内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
 映画『サウルの息子』公開
2016-01-23 Sat 11:34
 昨年(2015年)の第68回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品で、アウシュビッツ強制収容所を舞台に、ユダヤ人同胞の死体処理に従事するハンガリー出身のユダヤ人を描いた『サウルの息子』が、きょう(23日)から公開されます。というわけで、今日はこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      アウシュヴィッツ・叛乱跡地絵葉書

 これは、第二次大戦後の1948年、旧アウシュヴィッツ収容所跡を利用して開設されたオシフィエンチム博物館が制作した絵葉書で、アウシュヴィッツ収容所(ビルケナウ第2収容所)内で、ユダヤ人特務労働隊員(ゾンダーコマンド)がおこした叛乱後に作られた墓所が取り上げられています。なお、葉書のキャプションでは、叛乱は1943年に起こったとされていますが、ナチス・ドイツの強制収容所のうち、1943年に叛乱が起きたのは、トレブリンカ(8月2日)とソビブル(10月14日)であって、後述するように、映画の舞台ともなっているアウシュヴィッツでの叛乱は1944年の出来事です。

 もともと、アウシュヴィッツの収容所は主としてポーランド人の捕虜・政治犯を収容する施設として設けられ、その後、ドイツ占領地域のユダヤ人が移送されるようになります。ただし、ドイツの直接占領下にない枢軸国支配下のユダヤ人に関しては、1944年までは、かならずしも組織的な大量移送が行われていたわけではありません。

 第一次大戦でハプスブルク帝国が崩壊し、多くの領土を失ったハンガリーは、その失地回復を目指して枢軸陣営に加わっていました。ところが、1944年に入り、ドイツの敗色が濃厚になってくると、ハンガリー首相カーロイ・ミクローシュは極秘裏に連合国と休戦交渉を行ったものの、3月8日、これが露見。このため、同月19日、ドイツ軍はハンガリーを占領し、カーロイはトルコ大使館に亡命します。

 これに伴い、それまで移送を免れていたハンガリーのユダヤ人もアウシュヴィッツに送られることになり、ビルケナウでは5月までに本線から監視塔下の“死の門”まで至る引き込み線が作られました。この引き込み線を使って、ハンガリーから移送されてきたユダヤ人の第1・2便が到着したのが1944年5月2日のことで、その日のうちに、2698人がガス室で処刑されています。その後も、ハンガリーからアウシュヴィッツへの移送列車は1日平均4便が運行され、7月9日までに43万7402人のユダヤ系ハンガリー人がアウシュヴィッツに送られました。

 以前からの地域に加え、新たにハンガリーからも大量のユダヤ人が移送されてきたことで、アウシュヴィッツはフル稼働でユダヤ人の虐殺を進め、映画『サウルの息子』の主人公サウルのように、移送されてきたユダヤ人の中から選抜され、収容所側の補助業務を行うゾンダーコマンドも昼夜を分かたず、クレマトリウム(火葬場)での遺体の処理作業に追われる日々が続くことになります。

 しかし、さすがに秋口になると、ハンガリーから移送されてくるユダヤ人の数も少なくなってきました。これに対して、収容所に移送され、虐殺されるユダヤ人の数が減少すれば、いずれは自分たちが殺されることは明白と考えたゾンダーコマンドの一部は、座して死を待つより、収容所に対して叛乱を起こす途を選びました。この叛乱が、映画の一つの重要な題材となるわけです。

 さて、叛乱側は、遺体の処理には直接かかわっていなかった女性収容者が工場から火薬を盗み出すなどして準備を進めた後、10月7日、特務労働隊員はクレマトリウムIVで蜂起。警備にあたっていた親衛隊3名を殺害し、クレマトリウムの施設を破壊しました。

 この混乱に乗じて、数百名の収容者が脱走しましたが、叛乱はすぐに鎮圧され、その多くは捕えられ、殺されます。また、特務労働隊員は全員が殺され、火薬を持ち込んだ女性収容者4名は1945年1月6日、見せしめのため、収容者の見ている前で公開絞首刑となりました。その中のひとり、23歳のローザ・ロバータは、刑の執行に際して「強くなりましょう!勇気をもちましょう!」と叫んだと伝えられています。ちなみに、ビルケナウを含むアウシュヴィッツの収容所群は、ソ連軍により解放されたのは、それからわずか20日後、1月27日のことでした。

 なお、このあたりの事情については、拙著『アウシュヴィッツの手紙』でも、当時の郵便物や絵葉書などを使ってご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


 ★★★ 講座のご案内 ★★★

 2月9日(火)から、毎月第2火曜の19時より、東京・竹橋の毎日文化センターで新講座「宗教で読む国際ニュース」がスタートします。都心で平日夜のコースですので、ぜひ、お勤め帰りに遊びに来てください。詳細は、こちらをご覧いただけると幸いです。


 ★★★ 内藤陽介の新刊  『ペニー・ブラック物語』 のご案内 ★★★ 

       ペニーブラック表紙 2350円+税

 【出版元より】
 若く美しい女王の横顔に恋しよう!
 世界最初の切手
 欲しくないですか/知りたくないですか

 世界最初の切手“ペニー・ブラック”…名前は聞いたことがあっても、詳しくは知らないという収集家も多いはず。本書はペニー・ブラックとその背景にある歴史物語を豊富なビジュアル図版でわかりやすく解説。これからペニー・ブラックを手に入れたい人向けに、入手のポイントなどを説明した収集ガイドもついた充実の内容です。

 発売元の特設サイトはこちら。ページのサンプルもご覧いただけます。


 ★★★ 内藤陽介の新刊  『アウシュヴィッツの手紙』 のご案内 ★★★ 

       アウシュヴィッツの手紙・表紙 2000円+税

 【出版元より】
 アウシュヴィッツ強制収容所の実態を、主に収容者の手紙の解析を通して明らかにする郵便学の成果! 手紙以外にも様々なポスタルメディア(郵便資料)から、意外に知られていない収容所の歴史をわかりやすく解説。

 出版元のサイトはこちら。各書店へのリンクもあります。

 インターネット放送「チャンネルくらら」にて、本書の内容をご紹介しております。よろしかったら、こちらをクリックしたご覧ください。


 ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★

 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインよろしくポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。
スポンサーサイト

別窓 | ポーランド | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<< 切手に見るソウルと韓国:申年の年賀状と切手 | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  49歳になりました。>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/