内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:梅にウグイス
2016-02-04 Thu 11:50
 公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2016年2月号ができあがりました。今回は立春(今日ですな)の時期に合わせて、僕の連載「切手歳時記」も、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      鳥切手・うぐいす

 これは、1964年2月10日に発行された鳥切手の“うぐいす”です。

 ウグイスといえば我々の感覚では“ホーホケキョ”と鳴くものと相場が決まっていますが、万葉の人々はその鳴き声を“ウーウグピ”と聞いていたようです。

 もともと、大和言葉では、鳥の名前には鳴き声にスをつけるという命名法があり(その典型的な例がカラス)、ウグイスの名前も、そのルールに従って、万葉仮名では“宇具比須”と書かれていました。ちなみに、当時の“比”の字の発音は、ピとビの中間のような音で、それが後にウグヒス、さらにウグイスとなったのだといわれています。

  一方、漢字の鶯は、中国語では、日本語でいうウグイスとは全く別種の鳥である“コウライウグイス”を意味していますが、この鳥は日本には棲息していませんでした。

 このため、中国大陸ではありふれた鳥である“鶯”は漢詩にもしばしば登場するものの、そのままでは日本語には訳しようがありません。

 そこで、杜牧の『江南春』冒頭の一節「千里鶯啼いて緑紅に映ず」を持ち出すまでもなく、“鶯”が春の訪れを告げる鳥として漢詩に詠まれていることをふまえ、当時の日本人は“鶯”をあえて自分たちにとって馴染みのある“ウグイス”と訳しました。これが、ウグイスを鶯と書くようになった始まりで、万葉集の時代には、宇具比須と鶯の表記が混在しています。

 ところで、ウグイスと言えばやはり梅を思い浮かべる人も多いとおもわれます。ただし、しばしば誤解されがちなことですが、梅にウグイスの組み合わせは、春の訪れを告げる鳥と花を組み合わせた吉祥のシンボルともいうべきもので、天然自然の現象としてウグイスが梅の木を好むということではありません。

 すでに万葉集の中には、「梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声」のように、梅とウグイスを組み合わせたものもあり、両者の組み合わせが古くから日本人に親しまれてきたことがわかるのですが、季節の風流譚としては、僕は、『大鏡』に記されている“鶯宿梅”のエピソードを挙げたいですね。

 村上帝の御世(946-67)、帝が愛でておられた清涼殿前の梅が枯れたことがありました。臣下の者たちが八方手をつくして新たな梅を探したところ、西の京のとある家の庭で立派な紅梅を見つけたので、これを掘り起こして御所に運ぶことにしました。すると、作業をしていた者たちに、家主からの言伝として、梅の木の献上にあたっては短冊をひとつ枝に結びつけてほしいという要望がありました。

 御所に運び込まれた紅梅を一目見るなりお気に召した帝は、すぐに枝の短冊に気づかれ、中を開いたところ、「勅なればいともかしこし 鶯の 宿はと問はばいかに答へむ(勅命とあれば畏れ多いことで、謹んでお受けいたしますが、毎春この木に訪れる鶯が、私の宿はどうしたのかと尋ねたら、どうに答えたらよいのでしょう)」との歌が書かれていました。

 この歌に深く感じ入った帝が改めて、紅梅の元の持ち主を問うと、紀貫之の娘、紀内侍が父の形見として梅を大切に育てていたことがわかったため、帝は自らの行為を深く恥じ、この木を鶯宿梅と名付けて紀内侍に返した伝えられています。

 その後、紀貫之の邸宅跡には、応永25(1418)年正月、将軍・足利義満により相国寺の塔頭として林光院が建立され、鶯宿梅は林光院のシンボルとなりました。その幹は何度か枯れてしまいましたが、そのたびに、接ぎ木によって受け継がれています。

 現在、鶯宿梅の花は36枚の花弁を有しており、つぼみの間は真紅、開花後は淡紅に変じ、最後に純白へと移りゆく変化が楽しめます。そこへ実際にウグイスが飛んできて、今回ご紹介の切手のような光景が拝める確率は、おそらく、宝くじ以下でしょうが、そうであればこそ、この組み合わせのありがたみもいや増すというものですな。


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