内藤陽介 Yosuke NAITO
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 泰国郵便学(41)
2016-02-28 Sun 14:47
 ご報告が遅くなりましたが、財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第50巻第1号ができあがりました。そこで、僕の連載「泰国郵便学」の中から、この切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      タイ・蒟醤  

 これは、1973年6月15日に発行された伝統工芸シリーズのうち、ラーンナー地方の伝統工芸である蒟醤(キンマ)の漆器の制作風景を取り上げた2バーツ75サタン切手です。

 タイ語では漆器のことを“クルアン・クーン”といいますが、これはもともと、タイ・クーン族の民族名が語源であるといわれています。

 1558年から1774年まで、ラーンナー地方はビルマの占領下に置かれましたが、1775年、ラムパーンの国主、カーウィラは叔父のチャンバーンとともにビルマ支配に抵抗し、トンブリー王朝に帰順。バンコクでの王朝交代に伴い、1782年にはラッタナコーシン王朝のラーマ1世によりチェンマイ王に叙せられました。ただし、この時点では都市としてのチェンマイは依然としてビルマの支配下にあったため、カーウィラはビルマとの戦闘を継続し、1796年にチェンマイを奪還しました。

 以後、カーウィラは戦乱によって荒廃したチェンマイの再建に乗り出し、ビルマとの国境に近いチャン地方から多くの職人を招きましたが、その過程で、ミャンマー北部、チェントゥンのクーン川流域に住んでいたタイ・クーン族の漆器職人も招かれ、チェンマイの城壁南側に集団で住むようになりました。

 クーン族の作る漆器は、竹(虫除けのため、台所の囲炉裏の上で1ヶ月以上燻蒸したもの)を裂いてテープ状にしたものを編んで胎を作り、その上に紙を貼ってから、黒漆に粒子の細かな土や灰を混ぜた下地を2回以上塗るという工程です。下地を塗る道具としては、かつては布が使われていましたが、現在では、切手のように刷毛を使うこともあるようです。

 下地を乾燥させた状態で完了となる場合もありますが、特にラーンナー地方に特徴的な蒟醤細工の場合は、下地を乾燥させたうえで、植物の連続文様や空想上の動物などを線彫りし、その凹みに色漆を充填し、乾いたのちに研ぎ出して完成となります。なお、日本語の蒟醤は“檳榔の実(マーク)を噛む(キン)”を意味するタイ語からの転訛で、客人に勧める際に檳榔を入れていた漆器の箱が朱印船などで日本に伝来した際に、ラーンナーの漆器そのものを指す語として用いられるようになりました。

 今回ご紹介の切手では、左側の男性が竹を編んで胎を作り、右側の女性が下地を縫っている光景が描かれています。切手下部には“漆器制作”の表示もありますが、肝心の蒟醤細工の完成品は、画面の左奥に小さく描かれているだけで、少しわかりづらいかもしれませんので、下に、その部分をトリミングした画像を貼っておきました。

       タイ・蒟醤(部分)

 なお、今回ご紹介の切手を含め、1973年の伝統工芸シリーズに取り上げられている工芸品は、いずれも、チェンマイを中心とした東北タイを想起させる内容となっています。1971年の自己クーデター後のタノーム・キッティカチョーン政権は、共産中国の脅威に対抗するとの観点から北部ならびに東北部を重視する姿勢を示していましたが、このシリーズの題材選択もまた、そうした政治的文脈に沿ったものだったとみることができましょう。
 

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