内藤陽介 Yosuke NAITO
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 エリ・ウィーゼル、亡くなる
2016-07-04 Mon 09:41
 アウシュヴィッツを生き延び、ホロコーストを題材にした著作を多数発表したことで、1986年にノーベル平和賞を受賞した米国籍の作家、エリ・ウィーゼル氏が、2日(米国時間)、ニューヨークの自宅で亡くなりました。享年87。謹んでご冥福をお祈りします。というわけで、きょうは、アウシュヴィッツ関連のネタの中から、この1点です。(画像はクリックで拡大されます)

      モノヴィッツ・6条タイプ

 これは、1944年9月30日、アウシュヴィッツ収容所のうち、モノヴィッツ(ポーランド語名モノビツェ)に置かれていた第3収容所の収容者が差し出したカバーです。第二次大戦中のアウシュヴィッツ収容所関連の郵便物には、“AUSCHWITZ(OBERSCHLES)”と表示された郵便印が押されていますが、局名の後ろには1から3までの番号が振られています。このうち、モノヴィッツの第3収容所関連の郵便物には、今回ご紹介のカバーに見られるように、“AUSCHWITZ(OBERSCHLES)3”の消印が使用されています。

 アウシュヴィッツ収容所のうち、ビルケナウの第2収容所がユダヤ人等の虐殺に力点を置いていた“絶滅収容所”の性格が強かったのに対して、第1収容所から東に7キロほどの地点に、イーゲー・ファルベン社(以下、IGファルベン)の工場に隣接して設けられたモノヴィッツの第3収容所は、収容者の安価な労働力を工場に動員するための施設でした。

 IGファルベンは、第一次大戦後の1925年、ドイツの6大化学工業会社であるバーディッシュ・アニリン・ウント・ソーダ工業(現バスフ=BASF)、フリードリヒ・バイエル染料(現バイエル)、アグファ(現アグファ・ゲバルトの前身)、ワイラー・テル・メール化学、グリースハイム・エレクトロン化学工業、ヘキスト染料(現ヘキスト)の合同により生まれたトラストで、社名のIGは“利益共同体”の意味です。本社はフランクフルト・アム・マインにあり、資本金は11億マルクでした。

 ヒトラー政権が誕生する以前の1932年頃からナチスに接近し、ヒトラーが政権を掌握した後は、4ヵ年計画庁に技術者として多くの人材を送り込み、政権との関係を強化。1939年の第二次大戦勃発以降は戦争にも積極的に協力し、ユダヤ人の大量虐殺に使われた毒ガス、ツィクロンBは子会社のデゲッシュがパテントを有していました。

 IGファルベンとアウシュヴィッツとの密接な関係は、1941年1月、同社の役員だったオットー・アンブロスが現地を視察し、アウシュヴィッツ東郊のソワ川とヴィスワ川の合流地点に、700万マルクを投じて年間3万トンの生産能力を有する合成ゴム工場BUNAを建設することを決定したところから始まります。ちなみに、アウシュヴィッツ第1収容所でツィクロンBの人体実験が行われたのは、1941年9月のことでした。

 工場の建設は、私企業としてのIGファルベンの経済活動として進められましたが、ドイツ政府はこの計画を積極的に支援し、該当する土地から住民を退去させること、第1収容所から8000-1万2000人の労働者・作業員を派遣することを決定。3月下旬には、IGファルベンと収容所を管理していた親衛隊との間で協議が行われ、IGファルベンが未熟練労働者1人につき3マルク、熟練労働者1人につき4マルクを支払うこと、収容者の労働時間についても、夏季は1日10-11時間、冬季は1日9時間とすることが決められました。

 これを受けて、1941年4月7日、アウシュヴィッツ第1収容所の収容者たちを動員してのBUNAの建設作業が始まり、1942-44年にかけて、IGファルベンのほか、クルップやシーメンスなど、ドイツを代表する大企業の製造プラントなどに付随して、大小あわせて40の収容施設が作られ、多くの収容者が過酷な労働に従事させられました。これが、モノヴィッツの第3収容所です。

 第3収容所と隣接するプラント施設は、連合国の爆撃目標になったことに加え、1945年1月の解放後、ソ連軍によって破壊されたため、現在、その跡は残っていません。ちなみに、戦後、ナチスの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判では「人道に対する罪」を理由に、IGファルベンの役員や技術者など被告の24人全員が有罪となり、1948年には戦犯企業としてのIGファルベンは解体されています。

 なお、アウシュヴィッツの収容者が差し出した郵便物と、そこからみえてくる収容所内の生活については、拙著『アウシュヴィッツの手紙』でもいろいろご紹介しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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