手が使われたことさえなかったことは、このブログでも繰り返しご説明している通りで、その意味では、ぜひ、新総統には“臺灣”切手を復活させていただきたいものです。
 

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