内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:花粉症の生みの親
2016-03-09 Wed 09:56
 公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2016年3月号ができあがりました。今回はスギ花粉症の時期に合わせて、僕の連載「切手歳時記」も、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      植林(産業図案)

 これは、1949年5月10日に発行された産業図案切手・植林の20円切手です。

 人類が花粉症に悩まされるようになったのは古代エジプト文明の時代にさかのぼるともいわれていますが、日本で患者が激増したのは1960年代以降のことです。ちなみに、日本におけるスギ花粉症についての最初の報告となる論文「栃木県日光地方におけるスギ花粉症 Japanese Cedar Pollinosis の発見」を斉藤洋三博士が発表したのは1963年のことでした。

 この時期、日本でスギ花粉症が急増した原因としては、一般に、農水省が推奨してきた大規模スギ植林が挙げられています。

 第二次大戦後、増大するばかりの木材需要を賄うために、農水省は林業の拡大と造林に力を注ぎましたが、その一環として、1948年には、「荒れた国土を平和な緑で」のスローガンの下、全国緑化運動が大々的に展開され、そのためのキャンペーン切手も発行されています。さらに、1949年には、当時の重要産業で働く人々を題材とした普通切手、“産業図案切手”の一枚として、今回ご紹介の植林切手も発行されました。

 林業を拡大しようという農水省の政策自体は、当時の社会情勢に照らして大いに理のあることだったわけですが、その際、成長率が高く、建材としての価値が高いスギやヒノキの植林が大々的に奨励されたため、十数年を経て、スギ花粉の飛散量も爆発的に増加。ちょうどそのタイミングで、わが国は経済大国となり、木材についても、国内で調達するよりも、外国からの質が良くて安い輸入品が優先されるようになり、大量に植えたスギの伐採や間伐もしだいに停滞していきました。そうなると、スギは減らず、花粉だけがどんどん増えていく結果になります。

 今回ご紹介の切手をよく見てみると、植えられている苗木は明らかに針葉樹ですから、十中八九、スギかヒノキではないかと思います。

 切手の中で実際に植林作業に汗を流している男たちは、自分たちの植えたスギやヒノキが豊かな日本を作り、子や孫の幸せにつながると固く信じていたのでしょうし、すくなくとも、現在の僕たちが、毎年、花粉症に悩むことになるとは夢にも思わなかったにちがいありません。

 歴史の皮肉を感じさせる切手を一枚挙げろと言われたら、毎年この時期、花粉症に悩まされている僕の脳裏には、先の大戦中に発行された戦意高揚のプロパガンダ切手よりも、まずは、この植林の切手が浮かんでくるのです。

 ちなみに、いまでこそ、いろいろと良い薬もありますし、さまざまな対策も知られるようになりましたが、そうではなかった昭和の時代の花粉症は本当につらいものでした。僕自身、鼻水がひどいときには、一日にティッシュペーパーを一箱使い切ってしまうほどで(若い男が“ティッシュペーパーを大量に使う”というと妙な誤解を招きかねないのですが、僕の場合、用途は、あくまでも鼻をかむためだったことはあらためて強調しておきます)、その結果、鼻の下も赤くはれ上がってしまって、とても髭を剃れるような状態ではありませんでした。

 幸い、大学生になると、1月末か2月の初めに学年末の試験が終わると4月までは学校に行く必要はなくなりましたので、2年生になる前の春先は、そのまま髭を剃らずにいました。新年度になっても、最初の頃は花粉症が収まりませんから、そのまま学校に行くと、友人たちから「なかなか髭が似合うじゃないか」と誉めてくれました。まぁ、お世辞だったのでしょうが、くどくどと事情を説明するのも億劫でしたし、そのまま30年近く、口髭が定着して現在に至るという次第でございます。


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